第15話 久しぶりの両親

 その日はフィンさんが用意してくれた夕食を食べた後、流石に疲れていたのかぐっすり眠ってしまった。


「……かしら」


「でも……よ?」


 何か話し声が聞こえる……


「んっ……?」


 この声は……


「あっ? 起きたのかしら?」


 目を開くとそこには1人の女性が立っていた。


「……おはよう、飛鳥ちゃん」


「……おはよう、母さん」


 ……母さんか……随分と久しぶりに日本に……


「あ、そっか、ここアメリカだったっけ」


 起き上がって周りを見回す。

 よく見たら部屋も自分の部屋じゃないし。


「久しぶりだね、飛鳥」


「父さんも、久しぶり」


 母さんの隣には父さんもいる。


「……なんだか久しぶりに2人の顔を見た気がする」


 なんか段々と目が覚めてきた。


「そうね、直接会うのは、お正月以来じゃない?」


「結局日本のゴールデンウィークには帰れなかったからね」


 まぁ、その分、ビデオ通話はしてたけど、やっぱり直接会うのはちょっと違うよね。


「それよりも、2人ともいつの間にこっちに来たの?」


「ついさっきよ」


「本当は昼頃にこっちに着くはずだったんけど、深月がせかすから早く仕事終わらせたんだよ」


「だって早く、かわいい息子と娘に会いたかったんだもん」


 そうなんだ。2人とも相変わらずだなぁ。

 久しぶりに会う2人だけど、見た目も中身もあんまり変わっていない。

 相変わらずの美形夫婦だ。

 これでもうすぐ40代だもんなぁ、まだ20代でも通じる気がするよ。


「それにしても、2人も随分と仲良くなったみたいだね」


「うん?」


「あー、いつかはそうなるかと思ってたけど、流石に実際に見るとびっくりというか……」


 2人は何のことを言ってるんだ?


「あ、ひょっとして里楽さんを連れてきたこと?」


 確かに、僕もここまで里楽さんと仲良くなると思ってなかったけど。


「違うわよ、いえ、そっちも十分驚いたけど」


「……ひょっとして飛鳥、気がついていないのかい?」


 気がついて……いや、ひょっとして……?

 はっと思い浮かんで、妙に膨らんだ布団を捲る。


「雛香……」


「……むにゃ……お兄ちゃん……」


 そこには雛香が寝ていた。


「あら? 服は着ているのね」


「ああ、てっきり……」


 2人とも思いっきり勘違いしてない!?


「いやいや、僕と雛香はそういう関係じゃなくて!」


「あれ? 別に隠さなくてもいいのよ? 雛香ちゃんは可愛いもの、やられてしまっても仕方ないわよ?」


「まぁ、雛香が飛鳥大好きなことは知っていたからねぇ、困難はあると思うけど僕らも応援はするからね」


 いやいや、そこは親として止めてほしいんだけど?


「おい、雛香、いいかげん起きろ、というか、起きてるだろ?」


「……むにゃ……寝てるよぉ……」


 寝てるやつは寝てるって言わないんだよ。

 雛香を引き離して無理やり起こす。


「あっ……お兄ちゃニウムが……雛香から離れてくぅ……」


 変な成分を感じるな。


「いい加減にしとけ」


「いたいっ! お兄ちゃんDVは良くないよ!」


 頭にチョップ。寝た振りをしていたやつに対しては十分なお仕置きだろ。


「あらあら、やっぱり仲がいいのね」


「あ、ママ! パパも! 久しぶり!」


 雛香は起き上がると、すぐに2人に飛びついた。


「ははっ、相変わらず雛香は元気だね」


 2人もそんな雛香を受け入れて頭を撫でる。雛香も嬉しそうだ。


「さぁ、朝食にしましょうか。2人とも着替えてリビングまでおいで」


「朝食を用意してくれたのは深月じゃなくてフィンくんだから、安心してね」


「ちょっ、エル! どういうこと!?」


 2人はそんなことを言い合いながら、出ていった。

 あ、ちなみにエルっていうのは、母さんから父さんへの呼び方。仲がいい2人らしいよね。


「さて、僕らも着替えるか」


「うん!」


 2人も出ていったし、僕らも急いで着替えてリビングへと向かった。



「へぇ、飛鳥ちゃんがそんなことを……」


「はい……随分とお世話になっています」


「自慢の息子だからね」


 早く着替えた僕がリビングへと行くと、そこでは里楽さんとうちの両親が話をしていた。


「おはよう、里楽さん」


「……あ、おはようございます。飛鳥さん、昨日はすみません」


「うん、大丈夫だよ。里楽さんも元気になった?」


「はい、随分と寝ましたので」


 それは良かった。この感じだと、時差ボケもあんまり残ってなさそうかな?


「ふふぅ、飛鳥ったら里楽ちゃんをお姫様抱っこして部屋まで運んであげたんですって?」


 話したのは、里楽さん……じゃなくて、レインさんあたりかな?


「そりゃね、体調が悪い人に優しくするのは当然でしょ」


「うん、うん、流石自慢の息子だよ」


 悪いことなんてしてないのだ、照れる必要なんてない。


「……」


 だから、里楽さん、顔を赤くしないでね?

 あれは介抱だから、持ち上げた時の軽さとか柔らかさとかなるべく思い出さないようにしてるんだから。


「あら? 飛鳥ちゃんったら顔赤いわよ?」


「ふふっ、飛鳥も大人びてるけど、年相応な部分がやっぱりあるんだね」


 結局、僕の方も顔に出てたのか、フィンさんが朝食を運んでくるまでからかわれたのだった。




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