閑話 とある配信者その4
意気揚々とダンジョンを進んでいく。
『ちなみに、どういう感じなん?』
「えっと、どういう感じ? とは?」
『身体の動きとかそういうの?』
『そうそう、リアルな自分なのか、それとも何かを動かしてるみたいなのか、とか』
『コントローラーを使って動かしてるみたいな?』
『動きにラグとかあるのん?』
『普通の自分と比較して強くなったとかそういうのも気になる』
あー、そういうことか。
「うーん、今のところ、リアルな私とあんまり変わらない感じですね」
身体も特に意識せず自由に動く。
「なんとなく、寒い……というよりは涼しいっていう感覚もありますね。そういう意味でも外と何も変わらないです」
うん、本当に洞窟の中に入ったらこういう感じなのかなっていう。
「あと、自分が強くなったって感じもしないですね。運動能力は……いつも通り悪いままです……」
うん、ステータスみたいなものでもあるのかと思ってたけどないらしい。説明を聞く限りだとHPだけはあるみたいだけど。
『ふむ、なるほど助かる』
『凄い超高性能なVRMMOみたいな感じかな?』
『ラノベでよく見る、脳波を読み取って動かすやつみたいな感じかな』
『いや、それだと、結局身体は動かしてないから、どちらかというと身体ごとダンジョンに移動してきたみたいな?』
『そこんところどうなってるんだろ?』
あー、そう言われれば気になるね。
今も私の身体は現実にもあったりするのかな?
あとでちょっと渚に確認しておこう。
「同居人がいるので、その辺りは確認しておきます」
渚も放送見てるはずなので、今の私の言葉できっと確認に行ってくれるはず。
そんな感じで雑談しつつ進んでいくと、
「あっ! 宝箱!」
床に置いてある箱を見つけた。
お宝! お宝だよ!
早速近づいてその宝箱を開ける。
「これは……槍?」
宝箱を開けると、その宝箱が消えて、槍がその場に落ちていた。
大きさがさっきの宝箱よりも大きいんだけど……まぁ、気にしないでおこう。
『槍かぁ』
『武器だよね』
『投げ槍ワンチャン?』
『いや、流石に普通の槍では?』
『投げたらどうなるんだろ?』
槍を手にとってみる。
「ちょっと重い……かな?」
さっきの剣よりは重く感じる。
「物干し竿を持ったみたい」
『物干し竿www』
『例えよwww』
『いや、物干し竿って刀なかった?』
『あー、佐々木小次郎の刀だな』
『まぁ、きっと主は意識せず普通の物干し竿と比べたと思われ』
そうだよ、そりゃ、槍なんて持ったことないからね。庶民的で悪かったね。
「えっと、槍なら突くだけでいいんですよね? 剣よりは良さそうかな?」
そんなわけで、武器を剣から槍にチェンジする。
試しに現れたスライムに向かって突いてみる。
「やっ!」
ぷすっと何かを刺したような感触。
再びスライムは消えていった。
『ふむ? 見た感じだと、スライムのコアを攻撃すると一撃っぽい?』
『それな、多分、コアが弱点なんだろうね』
『しかし、主は多分何も意識せず攻撃したと思われ』
コア……そんなのあったの? 全然気がつかなかったんだけど?
まぁ、次からは確認するとして……
「うん、遠くから攻撃できるのは楽ですね」
やっぱり長いってのはいいことだよ。
「あっ? 赤い魔法陣!」
これで次の階へ行けるはず。
早速それに入って、次の階へ向かった。
2階も1階と同じ洞窟のような見た目だった。
しかし、変わった点として……
「人影……いや、それにしては小さ……ひえっ」
何かが歩いていると思ったら、そちらが振り返ってこちら側を向いた。
全身が緑色で子どものような体長、とんがった鼻に尖った耳、目はギラついていてちょっと怖い。
「ひょっとしてゴブリン!?」
スライムは可愛げがあったけど、これはちょっと流石に……
「ゴッ!」
「えっ? わっ!」
思わず下がると、ゴブリンは走ってこちらに近寄ってきて、持っていた棍棒を振るってきた。
とっさに手で防ごうとしたけれど、棍棒は手をすり抜けて私の身体に当たった。
「痛っ……くない?」
ちょっと押された感じはあったけど、痛みはない。
殴られた場所を確認するけど、なんともなかった。
『あー、なるほどHPでガードされてる感じかな?』
『痛みがないってのは助かるね』
『でも、ノックバックはあるのか』
『HPがなくなるとダンジョンからはじき出されるんだっけ?』
あっ、そっか。痛みの代わりにHPが減ったんだ。
すぐにスマホを出して確認すると確かに表示が変わっていた。
この感じだと同じ攻撃をあと4回受けたら0になってしまう。
『確認してる場合ちゃうで?』
あっ! そうだ!
こうしてる間にもゴブリンは再び私に棍棒を振りかぶっている。
慌てて後ろに下がってそれを避けた。
「よし! やられる前にやる!」
人型だから躊躇していたけど、こうなったらやるしかない!
「やっ!」
覚悟を決めて持っていた槍をゴブリンに突き刺す。
『ひえっ!』
『うわっ! 的確に目を……』
『怖っ!』
私の槍がゴブリンの目に突き刺さっていた。
ゴブリンは悲鳴をあげてよろける。
どうやら、一撃では駄目だった様子だ。
「やっ!」
もう一度槍を突き出す。
その槍は、ゴブリンの左胸部分に突き刺さった。
攻撃を受けたゴブリンが倒れて消えていく。
『な、ないすー』
『的確に弱点突くの怖すぎない?』
『最初の一撃で目を攻撃して視界を奪い、二撃目で心臓を攻撃かぁ……』
『主は槍とか使ったことあったので?』
いや、全然ないよ。
弱点っぽいところに当たったのはたまたま運が良かっただけだから。
「ふぅ……倒すことができましたね……あれ?」
なんか視界が滲む……
『うん? どうした?』
突然止まった私にコメントも心配してくれる。
目元を拭ってみると、少し濡れてる。
どうやら、涙が出ていたみたいだ。
「すみません……なんか、勝手に涙が……」
なんで泣いてるんだろう?
『泣いてるの?』
『あー、まぁ、スライムと違って人型だからなぁ……』
『しょうがない、主だって普通の女の子なんだな』
『それに、あんなふうに襲いかかられたら誰だって怖いよね』
そっか……私、怖かったんだ。
『大丈夫? 一旦出る?』
『せやな、少し落ち着くのもありだよ』
『無理せんでもろて』
優しいコメント……皆だってダンジョンの続きが気になるだろうに……
……うん、これはゲーム……あくまでもあれは敵モンスター……大丈夫、大丈夫。
「いえ……大丈夫です……続けます」
涙を拭って、答える。
『大丈夫ならいいんだけど……』
『辛くなったら帰ってええんやで』
『頑張って! 応援してるよ!』
応援を受けた私は再び攻略を進めた。
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