第40話 攻略開始

 方針が決まってダンジョンの作成をすること3日間、ダンジョンが出来上がった。


「……お兄ちゃん大丈夫?」


「……ん……ああ、少し眠いだけ」


 なるべく急いでと思って、睡眠時間を削ったからかな? やけに眠いわ。


「すみません、私たち姉妹のために……」


「はぁ……まぁ、でもやると決めたのは僕なので」


 それに、急いで作ったのは途中から興が乗った自分の責任だ。


「それで……いつから入ります?」


 いつでもダンジョンに入れるようになってる。あとは、朝倉さんの好きなタイミングで入るだけだ。


「……そうですね……ちょっと結衣に会ってきたいんですけど……その後で良いですか?」


「ええ、問題ないです」


 考えたくないけど、もしものことがあったら……その前に会っておきたいよね。

 そうそう、もしものことってことなら……


「朝倉さん、一応病院でやりましょうか。先日の話し合いをしたところから入場しましょう」


 朝倉さんがダンジョン内で傷ついて帰ってきても、病院だったら治療には困らない。


「……そうですね……ええ、大丈夫です」


 それが朝倉さんもわかったのか頷いて返してくれた。



「あっ! お姉ちゃん!」


 病院に行き、妹さんの部屋の前まで僕らは待っていることにした。


「結衣、起きてて大丈夫なの?」


 中からは二人の会話がかすかに聞こえてくる。


「うん、今日は調子がいいんだよ」


 どうやら、今日は妹さんが起きているようだ。


 それから二人の話は続いた。

 内容は……なんてことはない姉妹の会話だったと思う。

 あんまり内容を聞かないようにしてたから断片的にしか聞こえなかったけど。


「それじゃあ、結衣。またね」


「あれ? もう行っちゃうの?」


「ええ、ちょっと今日は用事があってね」


「……わかった。ねぇ、お姉ちゃん」


「うん? 何?」


「……また明日ね」


「うん、また……」


 部屋から出てくる直前にはそんな会話が聞こえてきた。

 ひょっとして妹さんは何か感づいているのかな?

 そうじゃなかったらあんな会話にはならないと思う。


「……お待たせしました」


 朝倉さんが部屋から出てきた。

 その顔はやはり何か思うところがあるようだった。

 しかし、同時に何かを決意しているようにも見える。

 ……絶対に帰してあげないといけいなぁ。



「それじゃあ、朝倉さん、準備はいいですか?」


「はい。大丈夫です」


 別室へ移動して、いよいよ朝倉さんが入るだけ。朝倉さんは杖を一本だけを持っている。

 これは、なんの効果もないただの木の杖だ。単なる罠チェック用なので、難易度には影響はない。他の武器は持ち込めないからね。


「……本当にまずいと思った場合は、合図をしてくださいね」


「はい。わかってます」


 今回のダンジョンはHPが0になったら強制離脱というルールがない。つまり、HPが0になった時には死が待っている。しかも途中退場もできない。

 しかし、そんなことをさせるわけにはいかない。

 だから、もしもの場合は、ダンジョンを壊してでも脱出させることにした。

 もちろん、無理やり強制退場させるので、ただではすまない。どこに出されるか、どんな状態で出されるかはわからないのだ。


 それでも、命がある方がいい。

 僕は朝倉さんを監視して、朝倉さんからの合図があったらすぐにダンジョンを壊すことにしている。

 ……そんなことがないといいけど。


「それでは、行ってきます」


 スマホを操作して、朝倉さんはダンジョンへと入っていった。


「……さて」


 それを見送った僕もパソコンの前で待機をする。すぐに朝倉さんがダンジョンへ入ったことが確認できた。


『……いつもと同じ風景ですね』


 朝倉さんの声が聞こえてきた。


『そちらにはこちらの声が聞こえているのでしょうか?』


 返事はできないけど、聞こえてるよ。


『……聞こえてるのでしょうね。まぁ、いつも通りでしょう』


 朝倉さんはそう言って、スマホを取り出して何かを確認する。


『手持ちのアイテムもなしですか……』


 アイテムの確認をしてたのか。ちなみに、アイテムは消えたわけじゃなくて、見えなくなってるだけだから、ダンジョンから出れば見えるようになるよ。


『……それでは、進みます』


 今度こそ朝倉さんは歩みを進めた。

 その進みは非常にゆっくりだ。なにせ、入念に罠チェックをしながら進んでいくんだから。


「……そのまま進むと、罠があるけど……」


 朝倉さんの進む先にはちょうど罠がある。というか、このフロアも罠だらけだ。


『……ん』


 振っている杖が罠を見つけたようだ。朝倉さんはしゃがんで確認をする。


『……これはオーソドックスな矢の罠ですね』


 罠は形でなんの罠かわかるようになっている。

 ダンジョンに入る前に、朝倉さんには罠の種類を教えこんである。


『ふむ……』


 罠とわかっているならばスルーすればいいだけなのだが……

 朝倉さんはキョロキョロと周りを見回し、その罠に向かって杖を差し出し押し込んだ。


ヒュッ!


 朝倉さんの目の前を矢が通り過ぎていった。


『……あれが当たったら痛いではすみませんね』


 あえて起動して確認したのか……確かに、わかってれば避けられる罠ではあるけど。


『しかし、これで解除できた上、矢も手に入りました』


 目的はそっちか。確かに、ドロップがない以上、矢は貴重なアイテムだけど。

 そして、歩き出した朝倉さんは次の部屋へ。


『スライムですか……』


 モンスターは最弱のスライムだ。

 罠を多めにしているため、モンスターの強さはかなり控えめ。その中でも最弱のモンスターだ。

 しかし、


『……罠も見えますね』


 この部屋の中にも罠が配置されている。

 しかも、今回は地雷罠だ。これを踏んでしまうと、HPが1になるという非常に強力な罠だ。

 流石に敵がスライムでもこの地雷を踏んだあとに相手をすると危険になる。

 そもそも、回復手段とかないわけだから、踏んだ時点でもう終わりだろう。


『……なるほど、これならば……』


 朝倉さんは何を思ったのか、スライムを攻撃する。

 もちろん、武器もないのでほとんどダメージもない。

 そもそも、今回の攻略、武器が出ないので敵への攻撃手段がないのだ。

 攻撃した朝倉さんはスライムから距離を取る。


『このあたりですね』


 スライムと朝倉さんの間には地雷罠が。

 敵モンスターは罠を気にしない。そもそも敵には反応しないようになっているのだ。

 結果、そのまま、地雷罠へと突っ込んだ。


『今!』


ドンッ!!!


 地雷罠が大きく音を立てて爆発した。

 朝倉さんが地雷罠に向かって、先程拾った矢を投げたのだ。


『わっ!』


 流石に爆発が大きかったようで、朝倉さんも顔を手で覆っている。

 砂埃が部屋の中に舞い上がっている。

 それが晴れた後には、スライムは当然残っていなかった。


『……これは絶対に踏んではいけませんね。しかし、敵を処理するのには使えそうですね』


 強力な罠も利用してくのか……ほんと慣れてるなぁ。

 朝倉さんは何事もなかったかのように、罠チェックをしつつ、次の部屋へ向かっていく。

 その部屋には次のフロアへの魔法陣がある。


『……残り9階』


 これなら何事もなく攻略できるかもしれない。

 そんなことを思うには十分な探索だった。


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