第42話

「ただいま、戻りました」


 無事に朝倉さんがダンジョンから帰ってきた。


「お疲れ様でした」


「おかえり! あ、これどうぞ!」


 迎えた雛香がすぐにポーションを渡した。


「あ、自分のやつが……いえ、ありがとうございます」


 そりゃ、朝倉さんだって持ってるだろうね。でも、雛香の気持ちを受け取ってくれたようだ。

 朝倉さんが受け取ったポーションを飲むと手に見えた擦り傷が消えた。


「ふぅ……落ち着きました」


 実際に現実で誰かが使うのを見るのは初めてだけど、確かにこう見るとポーションにも結構な効果があるなぁ。

 そりゃ騒ぎになるわ。


 まぁ、それはそれとして、


「魔封ポーションはちゃんと取ってこれました?」


「はい……きちんと」


 朝倉さんが先程のものとは色が違ったポーションを取り出す。


「DPも足りました?」


「ええ、今回の攻略の分で足りました」


 そりゃ良かった。

 今回のダンジョンは難易度が高かったからその分DPも手に入った。

 まぁ、魔封ポーションでその分は吹き飛んだみたいだけど。


「あの……早速結衣にあげてきてもいいですか?」


 朝倉さんはそわそわしてる。


「いいですけど、それより前に着替えたほうがいいと思いますよ?」


 ポーションのおかげで身体の傷はなくなったけど、服はところどころ破けてる。

 目のやり場にちょっと困るし、このまま行ったら心配されるんじゃない?


「あっ……」


 やっと朝倉さんも自分の状態に気がついたようだ。


「僕は外に出てますので」


「はい……」



 そんなわけで、朝倉さんが着替えた後、僕らは妹さんのところへ向かった。

 妹さんはベッドに横になり、顔だけが見えている状態だ。


「あ、お姉ちゃん……と?」


 今回は僕らも一緒だ。

 本当は遠慮しようと思ったんだけど、朝倉さんに付いてきて欲しいと言われたからだ。

 まぁ、ポーションを飲んだ後、何かあったらまずいから僕がいたほうがいいのは確かかもね。


「えっと、僕らは……」


 あ、そういえばちゃんと名前言ってなかったっけ……


「あ! わかった! お姉ちゃんの彼氏さんね!」


「「「えっ!?」」」


 ちょっ、まっ!


「最近、お姉ちゃんが何かに夢中になってると思ってたんだよね! 彼氏さんができたんじゃしかたないかぁ!」


 妹さん、めっちゃ笑顔なんだけど?


「結衣!?」


 朝倉さんの方もめっちゃ慌ててる。


「うーん? でも、彼氏さんが、別の女の子も連れてる? ……ひょっとして二股!?」


「いやいや、朝倉さんとはそういう関係じゃなくて!」


「そうそう! お兄ちゃんは私一筋だもんね!」


 そういうわけでもないが!?


「つまり……お姉ちゃんの略奪愛!?」


「違うわよ!?」


「大愛さん、そういうつもりだったの!?」


 雛香もなんでちょっと警戒してるんだよ! お前はそういうのじゃないってわかってるだろうが。


「……なんてね、お姉ちゃんにそんな度胸があるわけないもんね」


「えっ?」


 妹さんは、てへっと笑う。

 ……どうやら、からかわれたらしい。


「もう……結衣ってば……すみません。お二人共」


 朝倉さんは僕らに頭を下げるけど、まぁ、別に怒ってはいないよ。

 はぁ……なんだか気が抜けたなぁ。


「僕らはお姉さんのお友達……みたいなものかな?」


 友達……でいいよね?


「友達……お姉ちゃん……友達いたんだ……」


「結衣!?」


 なんか朝倉さん酷いこと言われてない?


「……二人はこの間見せた、ダンジョンを作っているのよ」


「お姉ちゃんが魔法使いみたいな格好をして潜ったダンジョン?」


「そ、そうよ」


 動画見せてたんだ。朝倉さんはちょっと恥ずかしそう。


「それで、私のために新しくダンジョンを作ってもらったのよ」


「お姉ちゃんのために?」


「ええ、それでこれはお土産よ」


「この間みたいな魔法の杖は嫌だよ?」


「大丈夫よ、今度はポーションみたいに身体にいいものだから」


 朝倉さんは妹さんに魔封ポーションを渡す。

 ……期待させないために詳しい説明はしなかったって感じかな?


「うーん……なんか変な色してるね」


 魔封ポーションを見て妹さんは警戒をしている。

 まぁ、色が深い紫色だし、変な色っぽいのは確かだけど。


「……さぁ、飲んでみて」


「はーい」


 朝倉さんが妹さんにそれを飲ませてあげる。


「……なんかちょっとピリピリする?」


 まぁ、本来の効果を考えると毒みたいなものではあるしね。

 ただ、こっちの世界の炭酸みたいなものだよ。

 ちなみに味はないよ。


「……」


 飲み干したのを見て、朝倉さんは妹さんの様子を息を飲んで見守る。


「……なんだか……身体が……熱く……」


 魔封ポーションを飲み干した妹さんは、魔封ポーションのビンを離した。


パキッ


「……結衣!?」


「……なんか、身体が熱くて……」


 朝倉さんが心配そうに、妹さんの顔を覗き込んだ。


「……大丈夫なの!?」


 雛香も心配そうだけど、


「大丈夫だよ」


 効果はちゃんと出てるから。


パキッ……パリン!


 布団の中から大きな破裂音が聞こえた。


「「……えっ!?」」


 驚いたのは朝倉さん、妹さん同時だった。

 そして、布団の中から妹さんは手を取り出す。


「……手が……動く」


 そこには先日見たような氷はまるでなく、ちょっとやせ細っただけの女の子の手だった。


「……!?」


 その自分の手を認識した後、妹さんはその手でバッと布団を取り払った。

 そのどこにも氷はない。まるで初めからそんなものはなかったかのようだ。

 でも、


「……お姉ちゃん……手が……足が……動くよ……」


「結衣!」


 そんな当たり前のことこそが、妹さん、朝倉さんの望んでいたことだった。



 その後、妹さんはお医者さんに健康状態を確認してもらうことになった。

 僕らのことは説明できないから、見つかる前に退散することにした。


「……本当にありがとうございました」


 逃げるように病院から出た僕らに朝倉さんはずっと頭を下げていた。


「……ふぅ、とりあえず一段落……かな?」


 お医者さんの診断結果を見ないとなんとも言えないだろうけど、ひとまず僕の役目は終わりかな。


「おつかれさま、お兄ちゃん」


「ああ、雛香も色々と付き合わせて悪かったな」


「ううん、雛香がわざわざ付いてきたんだから」


 そういえばそうだったっけ。

 でも、休み期間中はほとんどホテルに引きこもり状態だったし、雛香にとっては休みが潰れたみたいなものだしね。


「そうだ、観光でも行こうか」


 休みはまだ数日残っている。

 せっかく、秋田まで来たんだし色々と見て回ろうか。


「うん! あ、でも、明日でいいよ? お兄ちゃん疲れてるでしょ?」


「あ、あー、そういえばそうだったな」


 忘れてたけど、ここ数日あんまり寝てなかったんだっけ。


「ゆっくり休んでね」


 そうだな……今日くらいはゆっくり休もう。

 僕の作ったダンジョンが妹さんと朝倉さんを救った。

 この事実で、僕はいい夢が見れそうだ。


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ちょうど今日17時頃に2話目、掲示板回投稿予定です。

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