第23話

 汐凪さんに髪飾りのことを気付いてもらえたこと。

 それから彼女に頭を撫でてもらえたこと。


 ボクはとっても嬉しくなって、「えへへ///」とはにかんで笑う。


「そっちの子と兎月ちゃんは随分と仲が良いんだねぇ?」


「そうなんですよ!もう最近は学校でもずぅーっと一緒にくっついてて、妬いちゃいます」

「………カリンには私がいる。妬く必要なんて、どこにも無いでしょ」

「いや、これは言葉の綾ってやつだからスモモ」


 どこか含みのありそうな言い方をする『まおりん』に対して、安島さんが気さくに答える。

 その間もボクは汐凪さんに頭を撫でられ続ける。


「ねぇ兎月ちゃん、このスイーツ美味しいよ?食べてみる??」

「え?食べたいです!」


 ボクが汐凪さんに半ば無意識に頭を擦り寄せていると……、『まおりん』がボクの肩をチョンチョンとつついて、プレートにのったチョコレートのスイーツをフォークで刺してボクの口元にまで運んでくれる。


 これまでのボクなら汐凪さん以外からをやられることなんて有り得ないし想像も出来なかったんだけど、『まおりん』には汐凪さんたちと偶然出会う前からここスイパレを何度か繰り返していたから。

 ボクはなんの躊躇いも無く、『まおりん』が差し出すフォークに刺さったスイーツに口を開けた。


「あーん♡」

「あーー、むっ♪……んぅ~~!おいひい~!!」


 やっぱり甘いものは世界を救うよ。口の中から幸せになる。

 そう思うくらいにとっても美味しいスイーツだった。


「んふふ。ほんとーに甘いもの好きだねー?兎月ちゃんは」

「はい!大っ好きです!!」

「んふふふ。……かーわい♡」


『まおりん』はニコニコと微笑みながら、テーブルに肘をついて口の中のスイーツを堪能しているボクをジーッと見つめてくる。

 そんなに楽しそうな顔で「かわいい」なんて、言わないでほしい。

 彼女の方がボクみたいな不細工よりも圧倒的に可愛いのに、ちょっと嬉しくなっちゃうボクもいて。恥ずかしい//


 ただ、何故だろう?

 そんな訳ないはずなのに、『まおりん』がボクに微笑んでいることが何か他にも意味がありそうで、少し引っかかる。


 そういえば、気付いたら汐凪さんがボクの頭を撫でるのを止めてしまっていた。

 ちょっと寂しい………。


「ねぇアリサ、そろそろうちらも自分らの席取りに行かん?」

「えっ?」

「いや、え?じゃなくて。こっちの女性と追川っち、今デート中らしいじゃん?邪魔しちゃ悪いでしょーよ」

「………そもそも最初に進んで邪魔しに行ったのはカリン」

「スモモ!?それは知らなかったんだからノーカンでしょ!」

「いや、でも……。うぅ~~~!」


 安島さんと立村さんはもうすでに立ち去る気でいるみたいだけど、汐凪さんだけ凄く悩んでいる。

 も、もしかして、ボクと離れたくない、とか?思ってくれてたりするのかな。

 いや、そんな訳ないか。いくら汐凪さんが優しくてボクみたいな奴とも仲良くしてくれるからって、そんな自意識過剰な妄想はよくない。自重しないと。


 最終的には汐凪さんも安島さんたちの説得のもと、渋々ながらも自分たちの席を探しに行った。つまり今日はあれで「ばいばい」ということだ。


 汐凪さんが去り際に『まおりん』を一度凝視して、それからボクのことを突然ぎゅう~っとハグしてきたことには驚いた。

 汐凪さんは自分でもその行動に若干戸惑っているようで、『まおりん』は何故か笑顔が少しだけ固くなっていた。


 ボクは汐凪さんに頭を抱えられて、とてもポカポカして幸せだった。


「私たちはどうする?」


 頬杖をついたままの『まおりん』が優しい声でボクに問いかける。


 ボクは今日この日のために考えていた『まおりん』と行きたい場所について提案しようとして、、、慌てて開きかけていた口を閉じる。

 あまりにも楽しい時間だったから忘れていたけれど、今のボクは彼女にとって見ず知らずの女の子。多少は打ち解けたかもしれないけれど、彼女がボクのことを『ファブゼロ』だと認知しない限り、本来約束していたプライベートデートを実行することは出来ない。


「あうぅ……」

「んん?どうしたの?兎月ちゃん」

「あ、いや、えっと」

「もうちょっとスイパレを堪能する?」

「あー、、、そう、します?」

「それともDM、一緒にアニメイト行ってみる?」

「はい。ボクもそうしたい気持ちは山々なんですけど………え?い、今なんて??」

「ふふふ♪そうだ。ひどいなー嘘つくなんて、まおりおねーちゃん悲しいよぉ」


 およよ、と演技とも呼べないわざとらしい泣き真似をする『まおりん』。

 対してボクは、この急展開についていけずにいた。


 やっぱりって?どういうこと!?

 ボクが『ファブゼロ』だって、『まおりん』は気付いてたってこと??

 気付いてて、わざと事実を言い出せないボクに合わせてくれてたの?いったいいつ気付いたんだろう。


 驚きすぎて何も言葉が出ないボクに、『まおりん』は悪戯が成功した子供みたいに無邪気な笑顔である提案をしてきた。


「アニメイトも良いけどさ、今日はこのあと一緒に久々の、してみない?」






〇 〇 〇


お久しぶりです。

これまで沢山の応援コメントをありがとうございます。

返信は出来ませんが、一つ一つにしっかりと目を通し、励まされています。本当にありがとうございます。


次回は配信回です。

お楽しみに。

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