第33話

 イベントが終わってから数日後、真田さんに会いに来た。


「飛鳥くん、最近どうだい?」


「なんですか? その質問」


 久しぶりに話す娘になんて話しかけたらいいか困る父親みたいな質問されても。

 直接はたしかに久しぶりかもしれないけど、時間を作ってはWebで話してるし、そもそも、真田さんは父親じゃない。


「その質問、里楽さんにはしてないですよね?」


「駄目かい?」


「いや、駄目でしょ」


 それ聞かれたら実の娘さんも困ると思うよ。


「まぁ、冗談はさておき、飛鳥くん、ダンジョンも順調そうじゃないか」


 なんだ流石に冗談か。


「そうですね。初めてのイベントも成功って言っていいと思います」


「うちの娘もサポートしたんだって?」


「ええ、企画とかそのあたりでお世話になりました」


 ほんと、里楽さんがいなかったら、ここまで盛り上がらなかったと思うよ。


「うんうん、娘を君の隣に住まわせたのは正解だったかな」


 仲良くはなったかな? イベントが終わってもほとんど毎日一緒にご飯食べてるし。

 なんかうちが食堂みたいな扱いになってる気がする。

 まぁ、それはそれでいいんだけどね。正直、里楽さんを1人にしておくのちょっと不安だし。


「そういえば、今ってどのくらいのプレイヤーがいるんだい?」


「プレイヤーですか? そうですね、現在は5万くらいでしょうか?」


 これでも徐々に増やしている最中だ。


「一般公開とかの予定は立ててるののかい?」


「そうですねぇ……」


 うーん、ちょっと時期尚早かなぁ。


「まぁ、次に作るダンジョンでアイテムとして魔導具を出すようにするつもりなので、それの様子を見てって感じでしょうか?」


 イベントで魔導具を公開した世間的なインパクトはかなり大きい。今も連日ニュースで見かけるし、問い合わせも多い。

 これを一般に公開した時にどうなるかはわからないから、慎重に進めたほうがいいんじゃないかと思ってる。


「ふむふむ、まぁ、飛鳥くんが気にする気持ちはわかるよ」


 うん、間違いなく混乱になるだろうからね。

 しかし、真田さんは少し困った顔だ。どうかしたのかな?


「僕としても、久しぶりに魔導具なんてものに触れたよ」


 そう言って、真田さんが取り出したのは、回復魔法の杖だ。


「あ、真田さんも参加されてたんですか?」


 一通り見てたはずなんだけど、気が付かなかったなぁ。


「いや、僕自身は参加してないよ。これは別ルートで手に入れたものだよ」


「別ルートですか?」


 どういうこと?


「まぁ、簡単に言うと、ネットオークションにあったのを買ったんだよ」


「あー、なるほど」


 ネットオークションか。ダンジョン産のアイテムが出品されてるのは知ってたけど、真田さんもそれで買ったのか。


「ちなみに、飛鳥くん、これっていくらぐらいだったと思う?」


 回復魔法の杖かぁ……


「初級ポーションが1個1万円くらいでしたっけ?」


 確かそんなのは見かけた気がする。ちょっとした即効性のあるキズぐすりに1万とはってびっくりした記憶。


「それが最大5回分で……ちょっと補正を入れて6万円くらいですか?」


 見ただけだと残り回数はわからないけど、最大で考えるとそのくらいだと思うんだけど。

 しかし、真田さんは首を振った。


「……30万だ」


「えっ?」


「これ一個で30万だよ」


「30万!?」


 なにそれ!? そんな高いの!?


「未使用品だから特別高くなっているが、残り回数1回のものでも10万はするよ」


「そんなに高いんですか!?」


 想像よりはるかに高い。


「どうしてそんなことに……」


「まぁ、魔法っていう完全に未知な現象ということで憧れがあるのだろうね。この場合だと、効果の高さなどはさして問題ではないのだよ」


 あー、なるほどなぁ……どうも、僕はまだ前世のイメージが抜けてない。

 魔法っていうのが話題になるとはわかってたけど、流石にここまでとは思わなかった。


「ちなみに、どうやら偽物も横行しているみたいだ」


「偽物まで!?」


 いや、まぁ、そうなるか。ネットのオークションだと本物かどうかなんて区別がつかないもんね。

 それを買う方も買う方だと思うけど。


「本物がどのくらい世の中にあるのかはわからないけど、現状だと新たに魔導具が出るダンジョンが出ない限りは手にはいらないものだから限定的なものでもあるしね」


 数が限られる消耗品……確かに、それは価値が上がりそうだ……

 一般公開したら混乱があると思ってたけど、限定にしてるので別の混乱が起きちゃってるわけか。


「それじゃあ、なるべく早く次のダンジョンを出したほうがいいですかね?」


 そうすれば、少なくとも偽物が横行するのは減ると思うし、ここまで価値が高騰することもなくなるでしょう。


「まぁ、それも一つの手だね。ただ、それ以上にやらなきゃいけないことがあるよ」


「やらなきゃいけないこと?」


 なんだろう?


「それはね、DPの価値をちゃんと定めることだよ」


「価値を定める?」


「この魔導具もDPで交換されるものだろう? だから、DPの価値をちゃんと定めることで、この魔導具の価値も定めるということだ」


 なるほどなぁ……現状特にDPの価値というのは決めていない。

 それこそ、アイテムとの交換に使われるくらいだ。


 そして多くの人がDPというのがどのように手に入るのかわかっていない。

 ちなみに、回復魔法の杖と交換できるDPだけど、一日潜って手に入るくらいの量にするつもりだ。

 つまり、1日で30万くらいが手に入ることに……とんでもないなぁ。


「そんなわけで、飛鳥くん、DPを仮想通貨にすることを目指すというのはどうだろう?」


 真田さんはそんな提案をしてきた。



 真田さんの提案としては、今後、DPを仮想通貨として、現金との交換ができるようにするというものだった。


「もちろん、現状ではDPっていうのはあくまでも、飛鳥くんの作ったシステム上のものだけ。誰も現実のお金とは認識してないだろう」


 真田さんいわく、仮想通貨として認定されるための条件として、多くの人にその通貨が現実にも価値があるものだと認識される必要があるらしい。


「そのためには、まずDP=お金という計算式を成り立たせるんだ」


「なるほど……」


 言わんとすることがわかってきた。


「まずは、現金でDPを手に入れられるようにする。まぁ、課金みたいなものだね」


 ソーシャルゲームでいうところの、ガチャを引くための石を買うみたいな感じかな。


「そうすれば、皆が1DP=何円という形という共通の認識を持つ」


 なるほど……確かに……ガチャで欲しいカードを手に入れるよりはよほど安定するかも……


「ただ、問題はそのDPを使って現実にアイテムを持ち出せるという点だ。つまり、DPを円で買って、それでまたアイテムを売って現金化するということができるようになってしまうからね」


 さらに言うと、アイテム自身の珍しさとか便利さも出てくるだろうからね……DPだけじゃアイテムの価値は決められない。


「……変に設定とかはできないですね……」


「まぁ、その辺りは、僕みたいのに任せておいて欲しい、言い出した以上は責任は取るよ」


 真田さんがやってくれるというならありがたいけど……


「だから、飛鳥くんにはひとまず、そういう仕組の導入を検討してもらいたい」


 検討……うーん……こうなったからにはやるしかないっていう気はするなぁ……

 確かにこのままにしておくと、いつか問題が起きそうだし……というか、現状既に問題になってる?

 お金をやり取りする系のセキュリティ的にちょっと不安はあるけど、ミミがいるからそこらへんはなんとかなる。


「あ、できれば飛鳥くんのご両親にも協力してもらったほうがいいかな? 課金とかそういう仕組あたりはそのほうが安全だろうし」


 なるほど……システムのセキュリティはミミでなんとかできるけど、現実のお金との変換らへんは確かに……


「今度話してみます」


「うん、よろしく」


 そんなわけで、DPをお金として認識させるための計画が始まった。


-----

このお話に関しては結構悩みました。

DPの価値を定めるのは必須なのですが、そのやり方が難しい。

一応、仮想通貨にする方法というのも調べたのですが、実践できるわけでもなく……

実際にこういうやりかたで仮想通貨まで持っていくことができるかはわかりませんが、まぁ、ファンタジーということでお許しください。

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