第41話

「結構時間かかったけど、無事で良かった」


 朝倉さんはゆっくりと時間をかけて9フロアを攻略していった。

 ダンジョンの攻略を始めてもう半日以上が経っている。


「ここの病院って何時までだっけ……?」


 むしろそっちが心配になってきた。


「うーんと? 確か20時って書いてなかったっけ?」


 あら? 雛香にしては珍しく覚えてたな。


「早く終わったら打ち上げできるかなぁって見てた!」


 そういうことか。

 まぁ、時間がわかったのは助かる。


「そうなると、あと3時間くらいはあるのか」


 多分攻略は間に合う。

 妹さんに薬を飲ませるところまでも多分いけると思う。


『……ここが最後のフロアですね』


 なにせ、残りは10階のボスフロアだけなんだから。



 10階に入った朝倉さんは、まずは周りを見回す。

 しかし、ボスは見当たらない。


『……聞いていた通りですね』


 ここまで朝倉さんはほとんどアイテムを入手していない。

 せいぜい、矢の罠で矢を入手したくらいだ。

 つまり、朝倉さんはほとんど素の状態でボスと戦うことになる。


 戦闘が苦手な朝倉さん、どうやってボスと戦うのか。

 それはもちろん、相手の能力を利用するのだ。


『穴……ですね』


 部屋の中心には一つの穴が空いている。

 朝倉さんがゆっくりとそれに近寄ると、


『……モッ』


 穴の中から何かが出てきた。

 丸い頭に細長い身体、モグラのような見た目をしたモンスターだ。


「……結構かわいい?」


 雛香がそんなことを言っている。

 でも、こいつはやっかいなボスなんだよ。


『……モモッ!』


 そいつは朝倉さんを認識すると、穴から手を出す。その手には丸い何かが握られている。


『……!?』


 朝倉さんはすぐに退避行動に出た。綺麗な横っ飛びだ。


ドンッ!!


 その後すぐ、朝倉さんが先程までいた場所で爆発が起こった。


「ひゃぁっ!」


 そう、こいつは爆弾を投げてくるモンスターなのだ。

 しかもやっかいなことに、


『……モッ』


 モグラは穴の中へ消えていく。

 その見た目通り、地面を掘って移動し、不定期に穴から顔を出して爆弾を投げてくるのだ。

 気がついたら後ろから爆弾を投げられてたなんてこともありえる、やっかいなボスだ。


 しかし、それにも対処法はある。


 朝倉さんは横っ飛びしたところから立ち上がらず、地に耳をつける。


『……移動音……これは……こっち?』


 その対処法は、モグラの移動音を聞くことだ。

 地面を掘って動くため、よく聞けばその掘る音が聞こえてくる。

 そうやってモグラが出てくる位置を把握して、


『モッ!』


 出てきたモグラが再び朝倉さんに向かって爆弾を投げる。

 今度は朝倉さんは、それを避けることなく待ち構えた。


「ほっ!」


 朝倉さんはその爆弾をキャッチする。

 そして、モグラに向かって投げ返した。


ドンッ!!


 モグラに当たった爆弾が爆発する。


「いいね! 朝倉さん!」


 今のはタイミングぴったりだ!


 これが、このモグラボスの倒し方。

 投げてきた爆弾をキャッチして、モグラに投げ返す。

 それだけなんだけど、失敗すれば自分がダメージを負うことになるから結構集中力が必要だ。

 しかも、朝倉さんの場合は、1回でも爆弾のキャッチに失敗して直撃をくらおうものなら、HPが吹き飛んでしまう。

 ミスのできない戦いになるのだ。


「朝倉さんならいけるはず……」


 もう信じて祈るしかない。



 戦いが始まってしばらく経った。

 朝倉さんは確実にキャッチできる爆弾を投げかえし、無理そうならば回避に専念。

 その判断を一瞬のうちに行っている。

 戦いは順調、朝倉さんは脅威の集中力を見せている。


ドンッ


「やった!」


 また一発、モグラに爆弾攻撃を当てることができた。

 爆弾の煙が晴れたあと、いつもだったらモグラは潜っていてそこの姿はないのだが、今回はモグラはまだそこに留まっていた。


『モモォ!』


 モグラは怒ったように鳴き声をあげる。


「……きたかっ!」


 ここからが本番だ。

 モグラの隣に穴が空く、そこからもう一匹のモグラボスが出てきた。


『……増えましたね、ということは残り半分ですか』


 これは相手のHPを半分削ったところでやってくる行動だ。

 ここからは2体のモグラボスを相手にしないといけなくなる。

 こんなの素の状態で勝てるのか? っていうレベルだ。



 朝倉さんは2体のモグラボスを相手にも果敢に戦っている。

 位置をうまく調節して、なるべく片方のモグラボスに寄って同時に自分へ爆弾が届かないようにしている。


「……凄いねこの人」


「だろ?」


 あの雛香でさえも、朝倉さんの戦いぶりには感心している。

 それほどまでに朝倉さんのこの集中力は脅威的だった。

 しかし、


「……あっ!」


 そんな集中力が身体に負担をかけていた。

 朝倉さんの足がもつれて、転んでしまった。


「やばい!」


 タイミング悪く、そこに一体のモグラボスが爆弾を投げ込んできた。

 転んでいる朝倉さんは当然避けることができない。


ドンッ!!


 爆発に巻き込まれて、朝倉さんは吹き飛ばされてしまった。


『ぐっ!?』


 苦しそうにうめきながら立ち上がる朝倉さん。

 身体にダメージはないが、負担がかかってふらふらとしている。


「ミミ! 朝倉さんの残りHPは!」


『HPを確認します……残りHPは0です』


 やっぱりか! 朝倉さんの身体を守ってくれたHPもたった一発の爆弾で吹き飛んだ。

 これで朝倉さんを守ってくれるガードはない。


「お兄ちゃん! 強制離脱を!」


 雛香に言われなくても、すぐに僕はその指示を……


「……!?」


 その前に手を止めた。


「お兄ちゃん!?」


「朝倉さんが……まだいけるって……」


 朝倉さんが、手を振っている。

 これは、僕らが事前に決めた、まだいけるのジェスチャーだ。


「朝倉さんは……まだやる気みたいだ」


「そんなっ!」


 もちろん、強制的に離脱させることもできる。

 ただ、朝倉さんはそれを望んでいない。


 そして、朝倉さんは戦闘を再開した。



「……ミミ、次に指示があったらすぐに強制離脱できるようにしておいて」


『わかりました』


 朝倉さんが望むのであれば最後まで見守る。ただ、さっきよりももっと早く脱出できるようにだけ準備はしておこう。



 再び爆弾を避けては投げる作業に入った朝倉さん。

 HPからのガードがなくなったため、爆風が朝倉さんの身に襲いかかっている、服もすすだらけだ。


 それでも、朝倉さんは果敢に爆弾に挑む。

 さっき転んでしまったのが嘘のように、朝倉さんは集中力を取り戻している。

 何個目かの爆弾を投げかえし、モグラボスにダメージを与える。


「そろそろか!?」


『残り……1個分です』


 ついに、残り一個爆弾を投げ返せばモグラボスを倒すことができる。


「残り一個!」


「頑張れ……!」


 応援する僕らもこれはいける! なんて思っていた。

 しかし……


「まずっ!?」


 運が悪いことに、一匹のモグラボスの爆弾を避けた、ちょうどその場所へ向かってもう一匹のモグラボスが穴から出て爆弾を振りかぶる。

 止まった瞬間。タイミングが最悪だ。

 まだ先程の爆弾が爆発したばかり、避ける方向がない。キャッチしようにも距離を考えると掴んだ瞬間爆発する。


「これは流石に……!」


 強制離脱かと思ったのだが、


「……っ!」


 そんな窮地に朝倉さんはスマホを手にとる。


「何を!?」


 即座に操作して、アイテムを取り出した。

 そして取り出したそれをモグラボスに向かって投げた。


「この矢で倒せる!?」


『計算ではギリギリです』


 朝倉さん、渾身の投擲によって投げられたそれ、矢はモグラボスに向かって一直線に飛んでいく。

 モグラボスも朝倉さんに向かって爆弾を投げる。間に合わなかった。

 これだと、仮にモグラボスに矢があたって、朝倉さんは爆発に巻き込まれてしまう。

 しかし、そうはならなかった。


ドンッ!!


 矢はモグラボスではなく、爆弾にぶつかった。

 その瞬間、爆弾は爆発して、モグラボスを巻き込んだ。


『モモォオオ!』


 モグラボスは爆風に巻き込まれて悲壮な鳴き声をあげる。

 矢は始めからボスじゃなくて爆弾を狙ってたのか。


 でも、朝倉さんもモグラボスほどじゃなかったけど、爆風に巻き込まれてしまった。

 爆風が過ぎた後には、倒れ込んでいる朝倉さんだけが残っている。


「大丈夫!?」


 雛香が心配そうに叫ぶ。

 でも、僕にはわかってる。


『……なんとか……なりましたね』


 朝倉さんが無事に立ち上がった。

 立ち上がった瞬間少しふらついたけど、しっかりと自分の足で。


「……おめでとう」


 フィールドが光、もぐらがいた穴が消えていく。同時に宝箱が出現した。

 今回の報酬だ。

 朝倉さんは無事にダンジョンの攻略に成功した。

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