第26話

「大丈夫ですか?」


 ひとまず、ソファに里楽さんを寝かせて水を持ってきてあげた。


「……ご迷惑をおかけします」


 水を飲んでどうやら落ち着いたようだ。

 僕も里楽さんの隣に座る。


「すみません、勝手に家の中入っちゃって」


「おかげで助かりましたので」


 そう言ってくれるとありがたい。

 緊急事態だったらどうしようかと思ったけど、まさかバナナの皮でコケて気を失ってたなんて……

 いや、気を失ってるんだから、それはそれで大変なことなんだけど……


「今更ですが、病院とか行きますか?」


 ちょっと不安になってきたんだけど?


「いえ、ご心配なく」


 ほんとに大丈夫かな?


「様子を見て、やばそうだったら声をかけてくださいね」


「はい」


 そんなわけで、ひとまず様子を見ることにして……


「……あの、里楽さん」


「はい?」


「実はずっと気になっていたことがあって」


 倒れてる里楽さんを見つけた時からずっと気になってたことがあったんだよね。

 それどころじゃないから流してたんだけど、やっぱり気になる。


「その服って……里楽さんの私服ですか?」


 里楽さんが着ているのは、一見するとメイド服のような? いや、違うな、黒いドレスに白い前掛け、これはエプロンドレスか。

 明らかに普段着には見えないんだけど。

 どちらかっていうと、コスプレ衣装みたいな?


「お気になさらず」


 いや、気になるって。

 ソファに動かす時も、そのまま寝かせていいのか不安になるくらいお高そうだったし。

 仰向けにさせておくのも変わらない気がしたから移動させたけど。


 というか、どこかで見たことがあるような気がする……

 エプロンドレスと言えば、不思議な国のアリスだけど、黒をベースとしたエプロンドレス……


「……確か……最近なにかの配信で……」


 見たような?


「アリスちゃんと知ってるんですか!?」


「うわっ!」


 ガバっと里楽さんが起き上がった。その目はいつもと違ってキラキラしているように見える。


「えっ、えっと……?」


「VWOのアリスちゃんですよ!」


 あ、あー、言われて思い出した。

 そういえば、最近、友人が推してるっていうVtuberっていうのを見せられたんだ。

 その子がやってるゲームがVWOってやつだっけ?


「友人に言われて一回だけ配信を見たことありますね」


 だから、あんまり詳しくはないんだけど……


「そうですか! いつのやつですか!? 王都編!? それとも、聖都ですか!?」


 えっ、そんなこと言われても……わからないんだけど……


「あ、えっと……すみません、そこまで詳しいわけじゃなくて……」


「それはいけません! いいですか! アリスちゃんはですね!」


 里楽さんは一気に熱くなって、僕に向かって語り始めた。

 えっと……里楽さん、キャラ違くない?

 いや、部屋に入った時もこの部屋の汚さは思ってたのと違ったり、バナナの皮で滑って転ぶとかなんか思ってたんと違うって感じだったけど。

 こんな話す人じゃなかったよね? そもそも、人見知りとかじゃなかったっけ?


「というわけで! 次までに最初の街編までは絶対見てくださいね!」


「はい……」


 勢いに押されて思わず頷いてしまった。

 というか……里楽さん、興奮してるのか、もう半分くらい僕を押し倒してるんだけど?

 この距離……大丈夫?


「……はっ!? 失礼しました」


 僕が戸惑っていることに気がついたのか、里楽さんが一気に離れた。

 さっきまでの目の光も消えて、スンってなってる。


 うん、とりあえず、里楽さんがその子のファンだってことはわかった。

 しかし、まさかキャラが変わるほどとは……しかもそのコスプレまで……


「お気になさらず」


 さっきと同じセリフだけど、恥ずかしくなったのか里楽さんの頬も心なしか赤くなっている気がする。


「それで飛鳥さんはなんの御用だったのでしょうか?」


「あ、そうですね」


 とりあえず、コスプレのことは意識から外しておこう。


「えっと、実は次のダンジョンのことで相談にのっていただけないかと思いまして」


「私が……ですか?」


 まぁ、そういう反応になるよね。


「すみません、急に相談なんて迷惑ですよね」


「かまいません、父からもできるだけ力になるようにと言われておりますので」


「あ、そうなんですか?」


「私は飛鳥さんをフォローするために隣に引っ越してきましたので」


 そういえば、最初にそんなこと言ってたよね。

 ……それにしては、今まで何も話してこなかったけど。こっちからもっと早く声かけるべきだったかな?


「それで、具体的にはどんな……」


 とりあえず、相談には乗ってくれるみたいだ。

 うん……ただ、まぁ……


「えっと、その前にこのお部屋片付けましょうか……」


 実はそっちもずっと気になってたんだよね。

 さらに言うなら、さっき水を汲みに行った時にキッチンも見たんだけど……そっちは更にやばいことになってたし。


「……お気になさらず」


 気にするわ!

 流石にこの汚さの中、真面目な話とかできんよ!


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VWOのアリスちゃんっていうのは、作者の別作品のキャラの名前からとったものです。

ただし、特に世界観の繋がりがあるわけでもないです。この世界はあちらの世界ほど発展はしてないので、フルダイブのゲームとかはまだありません。

単に似たキャラがいると思っていただければ。

ちなみに、今後も名前が出てくるかは不明ですし、読んでいる必要もありません。

まぁ、読んでいただけると、作者は喜びますが。

ということで置いておきます。

https://kakuyomu.jp/works/16817330655696880314

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