第21話

「君もここで誰か待ってるの?私も今から会う予定の子がいるんだけど、めっっちゃ楽しみなんだよね!!」


 ………えーっと、、、?


 ボクの目の前にいる五葉いつつばまおり――こと『まおりん』は、ボクの頭を二度ポンポンしたあとに、心底嬉しそうな、華やいだ笑みを向けてくる。

 その笑顔は他を圧倒して、大輪の花のような見る人を元気にさせる力があるように思えた。


「え、あ、え?あ、そのぉ……」


 あなたの待ってる人は今ここにいるよ!目の前だよ、目の前!!


 なーんて心の中では盛大にアピールしているものの、相手がボクのことを『ボク』と認識していないと理解した途端、言いたいことが喉を通らなくなり、どもってしまうコミュ障の悪癖が出てしまう。

 向こうがボクを認知していなければ、それは向こうにとって他人となんら変わらないわけで……。そうやって色々考えて、結果何も喋らない方が良いと自分で納得して黙り込む。

 負のコンボでフルコンボだどん……。


「う、うぅ~」

「あはは!どうしたの泣きそうになって。もしかして君の約束している人が来ないとか?」


 ボクの約束している人はあなただよっ!


 そんな人の気も知らず、彼女はまた「たははー。不安そうな表情もかわいいねぇ!」とか言いながらボクの頭をなでなで。


「まぁ安心してよ。なんか私と約束してるその子も遅れてるっぽいし?君の待ってる人が来るまでは一緒にいよ?」


 そうやってまた、優しくボクを見て微笑む。


 こんなに勘違いされたまま優しくされると、余計に本当のことを言い出そうにも言い出せない。

 ボクは「あわわわ」とテンパりながらも何がベストな策かを考えて……。


 結果、スマホを取り出した。


「ちょ、ちょっと、約束してる人にメールしてみます」

「あ、全然いいよー」


 許可を貰い、『まおりん』から少し離れた場所でトークアプリを開き、メッセージを送る。


『ごめんなさい!急用でかなり遅れます!!後でお金は払うので、どこかでお茶しといてください!!』


 ピロン!


 ボクがメッセージを送ったのと同じタイミングで、少し離れた場所にいる『まおりん』のバッグの中からスマホが鳴る。

 彼女はそれを取り出して画面に映る内容を確認すると、「んー、なるほど!」と、怒るでも失望するでも無く、笑って頷いた。


 そして素知らぬ顔で近づくボクを見ると、まるで気落ちした様子をボクに感じさせもせず、ただ笑って一歩、彼女も距離を詰めてくる。


「なんか、めっっちゃ大事な急用が出来ちゃったみたいで、遅れるっぽい私の待ち人!そっちは?」

「あぅ。えっと、まだまだ(気づきそうにない)みたいです」

「そっかぁ。……じゃあさ、ずっとここにいても何だし、どこかでお茶しない?それとも君はここで待ち続ける?」


 待ち続けるも何も。

 もう本当は出会えてる訳でして。ここで一人でずっと居るよりかは『まおりん』と近くのカフェでお茶した方が良いに決まってる。


「じゃ、じゃあ、ご一緒させていただきます……」

「あはは!そんなに固くならなくても良いんだよ?別に襲う訳でも無いんだし」

「いやっ、その……。これからのことが心配で」

「そうだね。確かに行き違いになったら大変だから、君も待ち人に連絡はしといた方がいいよ」

「そう、ですね。わかりました」


 ボクは『まおりん』から少し離れ、スマホで誰かにメールを送るフリをしてから彼女と一緒に待ち合わせ場所近くのスイーツが沢山食べられる場所へと向かった。



 スイーツパレード。略して『スイパレ』は、スイーツ食べ放題の女性に人気がある有名なお店だ。

 きゃぴきゃぴとした青春を謳歌せし女性たちで賑わうそこに、当然ながらボクは一度も足を踏み入れたことが無かった。


「ふへへ。……スイパレなんて、ボクはじめてです」

「うふふ。その初心な反応もめっちゃ可愛いね。………え、てか待って?今なんて??」

「え?スイパレなんて、ボク初めて来ました。……えへへ///」

?」


『まおりん』は困惑したような表情をし、やがて一人で首を横に振るような素振りを見せた。


「(一人称ボクの女の子。それに今思えば聞きなれた天使のような声……。いやでも………、もしそうならなんで言わないの?って話だし。うーん。気のせい、だよね?)」


 無理やり何かを頭で整理したような、そんな『まおりん』と一緒に、多くの女性で賑わうスイパレで幾つか美味しそうなスイーツを選んだあと、ボクたちは丁度空いた二人席へと腰を落ち着かせた。


「君はチョコレートが好きなの?」

「あ、はい。あっ、なんか子供っぽいです、かね?」

「んーん!全然そんなことないよ。私もチョコ大好き!というか甘いものぜーんぶ好き!」

「あはは。ボクもです」


 そんな会話から始まり、ボクらは「美味しいね」「これも美味しいよ」「はい、あーん♪」とか言われたり言ったりしながら、楽しい一時を過ごした。


 こうやって、ボクが前々から推してた人と笑いあいながらお菓子を食べれることが無償に嬉しい。そして幸せに思える。

 けれど、そんな幸せの時間も、数分後には修羅場と化すことを、この時のボクはまだ知らない。








「あれ?あそこに座ってるの、追川っちじゃない?」

「………ほんとだ」

「え……?兎月?」

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