第2話 職業冒険者

 里楽さんへの誤解は昼までには解くことができた。

 今日が休みで良かったよ。


 ちなみに、里楽さんがいたのは雛香が招き入れていたからで、その雛香が僕を起こしにいったのにいつまで経っても帰ってこないから確認に来たらしい。

 うん、まぁ、雛香が悪いね。起こしに来てなんでお前が寝てるんだと。



「それじゃあ、雛香はダンジョンに行ってくるね」


 そんな雛香は何事もなかったように今日もダンジョンへ出かけていった。

 というわけで、里楽さんと二人きり……


「……」


 朝の件があったから、若干気まずい……いや、忘れよう。


「えっと、今日の予定だけど……」


「はい……そろそろ例のダンジョンの公開でしたっけ?」


「うん、一般公開から1月くらい経ったからそろそろいいんじゃないかと思って」


 ダンジョン自体はもう完成している。


「だから、世間の問題を確認しつつ、公開していいかの判断だね」


 何か変な問題が起こっていないかも確認しておきたい。


「ええ、だいたいの情報は集めてあります」


 最近、里楽さんが秘書みたいな立ち位置になってる気がする。

 相談したら色々と返してくれるから、つい頼んじゃうんだよね。

 ……たまにやらかすことはあるけど。



「まず、現状ですが、ダンジョンを公開してから一ヶ月が経ちました」


 うん、さっき言った通り、早いもので一般公開してから一ヶ月が経った。

 その間にも色々と変わったことがある。


「ダンジョンに潜る人は日に日に増えています、そのあたりは……ミミさん」


『確認します。過去一週間のダンジョンに入場する人は一日に平均100万人程度です』


 100万……いつの間にかとんでもないことになってるなぁ……


『分布としては主に日本人が多いですが、外国人の方も徐々に増えているようです』


 僕自身が日本人だから、どうしても方向性がそっちに寄っちゃってるんだよね。

 別にアクセス禁止にしているわけじゃないんだけど、言語とかがね……


「その辺りは、真田さんとも相談して言語対応していくつもりですよ」


 僕的には完全対応でもいいと思うんだけど、やっぱりいろんなお国的な事情もあるからややこしいんだよね……

 もともとΒテストが日本だけだったのも、僕自身が事情をよくわかってたからだし。


「まぁ、ひとまず英語対応だけは近々するつもり」


 英語にさえ対応しておけば、それなりに分かる人も増えるだろうし。


「世界人口が急激に増えることが予想されますね……」


 うん、まぁ、そうなるかなぁ。


「今の日本の状態が世界でも加速するかもしれませんね……」


「日本の状態?」


「はい、冒険者と呼ばれる職業のことです」


「ああ、それのことか」


 公開してから世間的な一番の変化がそれだね。


「その辺り、今ってどうなってるの?」


 なんとなく、聞いていたけど、ここ最近はダンジョン作りに忙しかったせいで詳しいことは聞けていない。


「そうですね……ひとまず1からおさらいしましょうか」


「うん、お願い」


「始まりはとある会社がダンジョン探索者を雇い始めたことでした」


 里楽さんが説明を始める。


「その会社は、探索者を雇い支援をする代わりに、探索者が手に入れたアイテムを買い取るというビジネスを始めました」


 ダンジョンで手に入れたアイテムを現実に持ち出すにはDPが必要だ。

 課金によってDPを手に入れることができるが、そのためには現実のお金が必要になる。

 それを会社が支援することによって、その会社は多くのアイテムを手に入れることに成功した。


「結果、それは大きな成功となりました」


 その会社は、今ではダンジョンのアイテムを取り扱う大手企業になっている。


「一つの会社が成功すると、他の会社もそれを追随し始めました」


 うん、ちょっとしたブームにもなってたよね。

 ニュースとかでもよく取り上げられていた。


「そうして、会社所属の探索者、冒険者と呼ばれる職業が誕生しました」


 うん、そこがびっくりしたよね。

 今はダンジョンに入る人のことを冒険者って呼ぶようになってるよ。


「ダンジョンの探索者って、それだけで個人事業主みたいなものだと思うんだけど、そうまでして会社に所属するメリットってあるのかな?」


 ネット販売とかもあるし、個人でやっていくのもありだと思うんだけど。


「結局は安定性でしょうね、会社に所属していれば何かあったとしても安定した収入が得られますし」


 あー……そういうこともあるかぁ……

 個人でやった方が稼げるとは思うけど、日本人はそういう安定が好きだからなぁ。


「これが日本独自になるか、海外も同じような路線になるかは今後に注目ってところかな」


「そうですね」


 冒険者っていう職業が世界的になるか……ちょっと楽しみ。



「今のところはそんな感じですね」


 結局一番の世間的な変化は冒険者っていう職業ができたことだった。


「里楽さん的には、次のダンジョンを公開しても大丈夫だと思う?」


「そうですね……タイミング的にはいいのではないでしょうか? どのみち騒ぎになることは間違いないでしょうから」


 そもそも、なんでこんなに次のダンジョンの公開に慎重になっているのか、それには理由がある。


「自身の能力を強化するためのダンジョン……ようやく公開か」


 これを出せば、間違いなく世界が変わることになるだろう。

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