第13話

 Vtuberに転生するのではなく、『はぴぷれ』事務所のVtuberファブゼロになる。

 それはボクにとっても向こうにとっても良い提案だった。


「それなら、やってみたいです」

「おぉ!そうかい!?それなら、旭川くんを呼ぶからちょっと待っててくれ」


 ボクが前向きな答えを出すと、久我さんは一気に華やいだ笑顔で部屋の外で待っているであろう旭川ちゃんを呼びに行った。

 そして部屋に戻ってきた旭川ちゃんと、それからボクをこの部屋まで案内してくれた秘書みたいな女性に久我さんが、ボクとの会話の内容を要所要所かいつまんで端的に説明していく。


「えっ!え、え、えぇ!??お、追川さんがあの『ファブゼロ』さんなんですか!?た、たしかにそう言われてみれば声がすごく似てる気がします!!」

「まさかファブリーズ・ゼロキャノンさんのネームバリューごとうちに引き込むとは、さすが社長です」


 二人とも驚いているようだった。


「それでね、旭川くん」

「は、はい!」

「今大注目のファブゼロくんがうちに来たら、その分うちが注目されることは分かるよね?」

「は、はい!」

「それで、今うちでのは二期生の『山茶花さざんか サンカ』、きみだよね?」

「は、はい!」


(えっ!?旭川ちゃんが山茶花サンカ!??)


『はぴぷれ』の二期生、山茶花サンカは『はぴぷれ』が誇る一番フォロワー数が多い人気のVtuberである。

 見た目の特徴は映える金髪に赤のインナーカラー。

 ツインテールで瞳も紅色。背丈は小柄で顔は童顔。

 設定は生粋のゲーマーであり、『ロリ巨乳』と呼ばれるとすぐ怒る。

 そして一番の特徴はその性格!!なんと彼女は所謂ツンデレなのだ。


 大事なことだからもう一度。

 なんと彼女はなのだ!


 そう、ツンデレ。

 ボクも山茶花サンカの配信は何度か見たことがあるけれど、視聴者とものすっごいプロレスをしていたイメージだ。


 それが、まさか如何にもな感じの典型的なコミュ障陰キャでボクと同類っぽい女の子の旭川ちゃん!??

 配信してるときと真逆の性格なんだけど……。


「だからね、君とファブゼロくんには事前に一度コラボ配信をして欲しいんだよ。そしてその配信の最後でファブゼロくんが『はぴぷれ』に入ることを大々的に告知する。そうすることでネットの注目はみんなVtuberファブリーズ・ゼロキャノンに集まるはずだ」

「は、はい!…………え、コラボ?わたしが??ファブゼロさんと???」

「そうだ」


 え、まじですか。

 それボクも聞いてないんだけど。


「ボクは旭川ちゃんが良ければコラボはいつでも大丈夫です。けれどその、ボクのVの姿って出来上がるのに結構時間かかりますよね?」

「そうだね。だからコラボと言っても、かなり先になると思ってくれてればいいよ。それに、やっぱり自分の分身になる子には時間をかけて良い完成形にしたいだろう?」

「そう、ですね。あっ、ちなみにイラストレーターさんとかって」

「もちろん決めていいよ。交渉もこちらがするし、ガワの創作費用ももちろんこちらが受け持つよ。ただ交渉しても承諾されない場合があるから、そこは頭に入れておくように頼むよ」

「わかりました。ありがとうございます!」


 あまり自分がVtuberになるという実感が湧いていなかったけれど、イラストレーターの存在を思い出したら急に現実味が帯びた気がする。


 イラストレーター。ボクが決めていいと久我さんは言った。

 SNSではイラストレーターさんが数多く存在している。

 Vtuberのガワを担当するイラストレーターと言えば、それは一般的にはVのガワを世に生み落とすということで『ママ』と呼ばれる。


 そんな二人三脚と言っても過言では無いほど重要な役割を誰にお願いしようか、SNSで今まで見てきた数多のイラストレーターさんのイラストを思い浮かべたとき、一番最初に浮かんだイラストにとくる。


 それはボクが一番好きなタッチの絵を描くイラストレーターさん。


 ボクの『ママ』になってもらうなら、彼女しかいないと思った。


「ちなみにボクが『はぴぷれ』に入ることって、そのコラボまでは内緒ですよね?」

「そうだね。信頼できる人には話してしまっても構わないけれど、極力情報漏洩は避けたいところだ」

「わかりました」


 その後もボクと久我さんは今後について詳しく紙面上の契約なども用いて話し合った。たまにVtuberのことは旭川ちゃんからもアドバイスももらって、順調に話し合いは進み、そのまま終わった。


 そして解散となったあと。


 ボクは旭川ちゃんに呼び止められる。

 先ほど連絡先を交換したのだけれど、どうやらチャットではなく直接言いたい内容のようだ。


「あの、もし良かったら、今度宣伝とか関係なくコラボとか、一緒に遊んでくれませんか?」

「えっ?」

「あ、あのあの!ちゃんと久我しゃちょーからもOKは貰って、、ます……」

「あ、その……」

「だ、だめ、ですか………?」

「いやいつでも大歓迎です」


 目の隈があったり挙動不審だけれど、それでもかわいい女の子の上目遣いで「だめ、ですか……?」の破壊力はとんでもないものだった。

 ボクは無意識に了承していた。




〇  〇  〇

次回はコラボ配信回です。

かわいいが詰め込まれてたり、詰め込まれてなかったり?

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