第34話

「ボク、フ〇リキュアになりたかったんだよね。知ってる人は知ってるかもだけど」


 ボクは今、iPadでお絵描きをしている。配信しながら。


 コメント

 :覚えてるぞwww

 :あの時は性別男だと思ってたから驚いたけどww今は想像できるし可愛く思える

 :そんな話してたっけ?

 :いつ頃の配信で言ってました?

 :古参勢しか知らんよ恐らく(愉悦)


 いつも配信中に画面に表示している「ざつだん」という丸文字も今日は有給休暇を取ったみたいで、今、画面にはボクがお絵描きしてるイラストが、リアルタイムで視聴者さんたちも見れるようになっている。

 配信を始める前にiPadとデスクトップパソコンを連携する設定に少し手間取ったものの、無事にこうしてボクは配信をすることが出来ていた。


 そう、ファブゼロボクは、初めてのお絵描き配信なるものを試みたのだ。


 :てかファブゼロの絵、普通に上手じゃない?

 :少なくとも下手ではない

 :字もそうだけど、丸っこくてかわいいよな

 :↑ わかる

 :素人が描いてるにしては褒められるレベル

 :絵師には足元にも及ばないけど、かわいさは伝わってくるな


 あはは。

 コメントを見てると、辛辣な評価だったり照れちゃうような評価だったり。けれどお絵描き配信自体はフォロワーさんたちの反応を見る限り「やってよかった」と思える掴みである。今のところは。


 しかしどうしてボクが突然お絵描き配信というものにチャレンジしてみることになったのか。

 それは昨夜、妹の紅葉とお風呂に入っている時の出来事……



「おねーちゃん、何か悩んでるのー?」


 広くもなく狭くもないお湯の張ったバスタブの中。

 ボクの足と足の間にすっぽりと収まるように座り、ボクの胸に頭をあずけて湯舟に浸かる紅葉がぐぐーっと背を沿って逆さまの頭でボクを覗き込みながら聞いてきた。


「んー、まぁ、悩んでるねぇ」

「おねーちゃんの配信に関係してるー?」


 紅葉は頭をボクの胸の谷間に沈めながら、両手でムニムニとボクの胸を挟むように何度も揉むように押しては感触を楽しんでる様子。

 妹の顔が心地よさそうな、幸せそうな表情になってるから放置して悩み事の一部をかいつまんで話す。


「ねぇ紅葉。紅葉は相手のことを知ろうとした時、どうやって知ろうとする?」

「?? どういうこと?クレハにも分かるように言って」

「紅葉に好きな人が出来ました」

「おねーちゃんだ」

「じゃあ例を間違えちゃったかな。紅葉に気になる人が出来ました。好きとかじゃなく、もっと仲良くなりたいなぁと思う人」

「おねーちゃんだ!」

「紅葉はボクのこと好きなんでしょ?じゃあ気になる人にはならないよ」

「好きな人ももっと仲良くなりたい人もおねーちゃんだよ?」

「だーめ。お姉ちゃん以外で。じゃあもういいや。紅葉はお姉ちゃんと喧嘩をしました」

「しないよっ!」


 紅葉が左手をボクの胸に添えたまま、右手でボクの太ももの裏側を少し強めに揉む。


 ちょっとだけ痛い。


「例えばの話だよ紅葉。ね、紅葉はお姉ちゃんと喧嘩して、お姉ちゃんが何に怒ってるのか分かりません」

「むぅ。……クレハとおねーちゃんは喧嘩なんかしないのに。あるとしたらクレハがおねーちゃんを一方的に叱るだけなのに」

「………。まぁいいや。それで、紅葉。紅葉ならこういう時、どうする?相手の考えてることが分からない。仲直りするためには相手のことをもっと知らなくちゃいけない。相手のことを知るためには、どうする?」


 紅葉が右手をボクの太ももから離して、自分の頬っぺたに持っていってムニムニ。

 左手はそのままボクの胸をムニムニ。


「クレハだったら、おねーちゃんの立場になって考えてみる」

「ママがよく紅葉を怒るときに言ってることだね」

「クレハは何も悪いことしてないから、ママが勝手に怒ってくるだけなんだけどね」

「うんうん、そうだね。それで、紅葉は相手の視点に立って物事を考えてみるってことだよね?」

「そゆこと」

「そっかぁ。やっぱりそうだよね。ボクもそれくらいしか思いつかなったけど、じゃあ実際、それを具体的にどうすれば理解度が高まるかと言われると。う~ん」


 ボクは後ろから紅葉を抱き込むように腕をまわしてハグする。

 ボクの胸にぎゅうぎゅうと紅葉を抱き寄せる。


「やわぁかーい!ぃひひ!」

「どうしよっかなぁ」

「クレハはね、おねーちゃんの真似っこしてみたりするかも!」

「真似っこ?」

「うん!おねーちゃんのこともっともーっと知りたいとき、クレハはおねーちゃんと同じことをするの!」


 ………あぁ、そういえば昔からボクの後をとてとてと歩きついてきては、ボクが冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぎ一気飲みしたら、紅葉も同じことをしていたし。ボクがお風呂上り半裸で家を歩き回ってママに叱られたら、紅葉も同じことをやって、そしてボクが叱られたっけ。


 あれって、そういう意図もあったんだ。

 昔っからこの子は、ほんとにボクのことが大好きだったんだなぁと改めて感じて、更にぎゅうぎゅうとボクは紅葉を抱き寄せる。


「じゃあ、お姉ちゃんも紅葉の言ったこと、試してみようかな」

「うん!いいよ!これでクレハとおねーちゃん、もっともっともっと仲良くなれるね!!」


 ………あれ?

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