第14話

 10階はボスフロアだ。


『あれは……ゴブリン? それにしてはでっかいような?』


 雛香もそのボスを発見した。

 ゴブリンしては、大きく力強い巨体に大きな棍棒を持っている。あれは、ゴブリンではなく、オーク。豚の魔物だ。

 ちなみに、くっころ展開はない。


 当然、ボスだけあって、その強さは保証されている。

 力が強いから、その棍棒での叩きつけ攻撃はかなり脅威だぞ。


「さてさて、雛香はどうするかな?」


 早速戦い始めた雛香。


『わわっ! やばっ!』


 オークに向けて飛び込んだけど、それを棍棒で弾かれて銅の剣が飛んでいってしまった。

 これは、かなり厳しい。いきなり丸腰だぞ!

 その隙を逃さず、オークは雛香に向けて棍棒を振りかぶった。


『ま、待って! わっ!』


 なんとか、転がることでそれを回避。

 しかし、オークが地面に棍棒を叩きつけたことで、軽い衝撃波が発生し雛香はダメージを負った。


「これは剣を拾うのが優先だな」


 ともかく、攻撃手段を確保しないとどうしようもない。

 しかし、雛香は剣を拾いには行かず、ナイフを投げ始めた。


「おっ、そう来たか」


 どうやら、ゴブリンアーチャーと同じように、距離を取って攻撃を加える戦法のようだ。

 まぁ、オークの戦闘は基本近距離だけだからな。

 動きもそこまで早くないから、オークの周りを周りながら、ナイフを投げればダメージを与え続けられるだろう。

 しかし、投げナイフは回数制限だ。


 計算だと、オークを倒すまでには至らない。

 計算通り、投げナイフがなくなっても、オークはまだ生きていた。HPの半分くらいは削れたけど、それでもまだまだ元気だぞ。


『ぬーん、どうしよう!』


 走り回っているうちに、剣からは離れてしまっている。

 投げながら剣を拾いに行けば勝てたはずなのになぁ。

 これは、流石に無理そうか? なんて僕は思い始めていた。


 しかし、雛香は諦めない。


『銅の剣がなければ、木の剣を使えばいいじゃない!』


 取り出したるは、しまっていた木の剣だ。

 それでいけるのか? 攻撃力は大分落ちるが?


『やぁあああああ!』


 雛香は、オークに向かって突撃、棍棒での薙ぎ払い攻撃をジャンプで躱して、オークを切りつけた。


「いい一撃だ!」


 もしも判定にクリティカルなんてものがあったら、間違いなくクリティカルだっただろう。

 さらに、雛香はそのままオークの後ろに回り込むことに成功した。


「チャンス!」


『チャンス!』


 無防備の背中に向かって、再び渾身の切りつけだ。

 これには、オークもバランスを崩して倒れてしまった。


『うりゃあああああ!』


 そのチャンスを逃さずに、雛香は攻撃を加えていく。

 かなりダメージを与えたぞ!


 あと一撃で倒せる!

 雛香も最後の力を振り絞って、オークに向かって最後の一撃を……

 しかし、既にオークは立ち上がり素早く棍棒を振り被っている。

 とてもじゃないけれど、躱せるタイミングじゃない。

 このまま押しつぶされて終わりか!?


『ふぬぅ!』


 しかし、そうはならなかった、振り下ろされる棍棒、なぜかオークは棍棒を取りこぼした。

 その理由は……


『ふふっ! こうなると思って腕を中心に攻撃してたんだよ!』


 雛香は、投げナイフの多くをその腕に向かって攻撃をした。

 倒れている時の切りつけも多くは腕を中心に攻撃していた。

 その結果、オークの腕にはダメージが蓄積して、棍棒を握る力が弱まっていたのだ。


「よく考えたもんだなぁ」


 初めてのボス戦闘でここまでできるのはセンスがあると言わざるを得ないなぁ。


『やぁああああ!』


 落とした棍棒を拾おうとするオークだが、その隙を逃さず、雛香は攻撃を加え、無事にオークを倒すことに成功した。


『やったああああああ! 勝ったああああああ!』


 雛香が歓喜の声を上げる。

 まさか、一回でクリアしちゃうとはなぁ。

 流石に簡単すぎたか? いや、でも、雛香の実力を考えれば、このくらいは普通にありえるか。


ともかく、クリアはクリアだ。


「おつかれー、良く頑張ったな!」


『お兄ちゃん! 見てた! 私やったよ!』


「おう、見てた見てた。まぁ、その話はこっち帰ってきてからやるから、とりあえず、戻ってこい」


『うん!』


 ボスを倒したことで、帰還用の魔法陣が出現している。

 雛香はそこに入って、無事に帰還した。


「……あっ」


 そういえばなんだけど……


「ただいまー! 楽しかったよ!」


 満面の笑みで帰還した雛香。


「おう、よかったな……」


「うん? どうかしたの?」


 雛香は僕が微妙な表情をしていることに気づいたようだ。


「いや、雛香、最後、オークを倒した後に銅の剣を拾ったか?」


「えっ?」


 オークに吹き飛ばされた銅の剣はそのままだったはず。

 見てない瞬間に拾ったとかでなければ、拾うことなく帰還したはずだ。


「ない! ないよ! アイテムリストに剣がない!」


 あー、やっぱりかぁ。


「まぁ、そういうこともあるから、注意は必要だな」


「うわーん! せっかく倒したのに!」


 まぁまぁ、剣以外は持ち帰れてるしDPも溜まってるからな。

 だから、雛香よ。たとえ、すぐ戻ってもあの剣は拾えないからな。

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