第23話

 父さんと母さんに受け入れてもらえた。

 もういっそのことということで、前世の記憶も伝えたんだけど、二人は特に変わった様子はなかった。


『なるほど、異世界っていう存在は非常に興味深いね』


『私も行ってみたいわ』


 流石に行くのは……


「あ、ダンジョンなら入れるけど」


 ダンジョンもある意味では異世界みたいなもんだよね。


『ふむ、確かにダンジョンも入ってみたいね』


『そうね、行ってみたいわ』


「それじゃあ、後で案内を出しておくよ」


 二人分の枠を作って渡すくらいなら簡単だからね。


『しかし、開発者に連絡がつかないって思ってたけど、まさか息子が作ってたとはね』


「あー、ごめんね。新技術とかじゃなくて」


 企業としては、新技術に興味があったんだろうけど。

 流石にこれは僕以外には使えないから応用としては難しいと思う。


『いや、いいんだよ。これはこれで、色々と協力できると思うしね』


 そうかな? まぁ、確かに、コンピューターと連携している部分とかは色々と協力してもらえるかもしれない。

 今でも色々と隠蔽はしてるけど、サーバーとかアプリは父さんの会社のものを使ってるし。


『まぁ、そのあたりのことについては、おいおいってところかな? ちょっと協力できることを考えてみるよ。飛鳥は飛鳥の好きなようにやりなさい』


 父さんは、僕のやりたいことを尊重してくれる。理解がある親で本当に助かる。


『ただ、問題としては……その能力を狙う人が多そうってところかな……』


 父さんも、その辺りは心配しているようだ。


「それについては、ちょっと相談があるんだけど……」


 僕は真田さんの方を見る。真田さんも僕に頷き返してくれた。


「ちょうど私の方で、飛鳥くんの後ろ盾になれないかと話をしていたところなんです」


『真田さんがですか?』


「ええ、説明すると長くなるんですが、昔飛鳥くんに助けられたことがありましてね、その恩返しがしたいと思っているんですよ」


『飛鳥が真田さんを……ですか?』


「ええ。まぁ、個人的な興味がないとは言えませんがね。飛鳥くんなら、この世界に新たな風を吹き込んでくれると期待しています」


 そんなこと思われてたの?


『なるほど……確かに真田さんが後ろ盾になっていただければ安心ですが……いいのですか?』


「ええ、もちろん」


 というわけで、無事に真田さんが僕の後ろ盾になってくれることになった。

 まぁ、詳しいことは後で真田さんと父さんの方で話し合いがされるみたいなんで大人に任せようと思う。



「あー、今日は大変だったなぁ」


 そんなわけで、真田さんの家を後にして、僕は家へ帰ってきた。


「お兄ちゃん、おつかれー」


 もちろん、雛香も一緒。

 ほんと今日は大変な一日だった。

 誘拐されて、元勇者に会って、父さん母さんに僕のことを打ち明けて……うん、うまく収まって良かったよ。

 どっちも僕の行動を制限するつもりはないっぽいので、僕としては自由にダンジョンを作るだけだ。

 とりあえず、個人的には相談相手が増えたことが素直にありがたいね。


「さて……それじゃあ次のダンジョンを……」


「お兄ちゃんっ」


「うん? 雛香? どうしっ……」


 声をかけられたと思ったら、雛香が急に僕に抱きついてきた。


「ど、どうした?」


 普段からじゃれてくる雛香だけど、こうやって正面から抱きついてくるなんて滅多にない。


「……心配したから」


「ん?」


「お兄ちゃんが誘拐されたって友達から聞いて……心臓止まるかと思った」


 あ、あー……そうか……雛香の友達からそういう風に伝わったんだ。


「お兄ちゃんに電話かけても繋がらないし……」


「それは……ほんとにごめん」


 スマホ見る余裕がなかったっていうのは言い訳だけど……どうやら随分と心配をかけてしまったみたいだ。

 ああやって、乗り込んできたのも、雛香なりに焦った結果だったのかもしれない。


「ごめんな、心配させちゃって」


 謝罪の意味も込めて、雛香の背中を撫でる。

 それからしばらく、雛香を抱きしめた。


「……そういえば、雛香はどうして僕の場所がわかったんだ?」


 正直、雛香のことだから、車に乗せられる現場を見て車を追いかけてきたのかとでも思ってたんだけど、友達から聞いたんじゃ違うよね?


「そりゃ、お兄ちゃんのスマホには見守りアプリがあるからね」


「はぁ!?」


 お前、そんなの勝手に入れてたのか!?


「あれ? 知らなかったの? ママが雛香がお兄ちゃんとはぐれた時用にって言ってけど?」


 母さん!?


「その様子だと知らなかったの?」


「全然知らんかったよ」


「ママが伝えてると思ったのに、忘れたのかな?」


 どうせ母さんの方は、雛香が伝えると思ってたとかだろうね。

 ともかく、流石に見守りアプリは……いや、今回みたいなことを考えると……

 迷ったけど、今回みたいなことを考えると消すのも怖いということを考えて残すことにした。


「正式な許可! これでいつでもお兄ちゃんの場所がわかるよ!」


「緊急の時だけだからな!?」


 と、知らぬ間にヤンデレ妹に進化していた雛香だった。

 まぁ、半分冗談だよな? 冗談だと言ってくれ。いや、半分冗談でもやばいか? とりあえず、深く考えないようにしとこう。

 これからも僕は変わらぬ毎日を過ごすだけだ。



 大変だった一日が終わり、次の日はお休み。

 リビングでスマホをいじりながら、今日こそは次のダンジョンのプランを……なんて考えていた時だった。


ピンポーン!


 チャイムが鳴った。


「誰かな?」


 雛香は……いや、僕の方が近いな。


「はい」


 玄関に行って、ドアホンを見る。


『おはようございます』


 ドアホンの映像には、昨日見た女の子の姿が。


「真田里楽さん?」


 うん、間違いなく里楽さんだ。どうしたんだろう?


『どうも、その声は飛鳥さんですね。引っ越しのご挨拶に参りました』


「……引っ越し?」


 えっ……っと? どういうこと?


『今日からお隣の部屋に住むことになりました。よろしくお願いいたします』


 上がってもらい話を聞いたところ、どうやら、真田さんの図らいで僕のフォローをするために引っ越してきたらしい。

 うん? 昨日の今日で隣に引っ越してきたの?


「……聞いてないんですが?」


「転校も兼ねてます」


 そういえば、そんなこと言ってたね。

 まぁ、なんだ? 要するに、元々学校の転校があったところに、僕との関係ができそうだから、一緒のマンションに放り込んだ……ってところかな?

 出会う前から引っ越し引っ越し決まってたのは若干怖いけど。


「これからよろしくお願いいたします」


「……よろしく」


 というわけで、僕の日常がちょっとだけ変化した。

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