第22話 マルチダンジョンその3

『へい雛香! 後ろだ!』


『えっ!? わっ!?』


 雑魚カニの対処をしていた雛香に水流が飛んでくる。

 雛香はそれを回避することができずにダメージを受けてしまった。


『援護……は無理か! ともかく一旦下がるぞ!』


『でも! あのカメを倒さないと!』


『いいから行くぞ!』


 レインさんはちらっと後ろを向いたが、救援は無理だと判断して雛香の手を引いて後退をする。


『カメぇえええ!』


 雛香の視線の先には、カメのモンスターがいる。こいつも特殊モンスターの一匹だ。


「なんか、凄いことになってるね」


「凄い敵の数だね」


「雛香ちゃんは大丈夫かしら?」


 観戦モードは上から見る設定にしたから、その敵の数が凄いことがわかる。


『くそっ! 敵が多すぎる!』


『対多数は慣れてるんだけど、なんか増え方が変だよ!』


『飛鳥のやつ、難易度を間違えてないか!? こんなのクリアできるわけないだろう!』


 レインさんが必死でカニをさばきながら叫ぶ。


「だそうだけど?」


 レインさんの叫びを聞いたフィンさんがこっちを見てきた。


「いや、概ね想定どおりですね」


 多少のランダム要素はあるけれど、このくらいならクリアできない難易度じゃないと思う。


「今回のイベントは個人の力だけではどうにもならない、チームワークが重要なイベントなんですよ」


 もともと、マルチを推したいイベントだからそこがキーになるわけ。


「……加えて、きちんと頭を使わないと難しい感じだね」


 おっ? 父さんはわかったのかな?


「そう、雛香が大分ゴリ押しをしてたのが難しくなった原因だね?」


 雛香は敵を見つけたら倒して、移動して倒してを繰り返していた。

 レインさんも雛香を1人にすることなく、ずっと追いかけ続けていた。

 結果的に、他の方向から湧いてきた敵がいつの間にか増えてきていて、気がついたら対処ができないくらいになっていた。


「原因はあのカメだね」


 そう、一番やっかいな特殊モンスター。

 カメのモンスターは一定時間ごとに敵のカニを生み出し続けるモンスターだ。

 その上、近づいたら甲羅に引きこもるから対処も難しい。


「こうなる前に、あのカメを倒さなきゃいけなかった。今じゃもう近づくのも難しい状態ってことだね」


 うん、そういうこと。


「加えて、他の特殊なモンスターたちも一癖あるやつばっかりだね」


 爆弾を落としてくるカモメ、敵を生み出すカメに加えて、さっき雛香を攻撃してきたような無限の射程で水を噴射してくるテッポウウオ。

 さらに、触手で引っ張ってくるタコ、透明な体で混乱させるクラゲ、砂の中から飛び出してくるウツボ、こちらの動きを阻害してくるマーメイド。

 全てがやっかいなモンスターだらけだ。


「倒すモンスターの優先順位と、各自がちゃんと臨機応変に対応することが重要ってことか」


「……そう聞くと、なんか仕事みたいだね」


 確かに、これがちゃんとクリアできる人って仕事できそう。


「ともかく、ここからの巻き直しは無理そうかな?」


「いや……よく見てくださいよ、ちゃんと仕事してる人がいるでしょ?」


 モンスターに押し寄せられて壊滅寸前、しかし、これでもまだ4人は諦めていない。


『レインさんは雑魚カニを優先! 私は遠距離から特殊モンスターを攻撃します! 雛香さんは私が攻撃した特殊モンスターを狙ってください! 大愛さんは雑魚カニを処理しつつ、宝石を運んでください!』


 里楽さんが指示を出し始めた。

 最初の頃は人見知りもあって、遠慮していたみたいだけど、もうそれはないようだ。

 そもそも、もともとは里楽さんが持ってきた企画だからね、ゲームとして考えてしまえば攻略法もわかるのだろう

 もちろん、どんなモンスターにするとかは話してなかったから、全容を把握するのに時間がかかったみたいだけど。


『全部の敵を倒す必要はありません! 基本的にこちらに近寄ってくる特殊モンスターは引き付ける! 大丈夫です! 宝石の数はまだギリギリ間に合います!』


 そう、これは全部の敵を倒すイベントじゃない、あくまでも宝石を集めるイベントなんだよ。


「時間的には……ギリギリかな?」


「あと3個……2個……あと1個が!」


 制限時間はあと僅か。


『うぉりゃああああ!』


 雛香が特殊モンスターを倒して、宝石をドロップさせた。


『急いで! レインさん! 大愛さん! 雛香さんの帰り道を!』


『今やってる!』


 帰り道にいた雑魚カニを総出で処理する。


『間に合えええええええ!』


 雛香渾身のダッシュ。そして制限時間終了の笛がなった。


『はぁ……はぁ……間に合った?』


 宝箱に放り込んだ雛香が皆の顔を見る。


『……どうでしょう……あれっ!』


 困惑している4人が顔を見合わせていると、宝箱が勝手に閉まった。


『……開ければいいんでしょうか?』


『誰が……』


『オープーン!』


 話す間もなく、雛香が宝箱に手をかけていた。


『うわぁあ! なんかいっぱい入ってるよ!』


『宝石……ではないみたいですね、これが報酬ということでしょうか?』


『……DPも……増えてる』


『おっ? ほんとだ、結構増えてやがるな』


 里楽さん、レインさんが自分のスマホを確認している。


『つまり、雛香たちクリアしたってこと?』


『ええ、おそらくそうでしょう! ほら! 帰り用の魔法陣が出ました!』


 大愛さんの指差す先にはいつもダンジョンをクリアした時にある魔法陣がある。


『やった! 雛香たち! 頑張ったよね!』


『ああ、なんとかなったな』


『……結構ギリギリでしたね』


『……クリアはクリア』


『里楽さんの言う通り! クリアしたから全部よし! だよ!』


 さて、そろそろいいかな?


「お疲れ様、みんな聞こえる?」


『あっ、お兄ちゃん! 雛香の活躍見ててくれた?』


 これでテスト終了ってことで声をかける。


『へい飛鳥! 随分大変だったぞ!』


「レインさん、感想はあとでゆっくり聞きますので、ひとまずこちらに帰ってきてもらえますか? あ、報酬は忘れずに」


 テストの感想もちゃんとまとめたいしね。


『ああ、それじゃあ帰るか』


『あっ、ちょっと待ってください』


『うん? どうしたの大愛ちゃん』


『もうちょっと、この海見ててもいいですか?』


 大愛さんは、宝箱から離れて海へ近づく。


『改めて見ると、綺麗な海だと思いまして……』


『うん! 敵が沢山いたからそれどころじゃなかったけど、凄い綺麗な砂浜だよね!』


『ダンジョンだったか? こんなこともできるんだな』


『……流石に潜ったりはしませんが』


 4人は目を細めて海を眺める。

 結局、4人が帰ってきたのはそれから20分も後になってからだった。

 うん、太陽とか擬似的なものだから日焼けとかもないけどさ、流石に次の攻略に水着持って行く計画はどうかと思うよ?

 まぁ、堪能してくれる分には嬉しいけどね。


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全部書けませんでしたが、出てくるモンスターは7種類。こんな感じをイメージしてました。

閑話とかでもうちょっと書くかも?


タコ

 長い触手で引き寄せ、インクを吐き出して視界を奪う。基本的に水際から移動しない。

カメ

 亀で、甲羅に引きこもって防御しつつ、敵を生み出し続ける。

ウツボ

 砂の中から突然現れ、飛び出して噛みつく。噛みつきに成功すると一時的に砂に埋める。

クラゲ

 透明な体を持ち、海霧の中に潜む。接近すると毒霧を放出してプレイヤーの視界と体力を奪う。

テッポウウオ

 水辺に潜む魚で、口から水を高速で射出して遠距離から攻撃する。基本的に水際から移動しない。

カモメ

 爆弾を落としてくるカモメ。一つ爆弾を落とすと休憩しに着地する。

マーメイド

 自分の周囲に音波を発して、混乱させてくる。混乱すると酔っ払ったようにまともに動けなくなる

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