第42話

 何が正しいのかは分からないけれど。

 大人の事情というものもあるのかもしれないけれど。

 久我さんもツィアさんも、今回の件はこれでおしまい。事実が本当か嘘かなんて関係なく、噂が出回ってしまった時点で彼女の落ち度でもあるみたいな雰囲気になっているけれど!!


 ボクは納得なんて出来なかった。

 だってボクはまだ子供だもん。いちいち大人の事情なんて気にしていられない。大人の事情があるならば、子供には子供の事情があると思うんだ。

 我儘だと自覚してても駄々を捏ねたい年頃なんだ。


「それはやっぱりちょっと、ち、ちち違うとっ、思います」


 ツィアさんが大きくなってしまった事態の収拾に諦めの言葉を発したとき、だからボクは吃りながらも咄嗟にそう反論していた。


「ツィアさんが自分の子供について負い目を感じていることとか、それがどれくらいの後悔なのかもボクはまだ人の親じゃないし大人でもないので分かりません。皆目見当もつきません。で、でも!ち、違うことは、はっきりと一度違うって言うべきだと思います!真実かどうかなんて関係ないって簡単に言ってますけど、決めつけてますけど、それってボクも含めてツィアさんのファンのことはなんにも考えてないじゃないですか!ここでツィアさんが一度でも否定してくれたら、ファンはそれを糧にまた叩いている人たちと戦ってくれるかもしれませんし。ツィアさんが否定してくれるだけでファンは心の底から救われるんです。『がんばれ』ってまた応援してくれると思うんです!」


 ボクは捲し立てるように言った。

 この場にいる大人

 久我さんも、ツィアさんも、それから秘書さんも。

 大人たちはみんな面食らった顔をしている。

 そりゃそうだと思う。ボクみたいな引っ込み思案でコミュ障陰キャな根暗女子が、こんなに声を張り上げるなんて滑稽以外の何物でもない。


 でも、今のボクみたいに


「そもそもなんで今こうやってツィアさんの方が悪者みたいになってるのか本当に理解できません。サライという男性こそが悪者でしょう?ネットの人たちも悪者を叩きたいなら真実を見極める力ぐらいつけてほしい!中には面白そうだからって興味半分で叩いてる人もいるみたいですけど、本当にボクは、今、心の底から怒っています!!なんなんですかそれは、意味がわかりません!!!」


 気付けば、ボロボロと涙が溢れ零れていた。


 ボクは今、悲しくてしかたない。

 それはきっと、子供の親権を譲ってしまった後悔が今回の件でさらに意識してしまったというツィアさんの話が、ボクのコンプレックスと重なったから。気持ちがなんとなくは理解できたから。きっと彼女にとっての過去は触れられたくないコンプレックスで、コンプレックスというのは敏感な切り傷と一緒だから。

 辛さが痛いほどわかった。


 だから涙が止まらない。

 胸のズキズキが収まらない。


「で、でも………。もう、私が否定しても、と言うか何を言ってもそれは火に油を注ぐ行為にしかならないんじゃ……」


 ツィアさんはボクの涙に多少動揺するも、やはり意志は固そうで。

 だからボクはさらに言った。


「……ツィアさん。………ボクのVtuberのガワを描いてください。お願いします」

「ファブゼロくん、……君も標的になってしまうかもしれないんだよ?」


 ボクのお願いに久我さんは案の定反対してきた。

 けれど、、、


「ツィアさんが否定するなら、ボクも今回の件は違うって言います。ツィアさんの件は事実じゃないって、ボクのフォロワーさんや視聴者さんたちに拡散してもらいます。どうしてファブゼロがそんなこと知ってるの?って言われたら、その時には―――」


 ボクが世間的に見てどれくらいの知名度があるのか、どれくらいの支持者がいるのかは詳しく知らない。

 けれど、ボクはこの時はじめて自分の可能性に賭けてみたくなった。


 こんな根暗で声もコンプレックスで話下手でコミュ障陰キャのファブゼロボクがどれくらい好かれているのか。


 ボクのフォロワーさんたちや視聴者さんたちを信じてみたくなった。


 ボクの提案に真っ先に難色を示したのは久我さんだった。ツィアさんもそれは危険だと言った。秘書さんは、、、面白そうですと少し肯定的な意見だった。

 けれど必死に頼み込んで、ボクは最終的に提案を吞んでもらうことに成功する。


 そうしてボクは、時間が勿体ないと言わんばかりに早々に家に帰って。


 配信を始めた。




 そして次の日。


 SNSでは、『Deu:tzia』『ファブゼロ』がトレンド入りとなっていた。

 それと同時にSNSではツィアさんが徹夜までして魂をかけて描いた『新しいイラスト』が本人最高記録となる10万いいね――を更に超えて20万いいね獲得することとなる。


 その絵の投稿にはツィアさんの心境の変化と、それからへの意気込みがでも示されてあった。

 この20万いいねは、つまり散々叩いていたアンチたちをもみ消すほどの支持者を彼女が獲得したことを意味する。

 コメントでは「」「神秘的では無くなったけれど相変わらず画力が凄い」そして「これからも頑張って!応援してます」などなど、前向きなコメントが九割ほど見受けられた。

 今の彼女なら、残りの一割のコメントなんかに負けず前向きになれるだろうと思っている。


 そしてそして。


 そんな『Deu:tzia』や『ファブゼロ』というトレンドを差し置いて、トレンド一位に今もなお居続けるワードがある。


 それは、―――



『#天使降臨


 まじで一ヶ月後が待ちきれない!楽しみ!!』


『#天使降臨


 イラストがDeu:tziaさんとか、期待しかない!つい最近までDeu:tziaさん叩いてた連中は今どんな気持ち?www』


『#天使降臨


 詳細不明だけどVって報告だけでここまでネットの状況変わるって、やっぱワイらのファブゼロ好かれてるなぁ』


『#天使降臨


 ファブゼロのフォロワー数、昨日の配信の影響で一気に100万超えて今120万www

 それに比べてあのサライとか言う狸野郎のフォロワー数は中の人の顔写真が出回ったのも相まって急降下中www

 ざまぁwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』


『#天使降臨 #Deu:tzia #ファブゼロ


 サライもファブゼロを敵にまわしたらどうなるか分かったようやな。Deu:tziaさんの炎上の基になった例の動画も速攻で消したみたいやし』


『#天使降臨 #ファブゼロ


 ファブゼロの照れた表情も困った表情も「あっ」とか「うぅー」とかなってる感じも絵とは言えようやく見れるのまじでありがたい。担当絵師さんはめっちゃ期待されてるだろうけど、つい最近の絵を見た感じ大当たりっぽいし、ぜひとも頑張ってほしい』




 誰が最初にそんなタグを使いだしたのか。

 そんなことは定かでは無いけれど、こんなボクのことを天使と呼んでくれること。それはボクがみんなに少しは愛されているんだと自覚できる大きな証明にも繋がった。


 まだ『はぴぷれ』の名前は出していないけれど。


 ボクは配信で自分がファブゼロのままVtuberになることを発表した。



〇  〇  〇

以下のURL(近況ノート)から、第三章の一話から始まるファブゼロのVtuberデビュー配信の際に使質問箱(ましゅまろ)のお題を募集してます。


ファブちゃんに聞きたいことでも、ちょっとえっちな質問でも♡

質問じゃないおふざけコメントでも、なんでも可です♪

例外は過激すぎる質問などです。


期限は第三章が始まるまでなので、割と長めです!


※コメントが来なかったら、作者が考えて書くので大丈夫ですが、その、率先してコメントを落としてもらえるととても助かりますし嬉しいです!


https://kakuyomu.jp/users/yurigamine33ki/news/16818093084938842617


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