第29話
魔法使いの女性は、順調にダンジョンを進んでいく。
「危なげないなぁ」
「ええ、堅実ですね」
女性は進みは遅いけれど、一歩一歩着実に進んでいる。
「というか、この人……さっきから変な動きしてるね」
女性は持っている杖で前方を突きながら進んでいる。
「……罠チェックですね」
「あー、やっぱりそんな感じですか」
ローグライクゲームで行うテクニック? の一つ、前方を攻撃してそこに罠がないかと確認する行為だ。
「まさか、現実のダンジョンでそれをやる人がいるとは……」
そんなの前世でも見たこと無いんだが?
「そもそも、今回のダンジョンは罠がないです」
そうなんだよね。
一応、罠も配置できるんだけど、それをやるとそこにもリソースを使うことになるから今回は罠なしになってる。
つまり罠チェックは今回の場合は、単に無駄なだけの行為だ。
「そうでしょうが、確認する行動が凄く手慣れてます」
「……普段からやってるってことですかね?」
いや、流石に現実世界ではなく、ダンジョンだけだろうけど……
「それに派手さはないですが、戦闘も上手いですね」
「ええ、一度も攻撃を受けていないですね」
なんというか、雛香がパワーでゴリ押すタイプなら、この人は相手の攻撃を読んで戦うタイプだ。
その読みが正確で安定感が凄い。
「おそらくですが、敵のHPまで考えて攻撃してますね」
そうなんだよなぁ。これがゲームだったら、敵の残りHPとか攻撃のダメージとか見えるから計算しやすいけど、そんなものは出ていない。
しかし、女性は的確に魔導具と物理攻撃を使い分けて魔導具の消費を抑えている。
「相当ローグライクゲームをやり込んでいるんでしょう」
うん、この動きはそういう感じだね。
なんとも、凄い人を見つけたなぁ。
「というか……思い出した」
魔法使いの衣装でよくわからなかったけど、この人見たことある。
「……この人、Dさんか」
「Dさん……?」
「あ、いや、本名は知りませんが、初めてテストプレイをした時に参加してもらった人です」
あの時参加してくれた、4人のうちの1人だ。
そういえば、あの時も戦闘が安定してたっけ。
「続けててくれたんだなぁ」
テストプレイしてもらったから、変なリークした2人以外はβテストのプレイヤーとしても優先して選ぶようにしておいたんだよね。
まぁ、罠はないんだけど。
そうして、その後もDさんの攻略を見ていく……と。
「あー! 負けた!!」
「えっ? いや……あっ、雛香か」
びっくりした、一瞬Dさんが負けたのかと思った。
「お兄ちゃん! 負けちゃったよ!」
雛香が負けてダンジョンから出てきたみたいだ。
「よしよし、どこまで行ったんだ?」
抱きついてきた雛香の頭を撫でて慰めながら尋ねる。
「えー、お兄ちゃん、見ててくれなかったの?」
「ああ、最初は見てたんだけど、雛香なら大丈夫かと思ってな……」
でも、雛香が攻略に失敗したのなんて珍しいな。
「ボスまでは行ったんだけど! ボスにすぐに負けちゃったんだよ!」
「あー、ボスに負けたかぁ」
それは仕方ないなぁ。
「今回のボスはちゃんと考えて攻略しないと勝てないようにしたからな」
雛香のように戦闘能力ゴリ押しでは辛いタイプかもしれない。
初見殺しっぽいギミックもはいってるしね。
「むぅ! 次は絶対勝つから!」
悔しくなったのか、雛香は立ち上がってまたダンジョンに入っていった。
今から入ると夕飯がギリギリなんだが……まぁ、今日くらいはいいか。
「雛香さんはもう少し落ち着いたほうがいいですね」
「それはそう」
ちなみに、里楽さんは雛香をちょっとだけ苦手にしてるみたいだ。どうも最初に真田さんの部下を倒してた時の印象が強いみたい。
まぁ、雛香が積極的に話しかけてるから、少しずつ慣れていくとは思うけど。
「しかし、まさか雛香が負けるとはなぁ」
正直、第一号クリアは絶対雛香だと思ってたわ。
ボスも変なゴリ押しで勝つものと思ってた。
「そうだ、ミミ。クリアしそうな人はいるか?」
雛香以外にクリアしそうな人はいるのかな?
『雛香様以降はまだボス階に到達しているプレイヤーはいません。数人がボスの手前まで来ているようですが、物資不足で勝利はできないと予測します』
まぁ、ここまで早く来るには探索を甘くする必要があるからね。クリア者はまだしばらくでないかな?
「少し難しくしすぎたかな?」
「元々一回目でクリアできる方が難しい設定にしましたので、これくらいではないでしょうか?」
「確かに……まだ一日目……数時間だしね」
判断するにはまだ早いか。
「案外、Dさんが一番最初にクリアしたりして」
Dさんの進みは遅いけど、安定しているからなぁ。
いや、流石にDさんがボスまでたどり着くまでには誰かクリアしてるかな?
そう思ってたんだけど……
「まさか、ここまでボスを倒せないとはなぁ」
「皆さん、想像以上にボスに苦戦されてますね」
ボスまでたどり着いた人は沢山いる。しかし、それを倒せた人は誰もいない。
惜しいところまでは行ってるんだけどなぁ。
「こうなるとDさんに期待だな」
「さて、どうなるでしょう」
そしていよいよ、Dさんがボス階に到達した。
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