第39話
朝倉さんが潜ると決めたのならば、僕はすぐにダンジョンを作り始め……
「お兄ちゃん、そろそろホテル行かないと」
「あ……」
そうだった。ホテルのチェックイン時間が迫っている。
「すみません、朝倉さん、今日はここまでにということで大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。それでは、ホテルまでお送りしますね」
「いいんですか?」
「はい、このあたりは車がないと不便ですので」
タクシーでも捕まえようと思ってたんだけど送ってくれるならありがたい。
そのまま、ホテルまで送ってもらった。
「ここですか?」
「あ、はい。ここで大丈夫です」
ホテルは適当に選んだんだけど、なかなかいい感じのホテルだった。
「そうだ、明日も朝倉さん用のダンジョンを作るつもりなんですが……よければ、朝倉さんも話し合いに参加していただけませんか?」
1人で作ることもできるけど、実際に潜る人の意見を聞いたほうがいいよね?
「はい……しばらく会社は有休をいただいてますので大丈夫です」
世間的には連休なんだけど……ひょっとしてブラック……いや、ゲーム会社って言ってたし、きっとリリースでも近いんでしょ。
ともかく、明日はこちらに来てもらうことをお願いしてお別れになった。
ホテルの部屋に来た。ちなみに、部屋は2人部屋だ。まぁ、兄妹だし、何か起こることも……
「……お兄ちゃん……やっと二人きりになれたね……」
「……」
なんか、アホなこと言ってる雛香のことは置いておいて。
「雛香、観光は朝倉さんの件の切りがついてからでいいか?」
流石にのんきに観光してる気分じゃないし。
今日明日でどうこうなるわけじゃないだろうけど、なんとなく気分的にね。
「うん。流石にあれを見ちゃったらね……」
雛香もあの氷漬けは流石にインパクトがあったようだ。
「その分、観光は雛香に従ってもらうからね!」
雛香なりの応援かな? いや、これは半分本気か。
まぁ、観光プランも雛香が練ってくれるならこっちは集中できるからね。
とりあえず、明日に向けて……
「夕飯でも食べようか」
「うん!」
英気でも養うとしよう。
「目的のアイテムはボスドロップになります」
次の日、僕らの部屋に訪れた朝倉さんと話し合いを始めた。
「ということはボスは倒さなければいけないということですね?」
「はい、そうなります」
もっと簡単にいければよかったんだけど、レア度的にはそうせざるを得なかった。
ボスにすると確定ドロップにできるっていう利点はあるけど、その分、ボスの強さが問題になる。
「しかし、私はあまり戦闘は得意ではなくて……」
確かに朝倉さん自身の身体能力はあんまり高くなかったよね。
「ですが、パターンがわかっていれば大丈夫ですよね?」
「はい……そうですね……あまり身体を使うことでなければ……」
うん、その辺りは僕が教えることでなんとかなるとは思う。どのボスを配置するかはちゃんと考える必要があるけど。
「それから、少し考えましたが、敵の数は少なめにして別の手段で難易度を上げようかと思ってます」
「別の手段……ですか?」
「ええ、以前、朝倉さんが攻略している様子を見たことがあって……」
その時のことを思い出して、他の人なら難易度が高いけれど、朝倉さんならいけるだろうってことを思いついた。
「……私の攻略の様子を……ですか?」
「あっ……」
そっか、見てたの知らなかったんだっけ……
とはいえ、隠してたら話が進まないし……
「……すみません、目立つプレイヤーがいるなぁと思って見てたら、ちょうど朝倉さんでして……」
「目立つ……ひょっとして前回のイベントの……ですか?」
「はい……その……魔法使いの格好で……」
「あの時!?」
うん、まぁ、見られてると思ってなかったらそりゃ恥ずかしいよね。
「ち、違うんですよ! あの格好は普段からしてるわけじゃなくて!」
朝倉さんが慌てたように言い訳を始めてしまった。
「あの時は、結衣に後で撮った動画を見せようと思って! それでできるなら魔法使いみたいな方が結衣が喜ぶかなって!」
あー、そういうことだったのか。
「それで、独り言が多かったんですね……」
合点がいった。
「そんなところまで見られてたんですね……」
朝倉さんの顔が赤くなってる。歳上の方を称するのはあれだけど、ちょっとかわいい。
いやいや、そうではなく。
「で、ですね。その時に朝倉さんは罠チェックをしてたじゃないですか」
「あ、はい。そうですね。結局、罠は一つもありませんでしたが」
まぁ、そりゃ罠のないダンジョンだったからね。
「それで、朝倉さんだったら、罠まみれのダンジョンでも大丈夫じゃないかと思ったんですよ」
普通のダンジョンに罠という要素が入るだけで、ダンジョンの攻略難易度は一気に上がる。
例えば、普通だったらなんともない敵だろうと、HPが減っているところに現れたらピンチになる。
それに、罠を踏んで一気に敵が出現して囲まれなんてしたら切り抜けられるかどうかはわからない。
難易度を上げるという意味では、罠というのは非常に有効な要素なのだ。
「でも、朝倉さんだったら、罠をチェックしながら進んでいけば普通に敵が強いよりはクリアしやすいですよね」
「確かに……そうかもしれませんね……」
朝倉さんの強みはパターン化することだ。
めんどくさい罠チェックでも、忘れること無く続けることができる。
「あの、ちなみに、メイゼスさんに罠の場所を教えてもらったりとかはできないんですか?」
あ、そっか、ダンジョン外から声かけられるの知ってるのか。テストの時に声かけたもんね。
「すみません、それだと難易度の問題でできないんですよ。あと、道中の宝箱や敵のドロップもなしになります」
これだけ難易度を上げてギリギリなのだ。
「今回の攻略は朝倉さんの判断力が鍵となります」
もちろん、外から様子を見ていることはできるけど……
「それで……大丈夫そうですか?」
駄目そうなら別の手段を考えるんだけど……
「私……子供の頃から、ローグライクゲームばっかりやってたんですよ」
「は、はぁ?」
えっと?
「ゲームは好きだったんですが家にあまりお金がなくて、新しいゲームを買ってもらえなくて、それでもローグライクゲームは何度でも毎回新鮮な体験ができるじゃないですか」
あー、無限に遊べるゲームなんて言われるくらいだからね。
「その経験がこんなところで役立つとは思ってませんでしたが」
「そりゃ、そうでしょうね」
まさか、自身で本当にダンジョンを潜ることになるなんて、普通は思わないよね。
「……大丈夫です。今までの経験の全てを活かして、必ず結衣を助けます」
朝倉さんの瞳には決意が宿っていた。
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