第19話 テストに向けて
「できたぁあああ!」
数日後、ようやくすべてが完成した。
アプリの開発にマルチ用のシステムの作成、ついでに里楽さんから提案されたイベント用ダンジョンの作成まで。
「お兄ちゃん、お仕事終わったの!?」
僕の声を聞いて、雛香が部屋に入ってきた。
リビングで母さんと話していたと思ったのに、そっちまで聞こえてたのか。
「このところ、ずっとお兄ちゃん忙しそうにしてて寂しかったんだからね」
「おっと!」
雛香が抱きついてきた。
確かにここ数日はずっと作業をしていたけどさ……
「雛香は結局、毎日布団に潜り込んできただろうが」
基本的に僕は作業をしていたから、僕が寝るときには雛香はもう寝ているんだけど、朝起きたら何故か毎回雛香が僕のベッドにいるんだよね。
「それに皆で出かける時は一緒に行ってただろ?」
せっかく久しぶりに家族といるんだからそっちは流石に優先した。
ちなみに、両親の休暇はもうそろそろ終わりの予定。
僕らは夏休み中はアメリカにいるつもりだけど、流石に父さんたちはずっと休めないからね。
「飛鳥さん、できたのですか?」
雛香に抱きつかれたままでいると、里楽さんもやってきた。
「あ、うん。里楽さんの考えたイベント仕様も作ってみたよ」
「そうですか、それは楽しみです」
雛香に抱きつかれたままだけど、里楽さんはなにも気にすることもなく話し続ける。
まぁ、それは僕の方もだけど。
「あとはテストをしてもらって最終確認かな」
「雛香がやるからね!」
うん、テストは雛香にももちろん手伝ってもらうんだけど。
「今回はマルチのテストだからね、雛香だけじゃなくて他の人の協力も必要だよ」
1人で入ることもできるけれど、あくまでもテストしたいのはマルチの方だ。
「一応後で雛香1人でのテストもしてもらうけど、まずは4人で入ってもらいたいかな」
「うん! 任せて」
今回、里楽さんが考えたイベントは4人が同時にダンジョンを攻略できるという内容だ。
「1人は里楽さんにお願いしたいんだけど、いい?」
「かまいませんが、いいんですか? 私は内容を知っていますが……」
「うん、確かに里楽さんは内容を知っているけど、詳細は知らないでしょ?」
内容を大まかに考えてくれたのは里楽さんだけど、どんな敵や内部になっているかは知らない。
「それに、知っている人の感想も欲しいからね」
「わかりました、私も参加します」
よし、これで2人。残りは2人なんだけど。
「お兄ちゃん、あとの2人は誰にするの? また募集とかする?」
「いや、募集はしたくないかな」
募集した結果、また情報流出とかしたら嫌だし。
「ちなみに、1人はもう決まってるよ」
「えっ? 誰? 雛香の知っている人?」
「うん、大愛さんに頼んであるんだよ」
大愛さんなら信用できるし、何より遠隔で合流するっていうテストもできる。
「マルチをするって決めた時に、お願いをしておいたんだよ。時差の問題もあるからそこは調整が必要だけど」
こっちと日本だと時差があるから、そのあたりの調整が必要になる。
「なるほど、大愛ちゃんと一緒に攻略できるの楽しみ!」
「一方的に知っている方ならまだましでしょうか……」
うん、まったく知らない人だと、里楽さんの人見知り発動するだろうけど、里楽さんも大愛さんの攻略とかは見ているし多少は大丈夫……なんじゃないかな?
「とは言っても、残り1人は決まっていないわけだけど……」
知り合いでダンジョンに入っているのは3人くらいだし。
あれ? 僕友達少ない?
「飛鳥さんがダンジョンを作っているのを知っている人でないと危ないですね……」
そうそう、その問題があるんだよ。
学校の友人とかが信頼できないとは言わないけど、どこから漏れるかわからないからね。
「しかし、知り合い3人の中、1人知らない人をいれるわけにもいきませんね」
うん、3人から僕のことまで辿れちゃうかもしれないからね。
そうなると、本当に僕がダンジョンを作成していることを知っている人じゃないと……
「ねぇ、お兄ちゃん? 気になってたんだけど……」
「うん? なんだ?」
「お兄ちゃんじゃ駄目なの?」
あ、あー……そういえば、言ってなかったっけ……
「いや、僕は駄目なんだよ」
「確かに外からの目というのも必要ですね」
「あ、いや、そうじゃなくてさ」
ごく単純な話だ。
「僕ダンジョンに入れないんだよね」
「「えっ?」」
今まで僕がダンジョンに入っていなかった理由がこれだったりする。
「お兄ちゃん、ダンジョンに入れないの!?」
「うん、少なくとも今は無理だね」
「……ダンジョンの維持が理由ですか?」
おっ? 里楽さん鋭いね。
「そういうこと、僕は今、いろいろなダンジョンを運営しているわけだけど、それって僕が常時維持してるんだよね」
簡単に言えば、僕という存在はダンジョンを作るための電源……いや、電源ケーブルみたいなもの。
「ダンジョン空間は地球上にある魔力を元に作っているから、僕が入っちゃうとそれが途切れちゃうんだよ」
そうすると、今運営しているダンジョンもすべてが止まってしまう。
入っている人たちは弾かれてどこに行くかもわからないという状態だ。
「ってことは、お兄ちゃんとはずっとダンジョン攻略できないってこと!?」
「いや、今はって言っただろ? そのうちできるようになるさ」
ダンジョンスキルのレベルが上がってくればいずれ僕がいなくても大丈夫になる。
そのあたりはいずれね。
少なくとも今は僕はテストに参加できないってこと。
「まぁ、ともかく、今は僕じゃないもう1人を考えなきゃいけないわけだよ」
話を戻して考える。
「うーん、そうなると……やっぱり誰かに話すしかないんじゃないかな?」
まぁ、そうなっちゃうよね。
「……というか、実質2人のうちのどちらかにお願いするしかないのでは?」
2人……
「レインさんか、フィンさんだよね」
「はい。むしろ、ここまで何も聞かれていないのが不自然なくらいではありますし」
ちょっと仕事で作業があるってことは話していたけど、具体的には話していない。
「雛香はダンジョンに行くってことだけは話してあるよ! レインさんは興味ありそうだったよ!」
雛香は暇になったらダンジョンに入ってるもんな。
「どちらかに話したらもう片方にだけ隠すのは難しいかなぁ」
何してるの? って話になるし。
「……よし! 2人に話そう!」
2人なら変に広めたりなんかしないだろうし。
「うん! じゃあ、早速話そう! 2人ともリビングにいるから!」
雛香がリビングに向かっていく。
「あ、雛香!」
僕も後を追いかけて里楽さんもゆっくり後からついてきた。
「……なるほど、あのダンジョンの出どころは飛鳥だったんだね」
「……まさかとは思っていたけれど」
フィンさん、レインさんの反応はこんな感じだった。
うん? まさかとは?
「うちの会社の方に調査依頼が来ててな、それで軽く調べたんだがセキュリティがやけに固くてな。伯父さんの会社が何か関わっているというところまでは突き止めたんだが」
そんなことしてたんだ。
「ひょっとして、僕が何か痕跡残しました?」
だとしたらまずいんだけど……
「いやいや、全くなかったぞ。途中で圧力がかかって依頼自体も取り消しになったしな」
その圧力ってひょっとして、真田さんじゃ……
「飛鳥のことを知らなかったら疑いにもならないからそこは安心して大丈夫だ」
そっか、まぁ、それならいいか。
「それで、2人のどちらかにテストの協力をお願いしたいんだけど……」
2人の顔を見る。
「うーん、僕は遠慮しようかな? 興味はあるけれど、そういうのは姉さんの方が適任だと思う」
「うむ、ならば私が請け負おうか、大丈夫、金はとらんさ」
ということで、レインさんがテストに参加してくれることになった。
「というわけで、もう少し詳しいことを聞かせろ、ここ最近怪しげな感じだったの聞くのを我慢してたんだぞ」
「だね、仲間はずれみたいに感じて少し寂しかったよ」
僕は今までのことについて話すことになったのだった。
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