第36話

 改めてDさんに連絡をとってみることにした。


「内容としては、病気を治す薬を作るにしてももう少し詳しい病気の情報が知りたいってところかな」


 このあたりの質問で、Dさんの反応を見ることにした。


「これで答えられなかったら嘘の可能性が高いってことで」


 どちらかといえばそっちの可能性のが高いと思うんだけど……

 さて、どうかな?


『返信が来ました』


「早っ!」


 こっちが送ってから1分も経ってないんじゃないか?


「ミミ、内容は?」


『はい、どうやら写真が添付されているようです』


「写真?」


 えっ? まさか、その病気の妹さんの写真を送ってきたとかしないよね?


『表示しますか?』


 これが偽物だったら写真とみせかけて変なウィルスとかの可能性があるかもだけど……


「一応聞くけど、ウィルスの可能性は?」


『ウィルスの可能性は0です』


 うん、まぁ、そうだろうね。それだったら最初からミミが言ってるはずだし。


「……それじゃあ、表示して」


 本当に病気の妹さんの写真だったら、気まずいけど。それならそれで覚悟が決まる。


『表示します』


 ミミが画面にその写真を表示してくれた。


「……うぉ!? えっ!?」


 写真は病院のベッドで寝ている女の子の写真だった。

 最初は、本当に女の子が写っていることに驚き、次にその女の子の状態に驚いた。


「足が……凍ってる……?」


 身体が氷のように冷たいなんてどころじゃない、女の子の足は本当に凍っていた。

 いや、氷が足を覆っているっていう言い方が正しいかな?

 いずれにせよ、普通の状態じゃない。


「これ……流石に加工じゃ……?」


 本当にこんな状態の女の子がいるとしたら、とんでもないことだ。


「……ミミ、これって本物?」


 思わずミミに聞いてしまった。


『解析した結果、加工の痕跡は見当たりませんでした』


 ってことは……本物の可能性が高いってことか……

 いや、ミミが見破れなかった可能性も0じゃないけど……


「この世界でこんな現象が起きてるなんて……」


 こんなのもうファンタジーの世界だよ。


『写真の他に文章も乗せられています』


「そっか、そっちも表示して」


 先に写真の方を見てしまったけど、本文のほうも重要だ。これで実は加工でした、騙されやがって……ってのならむしろ安心なんだけど。


「……信じられないかも知れませんが……これは本物の写真です。その証拠として、私と妹の名前、病院の名前を記載します? えっ? 個人情報なんだけど?」


 いやいや、どんだけ切羽詰まってるのさ。

 冒険の様子は見ていたけど、流石にそういうのは見えなかったよ。

 それほどまでに信じて欲しいってことか……とりあえず、後で真田さんにでも確認してもらおうかな?


「えっと……名前は朝倉大愛(あさくら だいあ)さん、で、妹さんが結衣(ゆい)さんか、病院の場所は秋田県?」


 東北か……寒いところだなぁ。


『病院について調べました。確かに存在しているようです。しかし、患者の情報等は見当たりませんでした』


 まぁ、そりゃそうか。普通に個人情報だし見つかるわけない。

 でも、そんな子がいたらもっと話題になりそうなものだけど、騒がれないってことは秘匿でもされてるのかな?


「……後は詳しい病気の状態か……」


 こっちは最初の問い合わせよりも情報が増えた感じだ。


「さて、どうしたものかなぁ……」


 ひとまず、わかったことはDさんが嘘をついている確率が低いってことと想像以上に深刻な状況ってことかな?


「とはいえ、これが魔素のせいで起きてるかどうかの判断はできないよなぁ……」


 流石に写真を見ただけじゃ、そこまではわからない。


「それを確認するためには、それこそ本人に会いに行くしかないわけだけど……」


 うーん、そうなると一つだけ問題が……


「身バレがなぁ……」


 結局のところ、本人に会いに行くなら、僕の自身の身バレは避けられない。


「いや、名前とか話さなければいいだけの話ではあるか」


 バレるのは見た目だけ。その見た目も、バレたところで、写真とか撮られなければこんな子供が開発者なんて誰も信じないだろうし。

 危険はある……けど……


「ここまで覚悟を決めて情報を送ってきてくれた以上は手助けはしてあげたいよね」


 まぁ、一応真田さんにお願いして、身元確認だけはお願いしておこうか。

 行ったら変なことに巻き込まれましたとかだと洒落にならないし。



 Dさんへの返事は一応、対応を検討するということにしておいた。冷たいけど、どっちとも取れる内容にしておいたというわけ。

 その後、真田さんにお願いをして、Dさんの身元の確認をお願いしてもらった。


「確かに、朝倉大愛さんという子がいて、その妹の結衣さんも入院しているみたいだね」


 そんな情報が返ってきた。


「妹さんの病気の詳細についても時間をかければ探れるとは思うけど」


 どうやって探るんだろう? まぁ、怪しい手段だとは思うけど……


「ちなみに、大愛さんについては、少し情報が集まったよ。どうやら、両親は死別していて、今は妹さんの入院費を稼ぐためにゲーム会社でデザイナーとして働いているみたいだね。性格はおとなしめで面倒見がいいタイプらしい」


 そんなことまで調べたんだ……お願いして数日なのに……ちょっと怖い。


「聞いた限りだと、少なくとも嘘をついて変な稼ぎをするタイプではなさそうだね。あと裏とのつながりはなさそうだったよ」


 ふむ……真田さんの判断では信用できるってことか。


「ちなみに、僕の直感だとこれはなにかの縁だと思うかな。勇者として旅して鍛えた直感だから割りと信用できるよ」


 直感って鍛えられるものなの? いや、まぁ、あっちの世界だとそういうのもあるのか……?


 ともかく、真田さんとしては、一度会いに行ってはどうかということだった。

 最悪の場合は、真田さんが僕の身の安全は確保してくれるとのこと。

 真田さんとしても、人間が魔族になるってのは放置できないとのことらしい。


「……よし、覚悟を決めよう」


 僕はDさん……いや、朝倉大愛さんに会いに行くことを決めた。

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