第35話 Dさんの事情

 ダンジョンを公開して以降、色々な問い合わせが僕のところに届いている。

 例えば、技術的に気になるからその仕組みについて聞きたいという企業や取材したいというメディアからの問い合わせ。

 もちろん、それは全部ミミが弾いている。そもそも言えることなんてないしね。


 それとは別にプレイヤーからの問い合わせも僕に届く、中には面白かったとか、こういうのがあったけど何かバグなんじゃないか? とかそいうのもあるけど、一番多いのが要望関係だ。

 こういう機能を実装してほしいとか、こういう敵がいたらいいとか、そういうのが多いけど最近多いのがアイテム関係の要望だ。

 つまり、他の魔導具を交換させてほしいとか、こういうアイテムを作って欲しいとかそういうの。

 今回のDさんもその一つだ。


 当然、全部の要望なんて聞いてられないし対応することもできない。

 そもそも、ダンジョンに関しては、僕自身の趣味みたいなところが大いにあるしね。もちろん、感想は重要だけど、そればっかりに引きずられたくない。


 その辺りを汲み取って、ミミがおおよその感想だけを教えてくれることになっている。


「……ミミがわざわざ僕に知らせたってことは何か理由があるのかな?」


 そんなわけで、直接僕にそんな要望が入るのは珍しい。

 確かにDさんには注目していたけど、それでミミが優先するってことはないと思うんだけど。


『はい、本来でしたらお伝えするまでもなく、こちらで対応するところなのですが、内容的に気になりましたのでお知らせするべきと判断しました』


 ミミがそう判断したのか。それだけでもどんな内容なのか気になるな。


「ミミ、その要望の内容を……いや、自分で見たほうがいいか。その問い合わせを表示して」


『了解いたしました』


 すぐにミミが件の問い合わせをPCの画面に表示してくれた。


「なになに……突然のご連絡失礼します……」


 ふむふむ……


「家族が病気にかかっていると……」


 内容を読んでいくと、どうやらDさんには妹がいるんだけど、生まれつき身体が弱くて入院生活をおくっていると。


「その妹の病気を治すためのポーションはないのか……ってことか」


 なるほどね……


「確かに可哀想だけど……よくある要望だよね」


 言ってはなんだけど、僕としてはそれは可哀想止まりの内容だ。

 全ての人を救うなんてできないし、するつもりもない。僕は正義の味方ではないのだ。


『こちらも、最初はその判断をしました、しかし後半の内容で保留としました』


 後半の内容?


「妹の病気の内容は……うん……? 暑さに極端に弱くて……常に冷やされた部屋の中にいる必要がある。さらに体調が悪くなると身体が氷のように冷たくなる……?」


 えっ? なんの病気それ?


「これが本当だとしたら、完全に未知の病気じゃない?」


 僕が無知なだけかもしれないけどさ。


『調べましたところ、この世界においてそのものを満たすような病気の記録は見つかりませんでした』


 ふむ……ミミが調べたってなら、一般に見れるような記録にはないんだろうね。


「そうなると、流石に嘘かな?」


 嘘をつくにしては、もうちょっと内容がリアルっぽいほうがいいと思うんだけど……


『その可能性は否定できません、しかし、その後の内容も御覧ください』


「あ、ごめん」


 そっか、ちゃんと最後まで読んでなかった。


「……ダンジョンから入手したポーションを使うと、妹の体調は少し良くなったと。うん、いいことだね。しかし、回復の杖を使うと、逆に悪化する……?」


 なんだそれ……


「ポーションで元気になるのは……まぁ、ちょっとした栄養ドリンクみたいなイメージかな? でも、それなら杖も同じような効果のハズなんだけど……」


 基本的に回復の効果は同じなはず。


『これは一つの推測ですが……』


 おっと、ミミの考えを聞こうか。


『これと似た記録を見たことがあります』


「あれ? さっきは記録がなかったって……」


『はい。しかし、調査したのはこの世界の記録です』


「……えっと?」


『飛鳥様の前世、つまり、ルーウェンの魔族の始まりについての記録が非常に酷似しております』


「……ルーウェンの魔族の始まり!?」


 僕の前世の世界、ルーウェンには魔族という存在がいる。僕もその魔族の1人だった。


「……いや、待て! 確かに……聞いたことはある」


 ミミは僕のスキルだから、僕の前世の記憶も知っているはずだ。

 つまり、記録というのは僕が聞いたことがある内容なのだ。


「……確か、人間の中で魔素に過剰反応する人がいて、それに適応して身体が変異したのが魔族……だったっけ?」


 知り合いの研究者がそんなことを言ってた気がする。その時は、なんだこいつ暇なのか? なんて思ってたけど……


『はい。その人間は魔導具を近くで使うと、体調が悪化したと』


「そうか、魔導具だけに反応するのは魔素のせいか!」


 それならポーションで反応しないのはわかる。


「えっ! つまり、Dさんの妹さんは魔族になろうとしてるってこと!?」


『可能性は0ではありません……』


 まじか! 確かに、これは確かに知らせてくれて助かった。


「確かに……この世界だと異様に魔素があるもんなぁ……」


 むしろ、魔法とかがないのがおかしいくらいには、魔素で溢れてる。


『これも推測ですが、この世界の人間は魔素に対して反応しないという進化を遂げた結果ではないかと』


 ありすぎて逆にそれに過剰反応しない方向に人類が進化したってことかな? いや、流石にこれは推測か。


「しかし、Dさんの妹さんみたいに、突然変異で過剰反応を起こすってこともありえるか……」


 なるほどなぁ……


『この案件、いかがいたしますか?』


 一通り内容を聞いた上で、ミミが僕に判断を求めてきた。


「うーん……」


『おそらく、このまま放置しておくと、その妹さんは魔族になる前に……』


 うん、適応できる可能性のが低いよね……

 正直、僕にその妹さんと助ける義理はない。さっきも言ったが正義の味方ではないのだ。

 しかし、ここまで話を聞いた以上、気になるというのが本音。


「……Dさんに連絡を取ってみるか」


 変な正義心からではなく、純粋な好奇心で僕は動くことにした。

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