第39話

 修学旅行の二日目以降、安島さんと立村さんの距離は見るからに以前よりも離れているのがコミュ障陰キャのボクでもすぐに分かった。

 その理由はきっとあの時ボクが見てしまった告白が根本的な部分に関わっているんだと思う。


 あの結果が、どうなったのかは定かでは無いけれど。

 でも今の、前までは仲の良かったはずの二人を見ていると、なんだかボクの胸はズキンズキンと痛くなる。

 安島さんと立村さんのことが心配。けれど、ボクには今、気にすべきことが他にもある。考えなければいけないことが山ほどある。


 それはボクの今後の配信活動。延いては『はぴぷれ』におけるVtuber活動に大きな影響をもたらす事案。


 限られた時間の中でボクは優先順位を決めなければならない。

 考える時間を何にどれだけ割けるか、の優先順位を。

 ボクは悩みあぐねていた。そんな折に、有理紗ちゃんは言った。


「今日、スモモもいつも通りに誘って試験勉強を一緒にしようよ」


 と。



 ……………………


 ………………


 …………



「こんふぁぶ!今日はちょっといつもよりも遅い時間に急に配信始めちゃったんだけど、凄いねみんな。もう同接5600人もいるよ」


 コメント

 :こんふぁb!

 :こ、こんふぁぶ?

 :公認挨拶って認識でOKっすか!?こんふぁぶ!

 :こんふぁぶ。まぁ今はファブゼロブームと言っても過言じゃないからな。特にネット民たちにとっては

 :こんふぁぶー。いくらゲリラ配信と言えどSNSにはびこるオタクたちの拡散力を舐めたらあかんで。あっという間に情報が伝播していくから

 :遅い時間って、言うてもまだ21時だしな

 :確かにいつも18時とか19時あたりから始めてるからな

 :遅いっちゃ遅いんだろうけども

 :こんふぁぶ!どうせここにいる奴らはワイも含めて昼夜逆転の民たちなんだから、気にしなくてもいいぞファブゼロ


「あはは。……みんな、ありがとう。こうやってボクとお喋り、って言ってもコメントとの会話ではあるんだけど、それでもボクにみんなが時間を割いてくれていると思うと、なんだか胸がぽかぽかしてくるんだぁ//」


 :かわいい

 :言うこと全部かわいいな

 :でもちょっと声的に落ち込んでる?

 :↑ それ思った

 :なんか嫌なことあったん?


「えっ!?い、嫌なこと?あ、うぅ~、えっと、〈や、やだなぁ。そんなことないよ!ボクは元気だよ?落ち込んでるように聞こえたのはみんなの勘違いだよきっと。ボク、全然落ち込んでなんてないんだから〉


 :途中でボイチェンやめれwww

 :なんで急にボイチェンすんのww

 :誤魔化し方がファブゼロにしか出来ない芸当すぎる爆睡

 :↑ 爆睡なの死ぬwww

 :↑ 爆笑

 :誤魔化さなくていいよ。俺らに話せることなら話、聞くぜ?


〈う、うーん。は、話せることというか、ちょっとこれはぷ、プライベートの問題だったりもするから。それに、本当に今は相談するほどの段階でも無いと思ってるから、気にしなくていいよ〉


 :じゃあ話したくなったらでええで

 :ワイらはいつでも待ってるから

 :それで?実際どうして今日は配信の時間が遅くなったの?


〈あ、それはね、えっと、と、とと友達!っと、べ、勉強会、してきたから//〉


 :……トモダチ?

 :なにそれ、おいしいの?

 :きっと本来のファブゼロの声で今の言ってたらめっちゃ萌えるんだろうなぁ。でもきもオタおじたんボイスで照れられると、なんか違うんだよなぁwww


〈そ、そうだった。みんなにとって友達とのあれこれは禁句だったね〉


 :いや別にそうでもないぞww

 :俺らにもしっかり友達はおるwww

 :なんやその偏見www

 :きっと古参勢たちが植え付けてしまった考えなんだろうなぁ

 :古参勢、友達いないんか爆睡

 :泣くな古参勢たち爆睡

 :ところでさ、が今朝投稿した動画見た?ファブゼロ


「えっ?さ、サライ??」


 :あ、声かわいい

 :何回聞いても可愛すぎる声

 :ぶっちゃけ声だけでいいならフ〇リキュアにもなれそうだけどな

 :サライってあいつか。いろんな活動者に喧嘩売ってあること無いこと拡散して炎上させようとしてくる傍迷惑なやつか

 :↑ そそ。そのサライが今朝投稿した動画でまた個人勢のVtuberが転生前の顔を晒されて、ひどいこと言われてるんだけど。その動画でファブゼロの名前が出てきたんよ

 :は?

 :まじ?

 :あいつワイらのファブゼロにも噛みつく気かよ

 :許せねぇ



 コメント欄を見ながら、そんな人もいるのかと少し怖くなってしまう。

 そしてそのサライという人が、ボクのことを何か言っていたと事実に、小学六年生の頃のあのトラウマが僅かに脳裏に蘇った。あの、数々の心無い言葉たち。


 もしかしてそのサライという人にも、「現実を見ろ」とか「やっぱり声がキモい」とか色々言われているんじゃないか。


 気になれば気になるほど妄想は止まらず、ボクの背中には冷たい汗がじっとりと流れ始める。



 :いや、それがね笑 べつに噛みついてたわけじゃないんよ。むしろ逆で、何かと褒めた笑 今ネット界隈の癒し担当はファブゼロちゃんしかいないとか、そんなこと言ってた笑笑



 その日の配信はサライさんについてそれ以上は触れず、いつもの何気ない話題を用いて雑談を一時間ほどして終えた。

 そして諸々の準備を済ませ、あとは寝るだけという睡眠万全の状態で、ボクは件のサライさんという人物を調べてみた。

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