第26話 ダンジョン化能力

「わぁ! ドラゴンだぁあ!!!」


「ちょっ、雛香さん!? 危ないですよ!」


 ドラゴンに向かって走り出そうとする雛香を里楽さんが止める。


「飛鳥さんも! 早くあいつを引っ込めてください!」


 おうおう、里楽さんがめちゃくちゃ慌ててる。

 なんか凄い珍しいものを見た気がするよ。


「Army! 軍を! いや! 姉さんに連絡を!」


 あ、まずい!


「フィンさんストップ! レインさんを呼ぶ必要はないです」


 流石に警察……軍とか呼ばれちゃったら困る。


「里楽さんもちゃんと良く見て、動いてないでしょ」


「えっ? いえ、でも……なんか息をしてますが……」


 確かにドラゴンはふーふーと呼吸をしている。


「でも、こっちを全然見たりしないでしょ? 大丈夫、ちゃんと待機モードになってるから」


「待機モード……」


 まぁ、簡単に言えば戦闘しないモードってことだよ。


「それに仮に戦闘モードにしても、ダンジョンの外……さっきの光ってた範囲から外には出れないから安心して」


 あくまでもこいつはダンジョンの中の生き物だからね。


「な、なるほど……凄くリアルな人形……みたいなものですか?」


「うん、まぁ、そんな感じ」


 ついでに言うと、こいつはドラゴンのように見えるけど、実はドラゴンじゃなかったりする。


「あれ? ねぇ、お兄ちゃん、雛香たちも入れないよ」


「ああ、ちゃんと入場しないと入れないようになってるからね」


 雛香が何もない空間に手を伸ばしてペタペタしている。

 パントマイムで壁があるみたいな感じだけど、実際見えない壁があるんだよ。

 空間的には繋がっているけど、制限されているって言えばいいのかな?


「ごめんごめん、皆が見た目変わらないっていうから、ちょっと驚かせようと思ったんだよ」


 まぁ、想像以上に驚いちゃったけど。


「ふぅ……流石にびっくりしたよ」


「飛鳥さん……」


 里楽さんが呆れたような顔でこっちを見る。

 流石にドラゴンはやりすぎたかな?


「まぁ、こんな感じでダンジョン空間に指定すればモンスターを召喚とかもできるわけ」


 そして、ぱちんと指を鳴らすと、ドラゴンが一瞬にして消えていく。


「あれ! ドラゴン消えちゃった! 戦ってみたかったのに……」


 雛香はほんと怖いものなしだなぁ……


「ねぇ、お兄ちゃん、今度雛香のダンジョンにあれ追加して!」


「あー、いいけど……あれ、見た目だけでめちゃくちゃ弱いぞ?」


「えっ? でもドラゴンだよ!」


「いやまぁ、ドラゴンにもいろんな種類がいるからなぁ……しかも、あれ、実はドラゴン種じゃなく偽竜種……つまり偽物のドラゴンだし」


 簡単に言えば、見た目だけはドラゴンで中身のステータスは本物に比べたらめちゃくちゃ低いやつ。

 多分、今の雛香が戦っても勝てるくらいには弱い。


「えぇ……そうなんだぁ……でも、戦うのは楽しそうだからお願いね!」


 いや、雛香が望むなら追加してもいいけど……


「まぁ、お遊びはこのくらいにして、さっさと家の内装を整えようか」


 もともとは、そっちが目的だったんだし。

 もう一度、家に手を向ける。

 今度はさっきのモンスターの召喚なんかじゃなくて、家を整えるように魔力を込めて……


「うわぁ、家が光ってる」


「これはまた……凄いですね」


「……これだけでも十分驚けましたけどね」


 いや、わかるけど、やっぱりドラゴンに比べるとインパクトがね……偽竜だけど。


「うん、こんな感じ」


 大体できたので手を下ろす。


「とりあえず、入ろう……おっと、ダンジョン入場者として設定しないとね」


 この登録はスマホからの方が楽だ。

 スマホを取り出して、3人のIDを登録……これで良しっと。


「これで入れるはずだよ」


「あっ! ほんとだ! 壁がなくなった!」


 雛香が早速、家の中へ走っていく。


「雛香ちゃん、ちょっと待って!」


 フィンさんがそれを追いかけた。


「……飛鳥さん」


「うん? どうしたの里楽さん?」


 ひょっとしてまだ怒っている?


「飛鳥さんは入れるんですか? 以前ダンジョンには入れないとおっしゃってたはずですが」


「あ、あーあれね。ちょっと見てて」


 僕は歩みを進めて、範囲内に入る。この通り何の問題もない。


「……ひょっとして嘘でした?」


 里楽さんがじろりと僕を睨む。


「いやいや、嘘じゃないよ、ここは正確にはちゃんと繋がっている場所だからね、魔力供給的にも問題ないんだよ」


 僕が作ったダンジョン空間は本当に別空間になっちゃってるけど、こっちはちゃんと地続きだからね、途切れさせることなくて済むってわけ。


「なるほど……そういうことですか、では行きましょう」


 里楽さんは僕に背を向けて中へと入っていく。

 ひょっとして心配してくれたのかな?

 そう思いながら僕も中へと入った。



「うわぁ、さっきと全然違う!」


「まるでコテージみたいだ!」


 中へ入った雛香とフィンさんが早速中を物色していた。

 そこはさっきの内装とは打って変わって落ち着く空間に変わっていた。


「あれ! 電気がついているよ!」


「……確か電気は通ってなかったはずですが……」


 天井には簡単なライトが灯っている。


「それは魔法で灯してるんだよ」


 暗いままだと話しづらいからね。


「……柱の位置などもさっきと違ってますが……」


「それも、再構成した感じかな」


 同じなのは外観だけ、それ以外はほぼほぼ全て作り直したみたいな感じだね。


「……飛鳥さんがいれば内装工事が不要になりそうですね」


「まぁ……僕ができるのはダンジョンの中のことだけだけどね」


 ちなみに、ダンジョンの指定から解くと元に戻る。


「まぁ、とりあえず、皆、座ってて、コーヒーでも入れてくるよ」


「……水まで出るんですね」


 まぁ、それも魔法でちょいちょいとね……

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