第23話 マルチダンジョンスタート
実際にテストをした4人に感想を聞きながら最終調整を行ってイベントは完成。
その日のうちに告知を行い、そこから1週間後の今日イベントはスタートになった。
「ほほう……こんな感じで見てたのか」
僕らはその様子をリビングで見ていた。
初めて人の攻略の様子を見るレインさんは興味深げにスクリーンを見ている。
「うわぁ、こう見ると楽しいイベントだね」
「……」
雛香や里楽さんも今日は潜らずに観戦をしている。
「うーん? でも、私たちの時ってもっと敵が沢山いなかった?」
「あ、それは思ったぞ。私たちのときはもっとひっきりなしに敵が出てきたイメージだったが」
その印象は間違っていないよ。
「流石にテストの時の難易度だと皆クリアできないと思いましたので、調整を入れました」
だって、雛香、レインさんっていう個人の力ならトップレベルの人たちでもギリギリなんだもん。
いくら、立ち回りが悪かったって言っても限度はあるからね。
「里楽さんと話をして、段階的に難易度を上げていく方式にしました」
「はい……適正に収まるようにと」
個人個人にレベルみたいな数字を割り振って、これが高いと難しく、低いと簡単になる。
このレベルは成功すると上がっていき、失敗すると下がる。
これで自分の適正な位置を探していくことができる。
簡単に言えば、攻略に成功するたびに段々と難易度が上がっていくという方式だ。
ちなみに、報酬はレベルが高ければ高いほど良くなるから、レベルを上げていくモチベーションにもつながるはず。
「なるほど! それじゃあ、最初は簡単なんだね」
「今見ているのも、始まったばかりだから、難易度としては最低レベルだね」
誰でもクリアできる程度の難易度、まぁ、ルールを理解するためのレベルって感じだね。
今見ている4人組も、最初こそどうしたらいいかわからない感じだったけど、今はもうきっちりルールを理解して特殊モンスターを倒している。
ちなみに、見ているのはいつぞや発見したダンジョン配信をしている子。多分、今も配信しているんじゃないかな?
「ねぇ、お兄ちゃん、雛香たちがやった難易度ってどのくらいになるの?」
見ていると、雛香が聞いてきた。
「あー、どのくらいと言われると難しいけど……」
あの時は、各階層で難易度がかなりばらけてたし。
「あの一番最後のやつは! あれよりも難しいやつとかあったりするの?」
それが気になってたのか。
「ああ、もちろんあるぞ。あれは難易度で言えば10段階で言うと7くらい、残り3段階はある感じだな」
本当はもっと段階あるけど、おおよそこんな感じ。
「なんだと!? もっと難しいやつがあるのか!?」
レインさんがびっくりしている。
まぁ、そりゃ、自分たちがギリギリでクリアしたやつの上があるって聞いたらね。
「前にも言いましたが、レインさんは立ち回り完全に失敗してましたからね」
まぁ、それでもクリアできたのは凄いことだと思うけど。
「早いうちに雛香のフォロー役をやめて、各自行動に切り替えてればもうちょっと楽になったと思いますよ」
「なるほどな……仕事柄、個人行動は控えるようにしていたのが逆に裏目を引いたわけか」
「失敗しても死ぬわけじゃないですからね」
初めてのレインさんはそこを完全に失敗したってわけ。
「なるほどな……こんどうちの社員にもやらせてみるか……」
「あ、いいんじゃない? 雛香も毎日潜ってるけど、戦闘力は絶対上がってるもん」
また雛香用ダンジョンで訓練させられる人が増えるのかな?
レインさんの会社の人かわいそうに……
「それにしても、思っていたよりもトラブル少ないね」
マルチダンジョンのイベントを始めて数時間、たまにチェックはしているけど、思っていたほどのトラブルはない。
そりゃ、0ではないけれど、それも活躍に対する配分とか要望に近い感じだ。
「やっぱり父さんの会社との提携をしたってのが効いてるのかな?」
今回マルチをやると告知した時に、きちんと父さんの会社と提携することは発表した。
トラブルがあったら、法的処理を取るって名言したのがでっかかったのかと思う。
その辺りの兼ね合いもあって、父さんが一足早く仕事に戻ることになっちゃった。
まぁ、例のゴーストタウンの件もあるから、落ち着いたら戻って来るって言ってたけど。
「おっ! クリアしたぞ!」
「個数自体は結構前から集め終わってましたが、それで終わらないというのが味噌ですね」
「あ、そっか、宝石集め終わっても全滅しちゃったらクリア扱いにならないんだっけ?」
父さんのことを考えていたら、いつの間にかクリアしていたみたいだ。
それじゃあ、別のパーティでも確認しようかな。
「うーん、やっぱり見てるだけじゃ物足りなくなってきたなぁ、ねぇ2人とも!」
雛香が立ち上がりながら言った。
つまり、いつもの流れで、雛香もダンジョンに入りたくなったと。
「……私は行きませんよ」
真っ先に里楽さんが宣言をした。
「報酬は魅力的ですが、テストで疲れましたし」
「私の方もパスだな、この後部下に連絡を取らねばならん」
レインさんの方も断っていた。
「えー、それじゃあ、雛香1人だけ!?」
断られた雛香は大げさに反応する。
「しょうがないかぁ、誰か知らない人と入ろうかなぁ」
一応、今回のシステムでは知らない人同士でマッチングするようにもなっている。
それを使えば友達がいなくても潜れるようになっているけど……
「……雛香を1人にして大丈夫だろうか……」
どうしよう、めっちゃ不安なんだけど……
一応、ある程度自分に近い人間、年齢とか性別を選ぶようにしてるけど……
この戦闘モンスターを解放して大丈夫なのか……
「……飛鳥は潜れないんだよな……フィン、頼む」
「……まぁ、そうなるよね。うん、任せておいて」
僕と同様の不安をいだいたのか、レインさんがフィンさんにお願いしていた。
フィンさんなら、うまいこと雛香を制御してくれるに違いない。
「本当はお兄ちゃんと行きたいところだけど、フィン兄でもいいか。それじゃあ、いってきまーす!」
「フィンさん、くれぐれもお願いしますね」
「うん、頑張るよ」
「任せたぞ。それで、飛鳥……ちょっと頼みがあるんだが……」
そうして雛香はダンジョンへ入っていった。
なお、後日、やけに強い金髪のお嬢様と執事っぽい人がいたと掲示板で話題になっていた。
ドコノダレノコトダロウネ……
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