閑話 とある配信者その3

「ど、どうも失礼しました……」


 数分後、私は放送を再開した。


『おかえりー』

『気分は大丈夫?』

『初配信でキラキラした配信主がいると聞いて』

『同接1000人超えてるよ』


 ちょっと見てない間にまた凄い人数になってる!


「あ、はい。大丈夫です」


 うん、まぁ、私がどうしてたかはなんとなく察しがついているみたいだけど、乙女の危機はギリギリ守れた……はず?

 ……ちらほら触れてるコメントはあるけど、見なかったことにしておく。


「き、気を取り直して……ここがダンジョンの中みたいです」


 改めて周りを見回してみる。

 私は一歩も動いていないのに、そこは私の部屋ではなく少し寒さを感じる、土壁で囲まれた空間に変わっていた。


『うへぇ、これがダンジョンかぁ……』

『洞窟って感じのダンジョンだね』

『近所の裏山の洞窟みたい』

『お前のところの裏山、洞窟なんてあるのか?』


 うん、洞窟って表現が一番正しいかな。

 本当にゲームにありそうな洞窟ダンジョンだ。


「βダンジョンへようこそ」


「誰!?」


 どこからともなく声が聞こえてきた。


「ダンジョンの管理者です。これからダンジョンの説明を行います。2度は説明しませんので聞き逃した場合はアプリのヘルプからご確認ください」


 あっ、なるほど。こういう感じで説明してくれるシステムってことか。

 私の言葉に答えてくれたみたいだけど、受け答えもしてくれるのかな?

 事前にヘルプには目を通してあるけど、改めて確認をしていく。


「ダンジョンから退室されたい場合は、アプリからリタイアを選択してください。その場合は、持ち込んだアイテムはリセットされますが、ダンジョンの外に出ることができます」


 ふむふむ、ヘルプの通りっと。


「……それでは、ダンジョンの攻略を開始します」


 おっと、もう終わり……あっ!


「すみません! 質問いいですか!」


 一応、確認しておかないといけないことがあったの忘れてた。


「なんでしょうか?」


「えっと、私、一応許可をもらって配信してるんですけど、大丈夫ですか?」


 そう、実は私、配信するにあたって、事前に問い合わせをしていた。

 この前のテストの時に勝手に情報を漏らした人がいたらしく、それってどうなの? と一部では話題になっていたのだ。

 念のため問い合わせをしたら、プレイヤー名だけ聞かれて何かあっても自己責任という元OKが出た。

 なので、これは念の為の確認だ。


「……プレイヤー名、アオイさんの許可は出ていますので問題ありません」


 よかった、無事に許可されてるみたいだね。


「ご質問は以上でしょうか?」


「あ、はい。ありがとうございます」


『それでは、お気をつけていってらっしゃいませ』


 それ以降、声は聞こえなくなった。

 どうやら、説明は以上みたいだ。


「ふぅ……」


 なんとなく、息を吐いてしまう。ちょっと緊張していたのかな?

 あ、そうだ、コメントに目を通さないと……


『あー、なるほど、ちゃんと許可取ってないとまずいのか……』

『だから、他の配信だと、ダンジョンに入れなかったのか』

『この配信だけ残ってるから不思議だったんだ』

『最初に入ってるところちゃんと見てるから、嘘説はなかったけど、これで判明したわ』

『むしろ、ダンジョン入れなかったやつはちゃんと問い合わせしてなかったんだな』


 なるほど、他でも配信しようとしてた人はいたけど、許可なしだとそもそもダンジョンに入れないんだね。


「ちなみに、その人たちってどうなったんですか?」


 まさか、一発アウトで許可取り消し……とか?


『聞いた限りだと、ペナルティで再入場に時間制限がついたらしい』

『再入場はできるけど、3時間は開けなきゃいけないっぽい』

『サッカーで言うなら、イエローカード状態っぽいよね』

『その理屈だと、2度目はレッドカードか……』

『まぁ、どうなるかはわからんけどね、流石にまだ誰も試してないし』


 ほへぇ、なるほど。


『それで、ちゃんと入れてるこの配信には凄い人数が集まってるというわけ』

『加速度的に人が増えてるwww』

『1万超えてるぞwww』


「1万!?」


 いつの間にかそんなことに!?

 いや……1000人も1万も……変わらない……か? うん、そう思っておこう。


「説明も聞いたことですし、えっと……あっちかな?」


 そちらには閉まっている石の扉が。

 多分、あそこから外に出るんだと思うんだけど……


「なんか、剣が刺さってますね」


 扉には剣が刺さっていた。


「えっと? それ以外に取っ手みたいのはない……ってことはこれを抜けばいいのかな?」


 試しに剣に手を伸ばして引き抜く。


ゴゴゴ


 剣を引き抜くと、扉が動き始めた。

 音を立てて、ゆっくりと上に開いていく。

 こういうの、なんか、ちょっとワクワクする。


『剣を抜いたら始まるっていう演出すこ』

『わかる、なんかちょっとワクワクするよね』

『さぁ! 攻略の始まりだ!』


 頑張ろう!


「あっ、そうだ! 多分、これからはコメントを見る余裕とかはないと思うので、読み上げしてくれるやつにしておきますね」


 スマホも胸ポケットに入れて、カメラだけ見えるようにして……これでよしっと。

 このあたりは次はもうちょっと考えないとなぁ……


 ダンジョンの中へ進むと、そこは変わらず洞窟の中。

 どうやら、ダンジョンの中はこの感じみたい。


「あっ! なんかいた!」


 ダンジョンの中を警戒して歩いていくと、物陰から何かが飛び出してきた。


「……スライム?」


 ぷにぷにの見た目、丸い形、色は透明で向こうが透けている。

 ゲームでよく見かけるスライムという感じだ。


「ちょっとかわいい?」


『雑魚敵代表のスライムさんだ!』

『作品によっては強いから』

『服が溶ける液体飛ばしてきたりとか……』

『そんな、えっ! なダンジョンなのか?』


 服溶かす……のは困るんだけど……


「変な液体とか飛ばしてくる気配はないですね……」


 警戒してみたけど、特に攻撃してくる気配はない。


「近づくと攻撃してくるとかかな?」


 うん、多分そうだね。

 こっちに向かって近づいてくる。

 でも、移動は遅いから避けるのは簡単そう。


「えっと、この剣で叩けばいいのかな?」


 さっき抜いた剣をスライムに振り下ろしてみる。


「やっ!」


 スライムに向かって振り下ろした剣は……


「あれ?」


 何にも当たらなかった……


『ミス!』

『距離感が掴めてない』

『ちょっと顔赤くなってない?』

『まぁ、そんなもんよwww』


 しょうがないじゃない!

 剣なんて持ったの初めてなんだから!

 ちょっと距離を取って、改めて狙いを定めて攻撃。


「当たった!」


 今度こそ攻撃を当てることができた。

 何かを押しつぶす感覚が手に伝わってくる。

 剣をあげると、スライムは薄くなっていく。

 倒したってことかな?


『スライム弱っ!』

『まぁ、最初の敵だしね?』

『運良くクリティカル引いたとか?』

『クリティカルとかあるのか?』

『クリティカルじゃなくても、弱点とか?』


 そっか、弱点……そんなのもあるのかも? 次はもっと確認しよう。


「よし! それじゃあ、次へ行きましょう!」


 スライムを倒したことで、意気揚々と私は再び攻略を始めた。

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