第15話

 雛香に潜ってもらった後で調整をした結果、満足のいくダンジョンが出来上がった。

 そして、いよいよダンジョンを公開することになった。


 ただ、当初計画していたような完全公開にするのはやめにして、人数を絞ることにした。

 理由は簡単、人数が多すぎると、もしも問題が起こった時に大変だからだ。

 超高性能AIのミミがいるとは言え、ミミの処理能力だって限界がある。


 今のところ、ミミの限界を考えると5000人くらいが限界だろう。

 今後、僕のスキルレベルが上っていけば、ミミの能力も上がっていくから、それに応じて人数も増やしていくことにした。

 それに伴って、今回はβ版ということにしておいた。

 前のテストがαテストなら、今回の公開はβテストってところかな?


 というわけで、βテストの参加者をネットで募集をかけた。

 ちなみに、専用のWebページとSNSは完備してある。

 こういうのを作るのは得意分野だからね。


 そして、募集の結果、5000人のところ、その20倍の10万人が応募してきた。

 めちゃくちゃ多すぎる……

 その中で抽選して5000人を選んだ。完全ランダムだから僕の意志はほとんど入っていないよ。

 まぁ、雛香は別だが……


 そして、いよいよダンジョンを公開する時間が迫ってきていた。


「さて、どうなるかなぁ」


 僕は家で今か今かとPCの前で待っていた。どうしても気になって、時計の進みが遅く感じてしまう。

 そわそわしているのが自分でもわかるくらいには落ち着かない。


 そして、ついに公開時間となった。


「よし! 時間……ってはやっ!」


 公開するとほとんど同時に人が入ってきた。

 急いでパソコンを操作して、入ってきたダンジョンを確認する。


『うぉ! これがダンジョン!? まじで一瞬で移動したぞ!』


 入ってきたのは、一人の男性だった。若めの男性、多分大学生くらいかな?

 男性は混乱したように周りを見回している。


『βダンジョンへようこそ』


 そこに、どこからともなく声が聞こえてきた。


『なんだ!?』


『これからダンジョンの説明を行います。2度は説明しませんので聞き逃した場合はアプリのヘルプからご確認ください』


 これは、ミミによるダンジョンの説明だ。

 他のところでも同じようにダンジョンの説明がされている。

 って、気がついたらものすごい数の人がダンジョンに入ってるな。

 500人くらいだから10分1も入ってる。これからもっと増えるんだろう。


『それでは説明を終了します、お気をつけていってらっしゃいませ』


 おっと、確認しているうちにミミの説明が終わっていた。

 男性はそれを聞いてダンジョンの攻略へ入った。

 あ、ちなみに、ダンジョン初回入場者は説明用の特別ルームに入るようになっているから、実質ダンジョンはここからだよ。


 しばらく見ていたけれど、男性は特に混乱した様子はなく攻略を進めている。

 テスト用のダンジョンを勉強してたのかな? テストで出たモンスターが出る度に喜んでいる。


 この調子なら大丈夫そうかな?

 他の人もモニタリングしてみたけど、いまのところ問題はなさそうだ。

 まぁ、トラブルがあったとしても、僕のところに来る前に、ミミが対応してくれてるんだと思う。


「ふぅ……」


 自然と息が漏れた。

 どうやら知らないうちに緊張はしていたみたいだ。


「お兄ちゃん、調子はどう?」


「おう、今のところ問題はないかな」


 雛香が興味津々という感じで聞いてきたので、PCの画面を見せてやる。


「わー! これリアルタイムでの攻略なんだね!」


 そういえば、雛香はリアルタイムで誰かが攻略しているところを見るのは初めてだったか。いつもは自分が潜ってる側だしな。


「この人あんまり強くなさそう、この人は……」


 その感想はどうなんだ?

 まぁ、僕も見ていた限り、雛香ほどの逸材はまだ見つけてないけどね。

 だけど、まだ開始して数時間だ。目立つやつはきっと出てくるだろう。まだ始まったばかりなのだ。


「良かったね、お兄ちゃん」


「うん?」


「皆、楽しそうだよ」


 そうだな、僕も見ていた感じ、攻略している人は皆楽しそうだ。

 これが見たくて頑張ったんだからな。

 せいぜい、楽しんでいってほしい。

 そうすれば、次ももっと面白いダンジョンを作るからな。


「ねぇ、お兄ちゃん……」


「うん? なんだ?」


 決意をしていると、雛香が神妙な顔をして話しかけてきた。


「……私もダンジョン行ってくる!」


「はぁ!? ちょ、お前今日は休むって」


 ここ数日ずっと潜っていたから今日は休みにするって昨日言ってただろ?


「でもでも! こうやって皆がやってるのに、落ち着いてられないよ!」


「はぁ……しょうがないなぁ……でも、夕飯までだからな」


「うん! 頑張って稼いでくるからね!」


 なんじゃそりゃ。

 こいつが一番ダンジョンを楽しんでるんじゃないか? まぁ、楽しんでくれるのは素直に嬉しいけどな。


 とりあえず……今日のところは休むとしようかな。安心したら眠くなってきた。


 次のダンジョンの構想でも考えながら寝よう。

 皆が楽しめるダンジョンになるように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る