閑話 とある配信者その5

 そこから2階ほど進んで4階まで来た。

 そこで私はまた新たなモンスターに遭遇した。


 見た目は2階でも見たゴブリン。しかし、武器が棍棒ではなく、弓だった。


『おっ! ゴブリンアーチャーか!』

『遠距離攻撃持ちか!』

『どう対処するか見ものだな』

『がんばれー!』


 えっ? 弓? あれで攻撃してくるの?


「えっと……」


ピュン


「わっ!」


 件のゴブリンアーチャーがこちらを向いたと思ったら、弓を引き絞って矢を放ってきた。

 とっさに手でガードしようと思ったけど、矢は私の手に刺さった。


「痛っ……くはないんだっけ!」


『手でガードしてもHPにダメージ入るのかな?』

『受ける部位によってダメージの違いとかあるんかな?』

『わからん、減衰はあるかもだが……』

『避けるのが吉かな?』


 避ける!? どうやって!? 全然見えなかったよ?


ピュン


 慌てているうちに、また矢が放たれた。

 このままだとまずい!


『接近! 接近して攻撃だ!』

『いや、一旦逃げて回復……』

『ポーション拾ってないから回復できんやろがい』


 と、とりあえず、近づけばいいのかな!?

 急いでゴブリンアーチャーに駆け寄ろうとしたんだけど、


ピュン


 ばたばたと直線的に近寄った私に再びゴブリンアーチャーは矢を放ってきた。


 まずい! まずいよ!


 さらに、近寄った私に対して、ゴブリンアーチャーは……


『距離を取った!』

『賢いぞこいつ!』

『急いで!』


 視聴者さんのコメントにも急かされて私はまたゴブリンアーチャーに近寄ろうと……


ピュン


「あっ」


 矢がまた私に刺さった。

 身体が……動かない……


『固まった!?』

『配信止まったわけじゃ……なさそう?』

『あっ、ひょっとしてHP0になった?』


 あっ、そういうこと?


 戸惑っていると、入ってきた時みたいに、視界が歪んでいく……


 まずい! 目を閉じないと!


 慌てて目を閉じる。


『おっ? 戻ってきた?』


 読み上げ音声に目を開けてみると、そこは私の部屋だった。

 身体も自由に動くようになっている。

 まるで夢みたいな体験だったけど……


「えっと……夢じゃなかったですよね?」


 さっきまでダンジョンで体験してたことは……


『大丈夫!』

『ダンジョンの外?』

『なるほど、HPが0になって強制離脱ってそういうことか』


 視聴者さんも見ていたし、私が幻覚を見ていたわけでもなさそうだ。

 強制的にダンジョンの外に出されてしまったみたいだ。


「うーん、やられてしまいましたね……」


 1回で攻略できるとは思ってなかったけど、まさか4階でやられちゃうとは……


「あれ、どうやったら勝てるんでしょうね……」


 弓を持ったゴブリンにはいいようにやられてしまった。


『うーん、ローグライクの基本なら直線上に立たないとかだけど……』

『リアルだしなぁ、直線上って言っても……』

『とりあえず、視界から外れるしかないんじゃない?』


 そっか……とりあえず、ゴブリンの見えるところにいないようにして……


『まぁ、ひとまずおつかれ!』

『うん! 主は頑張ってたよ!』

『というか、いつの間にか、凄い人数見てるぞwww』

『10万超えてるwww』

『初見です! チャンネル登録もしました!』


 10万!? ってもう驚くのも大変だよ!


『それで、この後はどうするの?』

『疲れた? 身体の疲労とかはどうなん?』

『筋肉痛とかありそう?』


 あ、そっか、私の身体だったら疲れとか……


「うーん、ちょっと確かに身体が重いかも……?」


 ってことは、やっぱり私の身体ごとダンジョンに入ってたってことかな?


「あ、そうだ、ちょっと待っててもらっていいですか?」


 どうせだから、渚に確認しておこう。

 映像と音声を止めて私は部屋を出る。


トントン


 隣の渚の部屋をノックする。


「はいはい、どしたの? あ、おつかれ? コーヒーでもいれる?」


 渚が出てきた。


「ううん、それはありがたいけど……すぐ戻らないとだし……いや、そうじゃなくて……」


 まだ放送中だしね。


「私の身体ってどうなってた?」


「あ、それね! びっくりしたよ! すぐに確認に行ったんだけど葵の姿どこにもないんだもん!」


 あ、やっぱりそうなんだ。


「放送見たら普通にしてたから安心したけどさ」


 どうやらちょっと心配させてしまったみたいだ。


「それで、葵。戻らなくて大丈夫なの?」


「あ、そうだった! ごめんね渚!」


「うん、ちゃんと放送見てるからね! あ、晩ごはんまでには帰ってきてね!」


 なんて渚の言葉を聞きつつ、私は部屋へと戻った。

 すぐに放送を再開する。


「すみません、同居人に聞いてきたんですけど……」


 私の身体がなかったことを話す。


『なるほど』

『やっぱり転移だったかぁ』

『異世界転移! ってこと!?』

『ダンジョンも異世界……ではあるか』

『異世界転移タグつけないと!』

『確認助かる』


 良かった、やっぱり気になるよね。


『それで、やっぱり疲れてるってこと?』

『なるほど、自分の身体の疲労管理ってのも必要なんだな』

『今日はもうこれで終わりかな?』


「そうですね……」


 時間はまだたっぷりある……なによりも……


「悔しいですし、また入ります!」


 次は絶対にあの弓持ちのゴブリンを倒してみせる。

 そうして再びダンジョンへ入場した。もちろん、配信も続けながら。



---瓜生飛鳥視点---


 ミミからダンジョン内での生配信について聞かれたと聞いて、なんとなく様子を見ていた。

 4階のゴブリンアーチャーでやられてしまったみたいだけど、また挑戦するようだ。

 ひとまず、続けるってことは楽しんでくれたってことだよね?

 それなら良かった。


「うん、でも普通の女の子はこうだよね……」


 僕はパソコンの画面を別の視点にする。

 そこには、ゴブリンアーチャーに凄い勢いで詰め寄り、剣で首を真っ二つにする妹様が映っていた。


-----

これで一般人である土岐葵の閑話は終了です。

これ2話で終わるはずだったのに、なんで5話になっているのか……コレガワカラナイ。

次はまた別の人の視点となります。

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