第28話

「なるほど、確かにいつものモンスターじゃなくて、特殊系にしておいたほうがいいですね」


「はい、魔導具という特徴を活かすためにも、魔法に弱い敵を配置したほうが良いです」


「敵も魔法を使ってきたほうが良いですかね?」


「それは……難しいところです。魔法を使う敵がいるとなると怖がる人がいるかもしれません」


 むぅ、確かに自分が魔法を使われたら怖いかも……


「ただ、最初から告知しておけばプレイヤーも覚悟ができていいかもしれません」


「あ、なるほど」


 事前に魔導具を拾えること、ただし相手も魔法を使ってくることを告知しておけば、それを飲み込んだプレイヤーがダンジョンに入ってくるはず。


「そうなると、相手がどんな魔法を使ってくるかとかがわかったほうがいいかもですね」


「ええ、ただし見せすぎても面白さを損なうので、PVのような形にすると良いでしょう」


 なるほどなぁ。


「わかりました。PVは作っておきます」


 ミミにお願いをすれば作れるだろう。

 擬似的にプレイヤーを再現して攻略させてその映像を撮る感じでいいかな。


「あとは……」


 その後も、里楽さんと一緒にダンジョンのイベントについて考え、それに合わせてダンジョンの作成も進めていった。



 そしてついに、ダンジョンのイベントが始まった。


「始まった! それじゃあお兄ちゃん! 行ってくるね!」


「おう、いってらっしゃい」


 開始時刻になると、即座に雛香がダンジョンに入っていった。


「さて……僕らも様子を見ていくとしようか」


「はい」


 今日は里楽さんがうちに来ている。最近は色々と相談することもあって一緒にいることが増えた。

 最初は僕が里楽さんの家に行くことが多かったのだが、最近は逆に里楽さんが僕らの家に来ることが多い。

 その理由はご飯の問題だ。里楽さんは一切料理をしないらしく、いつも宅配を頼んでばかり。それだと健康に悪いということで、うちで食べさせているというわけだ。

 おかげで、最初の頃よりも大分仲良くなったと思う。少なくとも僕からの口調は砕けてるし……里楽さんの方は特に気にした感じはないけど。


 まぁ、それはさておき、今日から5日間の初イベントだ。


「おっ? 雛香が火の魔導具を拾ったな。ちょうどよく敵も来てる」


 画面に映し出された映像では火の魔導具を拾った雛香が、ご機嫌に火の玉を放っている。


「……景気よく使っていますね」


「うん、無駄に使ってるね」


 モンスターに使うならまだしも無駄に壁に撃ってる。


「おっ? 尽きた。と、ちょうど良くモンスターが来てるな」


 さて、雛香はどうする?

 雛香が持っている火の魔導具はもう使えない。


「……インベントリから剣を取り出しましたね」


 雛香が愛用している剣だ。それで戦うつもりか?


『やぁ!』


 相手はスライム。いつもだったら、雛香の一撃で倒せそうなものだけど……


『あれ!? 倒せてない!?』


 そう、倒せない。


「雛香のやつ甘く見てたな」


 そう、スライムはスライムでも物理攻撃に強く、魔法に弱いスライムなのだ。

 他のモンスターも見た目はあまり変わっていないが同じようにステータスをいじってある。


『もう! 時間がないのに!』


 雛香は今回はモンスター討伐数で一位を狙うって言ってたっけ。

 そうなると、スライムとの戦いにこんなに時間をかけてはいられない。


「おっ? 倒したな」


「ええ、大分苦戦しましたね」


 結局10回ほど切りつけてようやくモンスターを倒すことに成功した。


「これで雛香も次からはちゃんと計画的に魔導具を使うといいんだけどな」


 いつもとは違って戦闘力だけでゴリ押しできるイベントじゃないのだ。

 ちゃんと考えて敵と戦う。正直、雛香とはあまり相性のいいイベントじゃないと思う。

 とはいえ、雛香のことだから、何かしらのランキングには入ってそうだけどね。


「ひとまず、雛香はこれでいいかな」


「最後まで見なくてもいいのですか?」


「うん、雛香だけ見ててもしょうがないからね」


 他にも参加している人は沢山いる。初めてのイベントだし他の人の様子も見たいからね。


「どの人が面白そうかなぁ」


 今回のイベントも、既に数千単位のプレイヤーでダンジョンに入ってきている。適当にザッピングをしながら、面白そうな人を探してみる。


「里楽さんも面白そうな人がいたら教えてね」


「わかりました」


 ちなみに、里楽さんのパソコンにも同じようにダンジョンの様子を見れる機能をいれてあるから、そっちでも探してもらっている。


「この人……」


 そんな里楽さんの方で、何か見つけたようだ。教えてもらって僕の方でも映してみる。


「えっと……おっ!? まじか!」


 その人は若めの女性だった。ユーザー比率的に言うと、男性が8割を占める中での女性は珍しい。

 ただ、僕が驚いたのはそこじゃない。


「コスプレかな?」


「ええ」


 その女性は、深緑のローブに先がとがった帽子を被っている。見た目は魔法使いって感じだね。確かにこれは面白い。


「雷の杖か、いいの拾ってるね」


 そんな見た目に加えて、ダンジョン内で拾ったと思われる杖も持っている。

 攻撃の魔導具としては一番強力なやつだ。この段階で拾うのはかなり運がいい。

 さて、この人は……


「おっ、スライムが出てきた……あれ? 雷の杖をしまった?」


 女性は雷の杖をしまって、槍を取り出した。


「……魔導具の消耗を抑えるためでしょうか?」


「なるほど……早く倒すことよりも、アイテムを温存することを考えているのか」


 さっきの雛香みたいに使い切ってから焦るんじゃなくて、いざという時のために溜めておくという考えか。悪くないね。


「ひとまず、この人を追ってみようか」


「ええ、そうしましょう」


 そんなわけで、その女性の行動を追っていくことにした。

 しかし、この人……どっかで見たことがあるような?


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2024/03/23

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