第25話

「魔法!?」


「うん、魔法」


 僕のレベルが上がったことによって、ダンジョン作成に使える魔素の量が増えた。

 その結果、今までよりも多くの種類のアイテムを作ることができるようになった。


「その中に魔導具っていうのもあってね」


 魔導具っていうのは、要するに誰でも魔法を使えるようになるアイテムだ。

 例えば、杖を振れば火の球が飛んでいくとか、風を操る腕輪とか、そういうのだ。

 あんまり強すぎるものは作れないけれど、それでも魔法を使えるっていうのは、かなりのインパクトがあると思う。


「魔法の杖かぁ! 魔法の剣とかもあったりするの?」


 雛香はどっちかっていうと、前衛の剣士タイプだからなぁ。


「一応できなくはないけど、あんまり強くないぞ?」


 アイテムを作るためのリソースの問題だ。

 魔剣っていうと強く思えるけど、結局のところ剣の強さと魔法の強さを両立させるのは難しい。魔法を強くすると、剣自身の攻撃力が弱くなってしまうし、逆もまたしかりだ。

 杖の場合は、それで叩くとか元々あまり考えていないから、魔法を使うことに特化できる分強くできるってわけだ。


「ふーん……それはちょっと残念だけど……魔法が使えるともっと色んな戦いができるようになるよね!」


 それはそう。

 さっき例に出したような、風を操る腕輪とかを使って自分の移動速度を上げたりとかもできるようになるし。何も、武器にこだわらなくてもいいのだ。


「まぁ、ただ、今回は杖みたいなのがメインになるかな? とは思ってるけど」


 やっぱり、魔法でバンバン敵を倒していくっていうのは夢だからね。


「それは確かに楽しみ!」


 だろ? きっと他の参加者も楽しんでくれるに違いない。


「だから、できれば何かしらのイベントみたいのをやりたいなぁなんて思ってるんだよ」


「イベント?」


 そう、オンラインゲームとかでも、新しい機能ができたらそれを使って何かしらイベントをやることってあるじゃない? そういうイメージ。

 こんな機能を追加しました! それはこんなにゲームを楽しくできるんですよ! っていうのをアピールできる。チュートリアルにもなったりするかな?


「今回は魔法……魔導具っていう要素を全面的に押し出したダンジョンを作って、そこで何かしらのイベントをやりたいんだ」


 それくらい魔法っていうのはインパクトがある存在だと思う。

 いくらダンジョンの中限定のものだとしても、自分が魔法を使うって考えただけでも楽しくなるでしょ?


「うん! 楽しそう! 早く使ってみたい!」


 うちの第一号も楽しみにしてくれてるようだ。


「まぁ、そんなわけで、楽しみにしておけよ」



 とりあえず、今はそんな感じ……なんだけど……


「うーん、ダンジョンの構想は練れるけど、イベントってどういうのやったら喜ばれるんだ?」


 実は今そこで詰まってたりするんだよね。

 雛香には、偉そうにイベントの重要性みたいのを語ったところなんだけど、実際に僕はそんなイベントを主催したことはない。

 前世でも立地ごとに、ダンジョンに特色を出したことはあっても、こう何かに特化したダンジョンみたいなのはあんまり作ってこなかったんだよね。


 今回の場合は、魔導具を押し出したダンジョンっていうのはあっても、どういう魔導具を使って、どういう構造、どういう敵を配置したら楽しいダンジョンになるのかっていうのがいまいちわからない。

 加えて、イベント運営みたいな知識もないから、どういうイベントスケジュールでとか、どういう報酬、どういうルールとかもわからない。


 ……うん、今考えても、前途多難だなぁ。


「雛香に相談したいところだけど……」


 いや、でもなぁ……


「楽しみにしておけって言ったのに、相談するのはなぁ……」


 それに雛香もそのイベントに参加する可能性が高い。

 そんな雛香に相談したら、ないとは思うけど、雛香に有利になるイベントになってしまう可能性がある。人間ってやつは意識していなくても、自分に都合のいいように考えてしまう生き物だしね。


 そうなると雛香には相談できない……


「誰か……僕がダンジョンを作ってることを知ってて、他に喋らない信頼できる人……」


 真田さんか? いや、でも真田さんだと忙しすぎて気軽に相談できないんだよなぁ。

 話す時もちゃんとスケジュールを確保して話しているし。


「……」


 うん、というかだね。


「そもそも、前提からして一人しかいないんだよね」


 ただ、ちょっと相談に行くには気が重いだけであって。


「……しょうがない……でもとりあえず、行くしかないよね」


 断られるにしても、早いほうがいいからね。


 覚悟を決めて家を出てすぐ隣へ。


ピンポーン


 少し緊張しながら、チャイムを鳴らす。


『……はい』


 しばらくすると、ドアホンから声が聞こえた。


「里楽さん? すみません、飛鳥です」


『……どうかなされたのですか?』


 訪ねたのは、隣の部屋に住んでいる里楽さんだ。


『すみません、少し相談したいことがありまして……今ってお時間大丈夫ですか?』


『……少々お待ち下さい』


 そう言って、通話は切れた。

 あー、やっぱりいきなり過ぎたかなぁ。せめて真田さん経由で連絡してもらうんだったか?

 でも、断られたわけじゃないし、ちょっと待ってみようかな。


「……遅いな」


 しばらく待ってみたけど、なんの音沙汰もない。

 やっぱり忙しかったりしたのかな? あれだったら、時間を改めたほうがいいかも? うん、そうするか。


ピンポーン


 改めるにしても、ちゃんと挨拶してからじゃないと、失礼だしね。

 そう思って、もう一度チャイムを押したんだけど……


「……反応がない?」


 いくら待っても反応がない。

 どうしたもんかなぁ。中からも全く音が聞こえないし……


「……ひょっとして何かあった……とか?」


 ないとは思うけど……倒れたとか……

 いや、それだとしたらやばくない? 里楽さん一人暮らしのはずだし。


「里楽さん! 大丈夫ですか!?」


 ドアをノックしてみても、変わらず反応がない。

 試しにと思って、ドアノブを回してみると、なんと開いた。


「……よし! 里楽さん! 入りますよ!」


 一人暮らしの女性の部屋に入るのはちょっと気が引けるけど、何かあったほうが心配だ。

 幸いにも、里楽さんの家の構造はうちと全く同じ。

 玄関から廊下を通り、リビングへ……


「……失礼しますよ」


 リビングに入るための扉を開けて……


「汚っ!?」


 思わず声が出た。部屋の中が泥棒でも入ったんじゃないか? って思うほど汚かった。

 いや、泥棒にしては、落ちているのがごみ袋だったりするから、違うんだけど。


「はっ! 里楽さん!? 大丈夫ですか!?」


 そして、そんなゴミまみれの中に、里楽さんが仰向けに倒れていた。

 一体何が!?


「里楽さん! 大丈夫ですか! しっかりしてください!」


 慌てて里楽さんのところに駆け寄って介抱をする。

 揺すると、里楽さんがゆっくりと目を開けた。


「……飛鳥さん……?」


「はい! 僕です! 里楽さん! どうしたんですか! 救急車でも呼びましょうか!?」


 病気とかで倒れたんだとしたら、今すぐに対応しないと!

 しかし、里楽さんは首を振って、手を動かし。


「……あれにやられました」


 地面に落ちているソレを指差した。


「……あれ……ですか?」


 おいおい、嘘だろ?


「……はい……バナナの皮で……滑りました」


「……」


 あなたひょっとして古典的な漫画のキャラだったりしませんか?


「……はぁ」


 そう思いつつ、なんとなく気が抜けて思わず息が漏れてしまったのだった。

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