第6話 大愛さんの攻略

 雛香は一度戻ってきた後、またダンジョンに入っていった。

 ボスが違うことを話すと、そっちとも戦いたいと言っていたので次は別のやつに挑むはずだ。


「さて、雛香がボスに挑むまで他の人のも見ていこうかな」


 ダンジョンに潜る前、雛香がボスと戦うときには絶対見ているようにとお願いされてしまったけど、まだしばらくは時間があるはず。


「ええ、そろそろ賢さのボスも見れるでしょうし」


 あー、そっか……そのままだと里楽さんが賢さのボス見れちゃうのか……


「ミミ、里楽さんのマシンから賢さのボスに挑む人を除外して」


「飛鳥さん!?」


『了解しました』


 これでよしっと。


「攻略法なんて調べず自分で頑張ってね」


「飛鳥さんはいじわるです」


 少しむっとしている里楽さん。こういう表情は珍しいね。

 ただ、里楽さん自身もカンニングとわかっているのかそれ以上何も言わなかった。


「さて、それじゃあ……おっ?」


 ザッピングしていると、見知った顔を見つけた。


「おっ、大愛さんだ。そういえば潜るって言ってたっけ」


 朝倉大愛さん。以前妹さんの病気の件で知り合って以降もちょくちょく連絡を取っている人だ。

 最近は仲良くなって、名前呼びをしている。

 朝倉さんだと、妹の結衣ちゃんとごっちゃになるからね。


「例のお姉さんですね」


 大愛さんのことは、里楽さんにも軽く話してある。


「この方は何が目的なのでしょうか?」


「大愛さんは体力の種が目当てって言ってたね。なんか結衣ちゃんにあげたいんだって」


 最初に体力って聞いた時は少し驚いたけど、結衣ちゃんのためって聞いて納得した。

 どうやら結衣ちゃんは今は弱くなった身体を戻すためにリハビリに励んでいるらしい。

 少しでもその助けになればってことだった。


 ちなみに、今回の種が結衣ちゃんに大丈夫かどうかって相談もされたんだけど。

 むしろ、魔素を使うものになるから結衣ちゃんでも大丈夫。

 結衣ちゃんの場合は無理に集めちゃうのが問題だったから、むしろ消費側になるなら改善される可能性すらある。

 まぁ、前回の対処でその問題も解決されてるわけだけど。


「ただなぁ……正直、大愛さんと体力のボスは相性が悪いと思うんだよなぁ」


 倒し方は単純なんだけど……


「そんなことを言っている間に、お姉さんがボス階にたどり着きましたね」


「おっ、本当だ」


 いつも通りゆっくりと探索した大愛さんだったけど、安定してボス部屋まで到着したみたいだ。

 ちなみに、今日は魔法使いの格好はせずに、普通の運動用の服装だ。


「それじゃあ、大愛さんの戦いも見ていこうかな」


「ええ、体力のボスも気になります」


 里楽さん、体力のボスにもそのうち挑むのかな? 禁止に……いや、まぁ、いいか。


 ボスの間に到着した大愛さんは、5つの魔法陣から体力のボスを選んだ。

 雛香と同じように、扉が現れて、その扉の先に向う。


『……なるほど影のボスですか』


 部屋の中央を見てすぐに察したようだ。

 素早さの時、同じように立体になっていく。


『……大きくないですか?』


 それは大愛さんの身長を超えても更に高くなっていく。

 やがて3メートルほどの円柱になった。

 そして今度はそこからにょきにょきと枝が現れ始める。


『……なるほど、大樹のボスということですか』


 そう、体力のシャドウミミクリーは大きな木の姿になっている。

 さらに、生えた枝から葉っぱが生え、その葉っぱから淡い緑色の光が放たれている。


『これは、まさか回復するボスですか?』


 その緑色の光を見て、大愛さんは察したようだ。


「回復持ち……かなり大変そうですね」


「そう、一定時間で一定量回復するって感じだね」


 倒すためには、それを上回る攻撃を加えていく必要がある。


「しかも素のHPも他よりもかなり多いからね」


「……ひょっとしてこれも時間制限ですか?」


「そういうこと」


 じっくり倒していく大愛さんとしては相性は悪いはず。

 さて、大愛さんはどうやって攻略するかな?



 大愛さんは、まず距離を取ったまま、魔道具を使って攻撃をしていく。

 今までの成果もあり、大愛さんの手持ちの魔道具は潤沢だ。


『……葉っぱが少し減った気がしますね』


 大愛さんが魔道具で攻撃すると、葉っぱが少しずつ減っていく。


『なるほど、これが実質HP代わりということですか』


 そういうこと。

 ただし、


『緑の光とともに、葉っぱが増えますね』


 さっきも話した通り、一定時間でその葉っぱも回復する。


『……この感じだと時間制限もあるかしら?』


 おっ? 流石大愛さん、気がついたか。


『そうなれば、なるべく早めにHPを削っていくしかないわね』


 しかし、大愛さんはそこで焦ることはなかった。


『魔法は火属性が少し多い? いや、誤差でしょうか?』


 魔道具を切り替えつつ、どの魔法が一番効果的かを見極めていく。

 うん、正しい……正しいけど、それが逆に罠でもあるんだよね。


『……そういえば、攻撃はしてこないんですね、近づいても大丈夫でしょうか?』


 恐る恐る大愛さんは大樹へ近寄っていく。

 しかし、大樹はなんの反応もしない。


『あちらからは攻撃を仕掛けてこないタイプですか、そうなると時間制限があるタイプで確定ですね』


 大愛さんはそのことを確信したようだ。


 大愛さんは魔道具をしまい込み、今度は剣を取り出した。


『やぁ』


 気が抜けたような声とともに、剣を突き刺す。

 なんだろう、雛香ので慣れてるせいで大愛さんのがひょろひょろに見える……

 そういえば、いつも突き刺してるだけだったね……


『剣のダメージは普通くらいですか』


 そんな大愛さんは今度はあらゆる武器を試し始める。


「……武器持ちすぎじゃないですか?」


 確かに、次々と武器を取り出して攻撃していくのはちょっとシュールかも。


『……やはり斧が一番ダメージが高いですか』


 それで正解。

 やっぱり木は斧で伐採だからね。

 でも、それがわかっても間に合うかな?


『……残り時間がわかりませんが、いえ、ひとまず攻撃をしていくしかないでしょう』


 そこから、大愛さんは一心不乱に斧を振るって攻撃をしていく。


「木こりみたいですね」


 確かに必死に木を切り倒そうとする姿は木こりみたいだね。


『……っ』


 何回か切りつけた後、大愛さんはその手を止めた。


「あー、まぁ、そうなるよなぁ……」


「斧で攻撃なんて、なかなかしませんからね」


 斧は剣よりも重い。

 大愛さんは木を切り倒すってことなんてしたことないだろうから、その分疲労が溜まる。


『……うっ、また回復した』


 さらに、定期的に回復をしてくる大樹が焦らせてくる。


「いやらしいボスですね、私だったら挑みたくありません」


「うん、正直、一番めんどくさいボスだとは思うよ」


 運動が得意じゃない大愛さんにとっては特に厳しいボスだと思う。

 その後も、休みつつ斧を振るっていた大愛さんだったが……


『あっ……』


 大樹は突然影になって霧散してしまった。


『倒した……わけではないですよね? やはり、時間制限がありましたか……』


 そう、残念ながらタイムアップだよ。

 同時に出てくる帰還用の魔法陣。


 大愛さんは残念ながらボスを倒すことができなかった。


「どれだけHPあるんですか……」


「まぁ、それが特徴のボスだからね、ただ、大愛さんにしてはちょっと焦った感じかな?」


「どういうことですか?」


「確かに斧でのダメージは高いけれど、時間効率的に言うと実はそこまででもないんだよね」


 斧を軽々と振り回せるだけの力があれば別だけど、大愛さんはそこまでの力はない。

 だからこそ1回1回に時間はかかるし、何よりも疲労が溜まる。


「なるほど……実はナイフみたいなもので細かく攻撃をしていく方がトータルで考えると効率的ということですか」


「そういうこと、あとは疲れたら炎の魔道具を使うとかね」


「確かに、それも有効そうですね」


 このあたりのことは、いつもの大愛さんだったら気が付きそうなものだけど、やっぱり時間制限で敵が回復してくる。

 さらに、大樹の形で斧が効くと思い込んでしまったのも敗因だろう。切り倒すっていうとやっぱり斧のイメージだからね。

 最初に検証のために時間を使ってしまったのも大きかったかな?


「まぁ、もともと初見で倒すのが難しいくらいの難易度にしたつもりだし、計画どおりかな?」


「……そうですね、大愛さんなら次回はもっと上手くいくでしょう」


 うん、今もダンジョンから出ずに手持ちのアイテムを整理しつつ考えているみたいだし、冷静になった大愛さんだったらすぐに答えにいきつくでしょう。


「大愛さんのことだから、またすぐに挑戦してくれるからそれを待とうか」


「はい」


 そうして、ダンジョンから脱出した大愛さん。

 その後、僕たちは他の人の攻略を見つつ、再び、大愛さんがボスに挑むのを待った。

 それから数時間後、再びボスの間に到着した大愛さんは、また体力のボスを選択した。


『今度こそ勝ちます!』


 そう宣言してボスに挑んだ大愛さん。


「さっき、飛鳥さんが言った通りの攻略になりました」


「だね。やっぱり、ナイフと炎の魔道具だったね」


 失敗を踏まえて考えてきたんだろうね。

 今度は斧を一度も取り出すこと無くクリアしていった。


「……攻略方法がわかってしまえば実は一番楽なボスだったりしますか?」


「あ、気がついた? そうなんだよね、敵は攻撃してこないし、時間制限内しっかり攻撃していけばちゃんと倒せるようになってるんだよね」


 がむしゃらに攻撃するのが実は一番効率的だったり。


「そういう意味でも、考えちゃう大愛さんとは相性が悪いボスだったんだよ」


 勝利した大愛さんは嬉しそうに、体力アップの種を持ってダンジョンを後にしたのだった。

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