閑話 とある配信者その2

「えっと、これで配信できてるのかな? こんにちは」


 自分の部屋で、緊張をしながらスマホのカメラに向かって話しかけてみた。


 そう、結局私は配信をすることになったのだ。

 渚に押し切られた……のはあるけど、


「もしも、人気が出たらそれでお金になるかもしれないよ!」


 という渚の言葉に、私も少し期待してしまったというのが一番の理由だ。


 どうも、調べたら確かに落選したという人は多いみたいだし、それだけで見に来る人がいるかもしれない。

 どのみちバイト探しにも苦労していたので、生活の足しに……なんて……

 そんな期待に心惹かれてしまったのだ。


 まぁ、よくよく考えたら初配信だし、そんな人が来るはずが……


『初見』


 と、コメントがついた。

 コメント!? いや、渚かな!?

 今は自分の部屋にいるはずだけど……


『噂のダンジョン配信と聞いて』


 さっきとは別の人!? ってことは渚じゃない!?

 あ、な、なんか答えないと!


「あ、はい、運良く当選しましたので、せっかくなので配信しようかと……」


 こんな感じでいいのかな?


『当選羨ましい!』

『俺も応募したけど、普通に落選した!』

『噂のダンジョン気になってたから配信助かる!』


 また増えてる!? というか、視聴者数がどんどん増えてるんだけど!?


「なんで!? 100人超えたぁあああ!?」


 ついに100人も超えてしまった。

 こんな初配信に人が集まってくるなんて……


『すげぇ声出てるwww』

『掲示板で拡散されてたからな!』

『多分、これからも増えてくと思われ』

『今話題のダンジョンだからな!』


 わかってたけど、ダンジョン配信ってやつの話題性を見誤っていた。


「あっ……えっと……」


 こんな大人数が見てくれてるとわかったら、急に緊張してきた。


『主さんは初配信みたいだし、そんな緊張しなくて大丈夫だよ』


 顔に出てたのだろうか? そんな優しいコメントが流れてきた。


『失礼な言い方になるかもだけど、正直ダンジョンに興味あるだけだからな』

『せやな、むしろダンジョンの中見れるだけでもこっちは助かる』

『凄い攻略とかに期待してるわけじゃないから、素直にやればいいよ』


 そっか……そうだよね。

 私のやることは、私の攻略を見せるんじゃなくて、ダンジョンがどんなところなのかを紹介すること。


 うん……そう思ったら、なんかちょっと落ち着いてきた。


「よし! では、早速ですが、ダンジョンに潜っていきましょう!」


 気を取り直して宣言をする。


『待ってました!』

『どういう感じで入ってくのん?』

『今って自分の部屋とか? そこから移動するのか?』

『確かスマホから入れるんだっけ?』


 コメントが流れてくる。


「そうですね、事前に送られてきた入場方法によると、アプリから入場ってするといけるみたいなんですが……」


 当選ってなった後に、私のスマホに送られてきたアプリ。

 インストールはしてあるけど、まだ立ち上げたことはない。


「えっと、こうすれば見えるかな?」


 スマホを操作して、もう一つのスマホが見えるように映す。

 今回のために、スマホは2台用意した。

 1つが配信用、もう1つがダンジョンアプリをいれたやつだ。


『見えてる見えてる』

『アナログな方法で草www』

『配信アプリ入れようぜwww』


 うん、まぁ、そのあたりはね……初心者なので……

 コメントにおすすめアプリあるのであとでちゃんと見ます。


「えっと、これが当選者に送られたダンジョンアプリで……マニュアルによると、ダンジョンを選択して入場ってやるみたいなんですが……」


『ダンジョンを選択……今後も増えてくってことかな?』

『今は1個しかないけど』

『βダンジョンってそのまんまだなwww』


 項目にはβダンジョンというダンジョンだけが表示されている。

 それをタップすると、入場ボタンが表示された。


「それでは……早速ですが、押しますね」


 宣言をして、入場ボタンをタップする。


「……何も起こらな……えっ!?」


 何も起こらないと思った瞬間、視界が歪んで、思わず座ってしまった。

 立ち眩み!? こんな時に!?


 ……いや、違う!


「なんか部屋自体が歪んでる!?」


 私の視界じゃなくて、部屋が歪んでる!?


『まじか!?』

『大丈夫か!?』

『えっ!? エフェクトとかじゃなくて、まじで起こってるの!?』

『やばっ!?』


 こんなの初めてのことで気持ち悪い……やばい……かも……

 そんな私とは裏腹に、部屋はどんどん形を変えていく。

 そして、最後にはそこは私の部屋ではなく、周りを土壁で囲まれたような空間になっていた。


『ほんとにダンジョンに入った!?』

『こういう感じで移動するのか!?』

『すげぇ技術じゃん! まじでどうなってるのかさっぱりわからん!』

『物理的に移動したってこと? それとも、精神だけ入ったのか……』

『主の様子を見てると、物理的に移動したって感じがするね』

『というか、主、さっきから伏せてるけど大丈夫?』


 大丈夫……じゃ……ないかも……


「すみません……ちょっと……気持ち悪……おえっ……」


 限界だった、なんとか最後の力を振り絞って、音声と映像をオフにした。

 そして私の口からキラキラとした……


『ちょっ大丈夫www』

『いきなりかwww』

『見せられないよ!』

『初配信でこれは草生える』

『いや、笑い事じゃないけど、笑うしかないわwww』

『正直、主には期待してなかったけど、これは期待できるwww』


 そんなコメントで盛り上がっていたことを私は後で知るのだった。


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おかしい。プロットには「視界が歪んで、ちょっと気持ち悪くなる」としか書かれていないのに、キラキラ描写が入った。

自分でもどうしてこうなったのか、コレガワカラナイ(2度目)

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