第10話

 放送事故を起こした日から一週間。

 フォロワーさんたちとの話し合いの結果、『週末のキモオタとカンパイ』という企画は引き続き毎週金曜日に行われることになった。

 だから今日も視聴者さんたちと一緒にアニメを見る。生きがいが無くならなくて嬉しい。


 最近のボクの生活は充実している。

 ボクのSNSの配信用アカウントのフォロワー数がもうすぐ70万人行きそうなことには少し、いやかなり驚いてはいるものの素直に喜んでいいことだと思うし。収益化も今朝したばかりだ。


 そして何よりも毎日学校がたのしい!

 あんなに行きたくない、引きこもりたいと嘆いていたのが嘘みたいだ。


 それもこれも全部、汐凪しおなぎさんのおかげだ。

 今までボクが見ていた学校での景色はモノクロだった。けれど彼女がボクと友達になってくれてから色付いて見える。


 彼女にボクの秘密を知られた。

 ボクは彼女の秘密を知った。


 どうやら汐凪さんは、アニメとVtuberが大好きなオタクだということを秘密にしてるらしい。

 確かに学校での汐凪さんはそういうインドアな趣味とは無縁そうに見えるグループにいるから言い辛いのかもしれない。けれど家族にまで内緒にしてると聞いたときには驚いた。それはボクにとっては有り得ないことだったから。

 家族に自分の好きなことを言えない環境が存在することを知り、自分が如何に恵まれているのかを知った。


 でもだからこそ、その秘密をという事実はボクにとって凄く嬉しいものだったし、学校ではじめてできた友達だから、汐凪さんにとってボクは好きなことを気軽に好きと言えて心安らぐ気の置けない存在になろうと思った。


(今日は汐凪さんをお昼に誘ってみよう)


 月曜日から昨日の木曜日までは休み時間や放課後に二人で話す時間を作ることは出来ても、今までお昼ごはんを一緒に食べたことは無かった。


 友達と学校でお昼ごはんを食べる。

 一種の憧れだ。

 ボクは念のため月曜日に交換してから汐凪さんの連絡先を開く。『今日のお昼は空けといてほしい(◦ >﹏<。)』とメッセージを送っておいた。



 ……………………


 ………………


 …………



「最近になってようやくボクも春の青さに気づき始めたよ」


 コメント

 :どしたん急にww

 :ポエマーにでもなるんか?

 :アオハル……俺らには禁句だぞ

 :何かいいことでもあったんwww

 :【1000円】スペチャ送れる!!

 :【15,000円】すぺしゃるチャット解禁おめでと代です

 :おー、そういやSNSで今朝収益化したって投稿してたな

 :【50,000円】収益化おめでとさん


「わーわー!こんなにありがと。でも無理して送らなくていいからね?」


 :【550円】おめでとー

 :【300円】少ないですがどうぞ

 :【18,000円】こんなときぐらい無理させてくれ

 :【5000円】いくら払えばあたしのことも「おねーちゃん」って呼んでくれますか?

 :草

 :ネキもよう見とる

 :まおりんをファブゼロがおねーちゃん呼びしてる切り抜き動画が大バズりしててやっぱ需要あるんやなって思った

 :【3000円】結局なにかいいことあったの?なんでアオハル?


「うわぁ、みんなありがと。おねーちゃん呼びはしばらく封印です、恥ずかしいので。それで話を戻すけど、最近のボク青春を謳歌しすぎててちょっと怖いんだよね」


 :???

 :どゆこと?

 :いいことじゃん


「なんか、常に誰かと一緒にいれてる気がする。今日はお昼もぼっちじゃなかった。ほんと家の自室以外で一人になることが極端に減ったんだよ。これもう誰もボクのことコミュ障陰キャの根暗ぼっちとか呼べなくない?」


 :なんだただの俺らに対するマウントか(泣

 :ワイらに刺さる


「すっごく気の合う友達ができたことは前の配信で話したじゃん?その子がもう、とーっても優しいの!今日のお昼だって二人きりだからって何回も『あーん』ってしてくれたし。これが友達同士では普通なんだよって教えてくれたの!優しいでしょ!!」


 :突如襲い来るてぇてぇの波動

 :カハッ(吐血

 :見守りたい、この尊い関係

 :あーんは友達同士では普通じゃないんよwww

 :【2000円】照れ照れ///

 :あーんされて、もきゅもきゅしてるファブゼロの姿(妄想美少女)を想像しただけで可愛いすぎてしんどい

 五葉まおり:私もファブちゃんに『あーん』したい!!

 :まおりんもよー見とる

 :もはや常連www


「えー、ダメだよ。だってその子には自分以外の人には『あーん』してもらっちゃダメって言われたもん。なんかマナー違反なんでしょ?」


 :どんなマナーだよwww

 :まじで草

 五葉まおり:誰よそんなデタラメをファブちゃんに吹き込んだ羨まけしからん女は!!!

 :よく思い出せファブゼロ。ワイらが語ってきたアニメや漫画で、一度でも『あーん』を友達同士でやってるものがあったか?


「………はっ!!たしかに無い!……え、じゃあ、つまりどういうこと?」


 五葉まおり:ファブちゃんはその子に騙されてます!!今すぐその危険な泥棒猫からは離れてください!!!

 :チッ

 :まぁワイらにとってはそのまま騙されてくれてても美味しいんやけどね

 五葉まおり:↑ どこも美味しくない!


「え、ボク騙されてたの?でもなんのために??」


 :あー、それは……

 :コミュ障ぼっちはこれだから

 :ワイらは人のこと言えないのが悲しい

 五葉まおり:【50,000円】とりあえずファブちゃんには今度遊びに行ったときに『あーん』します。これ強制!


「えぇ……?」




 ……………………


 ………………


 …………


 アニメの同時視聴と少しの雑談を楽しんで配信を終了したボクは、SNSで配信を見に来てくれた視聴者さんたちに感謝のメッセージを投稿する。


 そしてふと、そういえば未だに一週間前から殺到している大量のDMを見ていないことに気づき焦る。

 DMを開いて一件目。ボクは固まった。



『はぴぷれVtuber事務所の者です。Vtuberに興味はありませんか?返信は気長に待ってます。』



 なんと大手Vtuber事務所からのスカウトだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る