第30話
「ミミ、Dさんはボスに勝てると思う?」
試しに聞いてみた。
『この女性の立ち回りと物資の量からして、勝てる可能性はあります。詳細に確率を試算しますか?』
「おねが……いや、いいや」
ここで聞いちゃったらつまらないもんね。
どうなるか楽しみにしておこう。
魔法陣をくぐり抜けたDさんはボス階に到達した。
『……広い……これはボスでしょうか?』
ボス階は他の階と違って1つの広い部屋になっている。公開されているダンジョンも同じようになっているのでDさんもすぐに気がついたようだ。
『ボスは……あれですかね?』
Dさんの視線の先には部屋の中央にある大きな鎧がある。
Dさんが鎧を認識した瞬間、その鎧の目に赤い光が宿る。そして、鎧が立ち上がった。
『なるほど……リビングアーマーですか』
リビングアーマー、動く鎧。つまり、鎧そのものがモンスターということだ。
そして戦闘が始まった。
「ふむ……Dさんは逃げながら観察か」
「相手の攻撃方法を見極めているのでしょう」
むやみに攻撃に入らずまずは観察。ここに来るまでも、初見のモンスターに対してはそうしてきた。
『移動速度は……それほどでもない……武器は剣ですか……パワータイプですかね? おっと!』
リビングアーマーがDさんに向かって突撃して剣を振り抜く。
『……危ない流石に切られたらやばそうですね』
Dさんは剣での攻撃を下がることで避ける。
「相変わらず凄いな。剣の攻撃範囲を見切ったのか」
ギリギリで避けているように見えるけど、攻撃範囲を正確に見切っての余裕の回避だ。
『なるほど……一定の距離から離れると居合抜きをしてくるようですね。距離を保てば安全ですか』
まさかそこまで見抜くとは。結構、居合抜きしてくる距離を見切るの難しいと思うんだけど。
回避が安定したら、次は攻撃方法の見極めに入った。
Dさんは一定の距離を保ちつつ、インベントリから杖を取り出す。
『まずは火の杖から』
火の杖を振るうと、リビングアーマーに向かって火の球が飛んでいきリビングアーマーに当たる。
『……少しノックバックしましたか、しかし、どのくらいのダメージか分かりづらいですね』
リビングアーマーは押されて一瞬止まったが、すぐに動き出しDさんに近寄ってくる。
『次は雷の杖ですね』
その後もDさんは距離を保ちつつ、自身の持っている武器を試していく。
『……矢での攻撃がほとんど効いていない……つまり物理防御力が高いというところですかね、魔導具ごとにも反応にばらつきがありますね。一番効果的なのは雷の杖でしょうか?』
「正解!」
Dさんの予想は正解。
リビングアーマーは物理防御力が他のモンスターよりも高く設定されている。
それだけで倒すことも、まぁできなくはないけど、かなり大変だ。
つまり、魔法を中心に戦っていくことになるけど、その中でも雷の杖が弱点だ。
『……雷の杖を中心に攻撃しましょうか』
うんうん、まぁ、そうするよね。
相変わらず距離を保ちつつ、雷の杖を振るうDさん。これまでの立ち回りでDさんの物資はかなり余裕がある。
この調子なら一方的に倒せてしまう……わけはないんだよね。さて、Dさんは気がつくかな?
『!?……うっ!?』
急にリビングアーマーが動きDさんに居合抜き攻撃をした。突然の攻撃にDさんは避けることができず、横に切られてしまった。
「おっ! Dさん初ダメージだ!」
「しかし、うまいですね。とっさに杖で剣での攻撃を弱めました」
うん、これ直撃だったらかなり痛いダメージを負ってたけど、DさんのHPは半分くらい減らされたくらいだ。
すぐにDさんは距離を取って回復をする。
『なるほど……リビングアーマーの動きが早くなってますね』
「気がついた!」
そう、一定の攻撃を続けていると、リビングアーマーの動きが早くなってるんだよね。
今のところ、元の1.2倍くらいかな? このまま続けてたら一方的になって手がつけられないことになるんだよ。
さらに、リビングアーマーの変化はそれだけではない。
『……徐々に雷の杖でのダメージが減っているようにも思えますね』
両方とも気がついたか。
そう、これがあるから、雷の杖でのゴリ押しはできないようになってるんだよね。
『……魔法による攻撃で耐性と素早さが上がる……? しかし、物理耐性もある……何かギミックが……』
そして、Dさんはあらゆることを試し始めた。
弓を使っての物理攻撃、杖を変えての攻撃、近づいたり離れたり……
『……なるほど……同じ杖での連続攻撃で強化されるというところですか』
そう、そんなに難しいギミックじゃないんだよ。
『魔導具を変えつつ攻撃していく必要がありますね』
それが正解。
「さて、ここまで来たら普通に倒せそうかな」
「そうですね」
Dさんはリビングアーマーのギミックを見抜いた。
あとはそれに従ってリビングアーマーを攻撃していくだけ。
物資が足りなくなることもないから、ここまで来たら余裕だろう。
「そろそろかな?」
Dさんが雷の杖を振るい、電撃を放つ。
『……動きが止まった?』
電撃を受けたリビングアーマーはこれまでと違い、動きを止め、膝から崩れ落ちた。
『……倒した?』
リビングアーマーは部屋に入ってきた時と同じ格好で動かなくなった。
同時に報酬の宝箱と帰還用の魔法陣が出現した。
『……これでクリアですか』
Dさんはまず報酬宝箱に向かって歩き出した。
「……さて?」
「……」
僕と里楽さんは、Dさんの行動を見守る。
そして、Dさんは宝箱の前に立ち、その箱を開……かない。
『……おかしいですね』
Dさんは宝箱から離れて、リビングアーマーへ再び近寄っていく。
「気がついた!」
思わず椅子から立ち上がってしまった。
『……これまでの傾向上、モンスターは全て倒した後に消えます。しかし、このリビングアーマーは消えていません』
そう、リビングアーマーはまだ消えていない。
『つまり、まだ倒していないということですね』
そう、リビングアーマーはあくまでも動く鎧、それを操っている本体がいるのだ。
『こういうのは大抵……そこ!』
Dさんは雷の杖を取り出し、魔法を放つ。しかし、それは鎧ではなく、その下。影へ向かって飛んでいく。
『ギィイイイイイ!』
影から悲鳴が上がる。それと同時に、鎧が光となって消えていく。
「……倒した」
「倒しましたね」
リビングアーマーが消え去った後、そこにはもう一つの宝箱が出現した。
『なるほど、こちらが本当の報酬ですか』
今度はDさんは足を止めることなく、2つの宝箱をからアイテムをしっかりと入手した後、魔法陣へ入って、ダンジョンから帰還した。
「いやー! しっかりと気がついたなぁ」
「皆さん、戦闘に勝った勢いでそのまま宝箱を開けに行きましたからね」
今までも、鎧の討伐までは多くの人が成功していたけど、そのまま宝箱を開けてしまった。
宝箱を開けると、リビングアーマーは消えてしまい、本当の報酬は入手できなくなる。
「これは特別賞が決定かな?」
「まだ数日あります……が候補には入れておきましょう」
今回のイベントには特別賞がある。要するに、僕らがこの人にしたいという人を選んで与える賞だ。
それは、他のランキングの一位と同じ価値になっている。
「確かに……まだ一日目だしね」
まだイベントは始まったばかり。これからもイベントの様子を見守ろう。
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