第43話

 寂しいという気持ちと苛立ちが平行して募り始めたのはいつ頃だろうか。

 少なくとも夏休みに入ったころにはもう沸々とした感情は募っていた。


 幼馴染であり大切な親友でもある立村たちむら すももとは、未だにギクシャクとした関係が続いてしまっている。

 その原因はいつまでも答えを出さないうち自身にあることも分かっているけれど、それでもやっぱりせっかくの夏休みをスモモと過ごせないのはやるせないし、モヤモヤしていた。自分でもひどい性格だと思うけれど、こんな気まずい状況を作ったスモモにうちは怒りすら抱いていた。


 スモモに好かれることは嫌じゃない。むしろ気恥ずかしい気持ちはあるもののホワホワとした温かさ、つまり嬉しさを感じている。けれど、今も彼女の隣でくだらない話をいつまでもしていた方がずっと、うちは嬉しいだろうなぁとも思っていた。


 ………試しにこちらから電話でも掛けてみようか。

 前までは日常の一部だったスモモとの寝る前の通話も。暇な時にしていたビデオ通話も。一日一しりとりも。

 もうすっかり途絶えてしまっている。うちから連絡するのは気まずくて、向こうからのアクシデントを待つばかり。でもそれがもう限界であることに気付く。


 スモモはきっと待つつもりなんだ。


 うちが答えを出すまで、スモモは急かすこともせずに待ち続けるつもりなんだ。今もきっと家で寂しい思いをしてるのかもしれないのに。

 部屋の隅で膝を抱えているかもしれないスモモを想像して、うちは居ても立ってもいられず電話を掛けてみることにした。


『………もしもし?』

「……あっ、えと。………スモモ、今なにしてんの?」

『………小説、書いてる』

「え、また書き始めたの?最近ずっと書いてなかったからもう飽きちゃったのかと思ってたよ。……あはは」

『ううん。………飽きたわけじゃない。……ただ、書く暇が無かっただけ。今は、暇しか無い、から』

「っ!」


 スモモのいつもの落ち着いた声が、今日は通話越しにやけに静かに聞こえる。

 これが久しぶりに聞いた声だからか。それともスモモの表情が見えないからそう感じるのかは分からない。


 けど、うちにはスモモがどこか諦めているような表情をしているのではないか

 と、通話越しの声を聞いてそんな予感がした。


「今から会いたい―――って言ったら、怒る?」

『………え?怒んない。……けど、今がっこう、だよ?』

「えっ?」


 てっきりスモモはこの夏休み中、ずっと自分の部屋で過ごしているのかと思っていたけれど、どうやらそれは思い過ごしで本当は学校に通って空き教室で一人、小説を書いていたらしい。


 そんな事実を聞かされて、うちはモヤッとした気持ちになる。


 話を聞けばスモモは案外、一人でも平気みたいだった。

 寂しい、なんて感じていたのはうちだけで。スモモはそんなこと思ってもいなかったんじゃないかって。ちょっと拗ねる。いじける。もっと寂しい気持ちになる。


「スモモは、うちに会いたいとか、考えなかったわけ?」


 こうやって通話することすら久しぶりだって言うのに、彼女の平然とした態度も気に入らない。


 ………なんだこれ。うち、今めっちゃめんどくさい女ムーブしてない?


 ここまで散々告白の返事を引っ張っておいて、勝手に寂しくなったからこっちから電話掛けて。それで相手の反応が想像と違ってたからって拗ねてこんな態度とって。

 うーわ。うち、ダサすぎ。てかキモすぎ。


 本当はもっと明るい話とかしたいのに、自分でダサいって分かってても醜く拗らせた感情が蠢き続ける。


「スモモ、うちのこと好きなんだよね?」


 何を言ってんだうちは。

 そんなこと確認する必要なんてない。うちは彼女を親友と思ってるけど、そんなあたかも恋愛的な意味での好きなんて確認する必要性が無いはず。


 でも聞いてしまう。

 確認してしまう。


「ほんとに好きならさ。……こうしてうちからじゃなくって、スモモから連絡してきたりするもんなんじゃないの?ふつうは」


 さっき自分でスモモは待つつもりなんだって結論に至っただろ。

 それを掘り起こすような真似、なんでうちは自分からしてんだ。もう本当にやめて自分。ダサすぎる。


 でも、止められない。

 この不貞腐れた気持ちは抑えられない。


 ガキか、うちは。


「ねぇ、スモモ。答えてよ。スモモはうちのこと好きなんだよね?」


 ここしばらく会ってなかったから。

 ここしばらくスモモと会話をしたいなかったから。

 そんな影響なのか、うちの中でのスモモの立ち位置がちょっとだけ遠くなるよりもいた。


 夏休み前。

 うちとは話さない癖に、他のクラスメイトとは話してたから。


 定期試験前。

 うちの隣には立たなくなった癖に他の子の隣には立っていたから。


 思えば、気付いてしまえば。

 うちはかなり最初の段階で、こんなにも汚い感情を抱いては隠していたみたい。それこそ自分すら気付けないほどに。





 ―――この、という感情を。



〇  〇  〇

あと今回の話を含め三話で第二章は完結します。

ちょうどそれくらいで自分の個人的な目標でもあった文字数10万文字も突破しそうです。

これもそれもどれも全部応援してくださる読者様方のおかげです。ありがとうございます。


さて、第三章の第一話から予定しているファブゼロのVtuber記念配信で募集していた質問(近況ノートにあります)、想像していたよりもたくさんの方々が書いてってくださり、ほんとうに嬉しいです!

今のところ(2024/09/19時点で)はすべて問題なく物語に取り入れようと考えています。コメントを落としてくださった方々、本当にありがとうございます!


もしも記念配信でファブゼロに聞きたいことや自分のふざけた文を彼女に読んでもらいって方がまだいらっしゃれば、質問はまだまだ募集していますので、よろしくお願いします。


第二章は出来るだけ間を空けずに更新しますが、第三章はまた今後の展開のプロットを練り直したりするので間隔は空いてしまうと思われます。今の内にご理解していただけると幸いです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る