第24話

「ただいまー」


 本来の予定よりも早めに帰ってきたボクは、このあと行う配信の準備をするべく早速自分の部屋へと向かおうとする。

 けれどそれよりも先に、リビングから元気な足音が聞こえ近づいてくるのが分かった。


「おねーちゃーん!?おかえりー!!」

「ぐへぇ」

「きゃはは!おねーちゃん変な声ー!」

紅葉くれは、お姉ちゃん何回も言ってるよね?人のコンプレックスを刺激するようなこと言っちゃダメなんだからね」

「いひひ!はぁーい!!!」


 本当にボクの言ってること分かってるのかな?

 心配になるほど元気よく手を挙げて返事をする妹。


 口では一応注意してるけれども、相も変わらずこうやってボクに突進紛いのハグをしてくるとことか、ボクの妹が可愛すぎる。

 今も紅葉はボクの胸に顔を埋めて、「すぅーーう」と大きく息を吸い込んでいる。そして「えへへ//おねーちゃん、だーいすき!」って……


 だ、だめだ。


「~~~っ!ボクも、紅葉のこと大好きだよ」


 思わずボクも妹をハグっと抱きしめ返す。

 日に日に妹の可愛さが増していくような。

 それにしても今日はどうしたんだろう?昔から確かに紅葉は甘えたさんだったけれど、こうも激しいのは珍しい。


 紅葉に続いてリビングからお母さんが顔を出す。


「その子、昨日も今日もあんたが外出するから、寂しかったんだろうね」

「……そうなの?紅葉」

「そうだよ。……おねーちゃんのばーかばーか」

「……………そっか」


 しばらくボクは何も言わずに紅葉のことをぎゅっとハグしたまま、頭を撫で続けた。



 ……………………


 ………………


 …………



「相も変わらずボクの妹が可愛いすぎた話しても良い?」

「せっかくのコラボで出だしが身内の話かーい!」


 コメント

 :きちゃー!!

 :待ってた!ファブゼロの声が癒しすぎて中毒

 :SNSで5分前にゲリラ配信予告があって、それでも同接2万行くとかシンプルすごい

 :【朗報】ワイのファブゼロ、またもや突発的にワイの推し声優とコラボす

 :↑お前のじゃない定期

 :↑↑それ朗報なのか?

 :【悲報】若手一番人気声優、元キモオタおじたんに雑な扱いをされる

 :元キモオタおじたんというパワーワードwww

 :これってオフコラボですか!?


「あ、いきなり重大な質問がコメントに流れてたよファブちゃん」

「え、どんなの?」

「今ってオフコラボですかー、だって。ねね、ファブちゃんの口から言ってあげてよ!」


 :まおりん声はずんでて可愛いwww

 :声でウキウキしてるのが分かる笑

 :こーのまおりんの反応は確定演出です


「いや、残念だけどオフコラボではない、です」


 :えっ?

 :?

 :??

 :???

 :????


「ほらぁ、ちゃんと理由も説明してあげないとー、視聴者さんたちに伝わらないよ?」

「あ、えとぉ。その、ボクが知り合いを家に連れてくるのを妹が嫌がるから。……すぅーー、……えーっと、はい。からのオフコラボの誘いは断りました。はい」

「はい!ということでね!ファブちゃんのフォロワーのみんな、ごめんね!私は君らの為にリアルタイムでファブちゃんとのイチャイチャを提供できなくなりました!」


 :こ、これはもしや……

 :ウキウキしてるわけでも、ワクワクしてるわけでもなく、、、

 :ただただぶち切れて、いらっしゃる?(ガタガタ


「いや?別に怒ってないよ?ね、ファブちゃん」

「………最初はかなりプッチンしてた」

「ファブちゃん?」

「全然怒ってなんてなかった」


 :まおりんの艶のある声にとんでもない圧がのっかってて、笑える

 :なんか、前回よりもファブゼロのまおりんに対する話し方がくだけてるような気がする


「だってさファブちゃん。そりゃ一緒に「あーん」したりされたりを繰り返した仲だし、これくらい当然だよね!」

「あれは最高だった。まおちゃんみたいな綺麗なお姉さんに甘いお菓子を食べさせてもらって……。えへへ//………思い出しただけでも幸せ」


 :ふぁ!??

 :く、詳しく!

 :前に行ってた約束のことか

 :ファブゼロの「えへへ//」を集めた耐久動画を製作中の俺氏。今日も極上の「えへへ//」を得られてにっこり

 :↑もちろんSNSに投稿してくれるよな?

 :↑俺たち仲間だもんな?

 :もちのろん。アップロードしたらおまいら拡散よろ

 :これが、絆ってやつか(泣)


「なんかボクの配信のコメント欄が少年漫画みたいな胸アツ展開になってるんだけど」


 :まおりーん!ファブゼロさんの見た目どうでしたー??wktk


「おっ!やっぱり気になるよねー。そうだなぁ……。見た目はね、まず胸がおっきくて「ちょっとまおちゃん!?」それで背はちっちゃい部類だね。ちまちま頑張って動く姿も相まって小動物味がものすっごかった。そして最後に圧倒的に可愛い」


 :なにそれどこのヒロインですか?

 :ほんとに三次元かな?

 :つまりファブさんの自己分析は全くの的外れということでOK?


「OKOK!まじでファブちゃん自分のこと卑下しすぎてる。ぜんっぜん、これっぽっちも不細工なんかじゃなかったから」

「………」

「あれ?ファブちゃん、急に黙ってどうしたの??」

「……………ふへへへ///お世辞だとしても、ボクには勿体ない言葉。だけど、すっごく嬉しい。ありがと、まおちゃん。………すき」


 :……有能な切り抜き師たちよ、頼んだぞ

 :任せろ。しっかりあとでSNSにあげとく

 :タグも忘れるなよ

 :任せろ


「やっば。ファブちゃん可愛いすぎるんだが」




〇 〇 〇

補足

まおりんは自宅でファブゼロの配信をパソコンで追いながら、ケータイでファブゼロと通話を繋げて配信に参加しています。

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