閑話 とあるSPの嘆きその2

「う……あ?」


「おっ? 起きたか?」


 俺は邸宅の医務室で目を覚ました。


「総隊長?」


 俺のそばには総隊長のアレックスが椅子に座ってこちらを見ていた。

 一体俺は何を……一瞬そう考えて……


「そうだ! 総隊長! 侵入者は! 護衛対象はどうなりました!?」


 すぐに自分が侵入者にやられたことを思い出す。


「落ち着けビリー。護衛対象は無事だ」


 良かった……無事だったのか。


「総隊長が侵入者を倒したのですか?」


 尋ねたが、総隊長は首を振った。


「実はだな……」


 総隊長からその後の経緯を聞いた。

 結局、あの侵入者には邸宅まで入られてしまったらしい。


 その防衛として総出で迎え撃っていたのだが、


「はぁ!? 連絡ミス!?」


「そうだ、例の侵入者はこちらの客が誘拐されたと思って取り返しに来たらしい」


 そういえば、なんかお兄ちゃんを返せ、とか言ってたっけ……

 本当に取り返しに来ていたのか……


「その対象である客……兄が誤解を解いて収まったというわけだ」


 結局、その侵入者も含めて話し合い無事に帰宅したらしい。

 つまり騒動は終わり……


「さて、今回は誤解の結果だったが……」


「はい……もしもあの侵入者の狙いが本当に護衛対象だったら……」


 守りきれなかった……


「うむ……我々はどこか緩んでいたのかもしれないな……」


 確かに、トレーニングを欠かしたことはなかったけど、実際の戦闘は久しくなかったから気が緩んでしまっていたのかもしれない……


「……鍛え直しですね」


 部下も……もちろん俺もだ。


「お前自身がそう思っているのなら話が早い。お前にはやってもらいたいことがある」


「えっ?」


 総隊長がなんか不穏なことを言い出した?

 ひょっとして戦地送りとか……?


「いや、お前だけではなく、全部隊に通達だ」


 いったい……?


「お前たちにはダンジョンに潜ってもらう」


「……はぁ?」



 そうして始まったのはダンジョン攻略……と言う名の地獄の訓練だった。


 最初は簡単だった。


「ダンジョンと呼ばれる特殊な空間に入ってボスを倒してくる」


 ただそれだけ。

 幼い頃にやったゲームみたいな感覚で楽しんでしまった。

 確かに出てくるモンスターとの戦いは経験になるし、モンスター相手ならば変な遠慮もいらない。

 武器を使うことは訓練なので禁じられているが、それはそれで楽しめた。


 ……しかし、楽しめたのは最初だけだった。


「ゲームみたいに鍛えられるのは最高の訓練ですね」


 そんなことを言った俺に総隊長は笑いながら言った。


「ここまでがダンジョンの説明。次からが訓練だ」


「えっ?」


 そして、始まったのは地獄の訓練だった。

 前回と同じくダンジョンという空間であることは変わらない。

 しかし、そこに出てくる敵の数が尋常ではなかった。


「くそっ! 敵が多いな!」


 それに対して、こちらは1人。

 無事に全部のモンスターを撃退することはできたが……


「よし、レベル1クリアだな。続けてレベル2に挑め」


「……えっ?」


 それはまだ序の口だった。

 レベルはどんどん上がっていく。

 そのたびに、モンスターの数は増え、敵が強くなり、難易度が増していく。


 そうして、レベルが5まで達したところで、遠距離攻撃を持つ相手が出てきて俺は詰まってしまった。


「くそっ! あんなんどうしたらいいんだよ!」


 眼の前の敵を対処しつつ、狙撃に対処するなんて不可能だろ!

 あんなの生身でクリアできる人間がいるのか?


「いるぞ?」


 思わず吐いてしまった愚痴に総隊長が反応した。


「ここだけの話にしてくれよ、実はこのダンジョンというものだがな……例のお兄ちゃんが関係しているらしい」


 例にお兄ちゃん……? 侵入者が取り返そうとした客のことか?


「どうも、護衛対象が前回のことがあって不安に思って、用意してもらったらしい」


 そうか……そういう経緯だったのか……


「それでだな……前回の侵入者もこのダンジョンで鍛えているらしいと、護衛対象が漏らしていた」


「あの侵入者が!?」


 そうか! やけに戦い慣れてると思ったらこんな鍛え方をしてやがったのか!

 銃を避けるとかやってやがったのも、遠距離持ちのモンスターに慣れていたからか!


「その結果が、あの化け物じみた強さであり、俺達の敗北だ……」


 なんか色々と納得した。

 日常的にあんな訓練をしていたら確かに強くなりそうだが……


「わかったか? 俺達が強くなるには、あのダンジョンで戦闘をしていくのが効率的なんだ」


 少なくともあの強さに追いつかなければならない……か……

 わかったよ……やるしかないんだな……


「……ちなみに、総隊長。あの侵入者……レベルいくつまでクリアしてるんですか?」


 あの動きを察するに、レベル5はクリアしてるだろう。


「……レベル15らしい」


「えっ?」


「現在はレベル15だと聞いている」


 はぁ? レベル15? 俺よりも10も上?


「ちなみに俺たちのところに攻め込んできた時は、レベル10程度だったと聞いた」


「は……はは……」


 もう笑うしかねぇ。

 いや、でもやってやるよ。

 いつか、あの化け物と再戦する時、今度は俺が勝ってやる。


 あ、でも……しばらくは待ってください。

 少なくとも同じレベルがクリアできるようになるまでは……


-----

以上で真田家SP視点での閑話は終わりです。

攻略レベルに関しては、割と適当です。大体こんなところかなぁみたいな。

飛鳥の信念であるダンジョンで幸せにする、とは言い難いかも知れませんがいつかきっと報われますよ。

それを書くかは別ですが。


続いての閑話はまた別の方です。

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