第37話

「いやー、流石に遠かったなぁ……」


 大型連休を利用して、僕は朝倉大愛さんの妹さんが入院しているという病院へ来ていた。


「うーん、思ったよりは寒くないね」


 僕の隣にはなぜか雛香がいる。


「雛香はお兄ちゃんの護衛だよ!」


 心を読むな。まったく……本当は1人で来るつもりだったんだけど、雛香がどうしてもついていくと言うので、仕方なく連れてくることになった。


 真田さんから朝倉さんの情報をもらった後すぐに、会いに行ってもいいかとの確認をした。

 理由は適当に、病状を確認したいということにしておいた。まぁ、魔素が原因かを判断するのだから、嘘ではないか。

 朝倉さんとしては、戸惑っていたような感じだったけれど、僕の知っている病気であれば回復薬を作れるということで、許可をもらうことができた。


 そんなわけで、新幹線ではるばる4時間ほどかけて、秋田県までやってきたわけだ。


「それでお兄ちゃん、これからどうするの? 観光でもする?」


 雛香、お前は何をしに来たんだ? 遊びに来たわけじゃないんだぞ?


「とりあえず、この病院の前で待ち合わせをしてるんだけど……」


 キョロキョロと周りを見回していると、女性が近寄ってきた。


「あの……ひょっとしてメイゼスさんですか?」


「あ、はい」


 女性の顔には見覚えがある。


「そちらは、ダイアさん……朝倉大愛さんですか?」


「はい、私が朝倉です」


 うん、やっぱり動画越しで見た顔だ。流石に魔法使いのコスプレはしてないけどその顔は覚えている。

 朝倉さんは、少し儚げな印象をしたお姉さんといった感じだ。まぁ、悪い言い方をすると幸が薄そうというがより近いけど。

 ちなみに、僕よりは年上でギリギリ20代前半らしい。


「えっと、こちらは僕がメイゼス。ダンジョンマスターです。そして、こっちは……」


「お兄ちゃんの妹のヒヨコだよ!」


 お兄ちゃんの妹て……


「メイゼスさんにヒヨコさんですね。本日はよろしくお願いいたします」


 朝倉さんは深々とお辞儀をする。

 こんな子供にも丁寧な対応をしてくれるなぁ。

 あ、ちなみに、今回僕らは本名は伏せてハンドルネームで名乗ることにしている。

 僕の名前は前世の名前をそのまま、雛香は……雛からヒヨコって連想か? 多分雛香はどこかでへましそうだけど、まぁ、気にしないでおこう。


「それで、朝倉さん。早速妹さんを診させていただきたいんですが……」


「はい、それではこちらへどうぞ」


 朝倉さんの後に続いて病院の中へ入り受付をしてから奥へと進んでいく。それほど大きくない病院の一番奥の部屋だ。


「こちらになります。部屋の中はとても寒くなっておりますので、こちらを羽織ってください」


 そう言って、朝倉さんは部屋の前にかけてあるジャケットを渡してくれた。


「そんなに寒いんですか?」


「はい、部屋の温度は5度以下を保つようにしています」


 5度以下って、それはもう外よりも低いよね。そりゃ、この格好だと寒いわ。

 素直に渡されたジャケットを着こむ。


「それでは入ります」


 朝倉さんがドアを開けると、中から冷たい空気が流れ出てきた。


「わっ……」


 雛香が思わず声をあげている。


「……さむっ」


 わかってたけど、めちゃくちゃ寒い。

 冷蔵庫の中ってこんな感じかもしれない。


「すみません」


 謝りながらも、朝倉さんは慣れたように部屋の中へと入っていく。僕らもそれに続いた。


「結衣……寝ているわね」


 件の女の子は部屋のベッドで寝ていた。

 一見すると、普通に横になっているように見える。しかし、よく見ると、普通ではない部分があった。


「手が……」


「氷……」


 ベッドから少し出ている手が氷で覆われていて、思わず僕らは驚きのあまり固まってしまった。


「不思議ですよね、これでも凍傷とかにはならないんですよ」


 朝倉さんがそう言って、女の子を撫でる。


「……昔からこんな感じなんですか?」


「いえ、元々はこれほどまでは酷くなく、身体が異様に冷たいという程度でした。でも、最近になってこういう状態が頻繁に発生するようになってしまいました」


 ふむ……素養はあったけど、最近になって悪化したってことかな?


「それで……この子を治すための薬は作れますでしょうか……」


 朝倉さんは僕にそう問いかけてきた。

 うん、心配だよね。わかるよ、実際にこの状態を見たら、なんとしてでも助けたいと思うだろう。


「私にはもうこの子しかいないんです……」


 事前に真田さんに聞いたところ、朝倉さんと妹さんは血が繋がっておらず、両親が再婚した際のお互いの連れ子ということらしい。

 その上で、その両親も事故でなくなって今は朝倉さんと妹さんだけらしい。


「……ご安心ください」


 僕は安心させるように言う。


「妹さんの病気の原因はわかりましたので」


「本当ですか……?」


 朝倉さんはすがるような目でこちらを見る。しかし、そこには信じられないというような表情も見える。


「ええ……予想通りの病気でしたので」


 この部屋に入った時からわかっていた。

 この部屋だけ他と比べて魔素が薄い。その原因は、その魔素が妹さんに吸収されているからだ。


「……間違いない。魔素に対する過剰反応だ」


 予想通りではある。でも、予想よりも深刻な状況だった。


------

星500突破! ありがとうございます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る