第9話

 切り抜き動画に貼ってあるリンクからあたしは即座にファブゼロさんのアカウントへと飛ぶ。そして無意識にフォローと通知をONにしていた。


 いつの間にか眠気はふっとび、あたしは結局日付が変わってから二時間ほどかけて例のファブゼロさんの放送事故のアーカイブとそれの切り抜きを網羅した。

 その頃には流石に睡魔も再びやってきて就寝。

 しかし翌朝にはやっぱり気になってるのか目覚ましよりも早くに目が覚めてしまった。


 それから一度目を覚ますと冴えてしまって眠れなくなってしまう体質のあたしは、外でランニングをしたり、部屋の掃除をしたり、普段の土曜日ならもっとゴロゴロしているけれどその日は動いていないと追川さんとファブゼロさんのことをずっと考えてしまいそうだった。


 掃除を終えて、朝ごはんを食べて、再び自分の部屋に戻ってきてスマホを見てみるとSNSの通知が届いている。内容をよく確認せずに癖でそれをタップすると、ファブゼロさんの投稿を知らせるものだった。


 内容は、残念ながら本日の配信はお休みとのこと。

 まぁそうだよね。アーカイブとかで見た限り、最後の方はかなり焦って配信を終わらせていたし。まだ心の整理が出来てないのかもしれない。

 その代わり次の日の朝9時から今後について配信をするとの告知があったから、それを少し楽しみにする。

 さっきまで動いていないと頭の中が追川さんやファブゼロさんのことでいっぱいになってしまうと考えていたけれど、どうしてか今日は配信をやらないことが分かると、一気に何もやる気が起きなくなった。


 むしろ早く明日になってくれとすら思っている自分がいる。

 どうやらあたしは、自分が思っている以上にファブゼロさんのこと(中の人含む)が気になっているらしい。


 結局そのあとはゴロゴロといつもの休日みたいな過ごし方をする。

 撮り溜めたアニメを消化し、かわいいガワと声のVtuberの配信を見る。あたしがフォローしているVtuberの子たちの何人かが配信でファブゼロさんについて視聴者と会話していた。どこの企業の子も口を揃えて「かわいかったよね~。コラボしたいなぁ。なんならぁ」と好意的なことを言っていた。


 あたしはそれを聞いてファブゼロさんと推しがコラボするのを即妄想。


(あ、てぇてぇ……)


 そんなことをしてたら一日が終わろうとしていた。

 いくら両親が共働きで滅多に帰ってこないと言っても、流石に妄想で時間が溶けていく今の自分の現状には溜め息がこぼれる。


 あたしはお風呂に入って夜ご飯を食べたあと、その日はそそくさと寝ることにした。




 そしてその翌日。


 あたしはスマホに噛り付くように画面を眺めていた。



『昨日の夜にいきなりリプが来たときにはビックリしたよ』

『あははっ!ごめんね、おねーさんも急すぎるかなー?とは思ったんだけど、欲には勝てなくて』


 コメント

 :なんの欲だよwww

 :色欲? ←あたしのコメント

 :肉欲?

 :変な欲しかなくて草



 なんと今、あたしのスマホからは推しの声優と多分気になるクラスメートとのコラボ雑談トークが行われている。

 これは夢か?いや現実だ。ありがたいことに現実だ。


 ことは今朝にも行われたファブゼロさんの配信で起こる。


 やはりと言うべきか、なんの心配もしていなかったけれどやっぱりファブゼロさんの視聴者は誰も彼女を批判などしなかった。むしろあたしが配信を見てる限り、「これからも配信してほしい」というコメントでいっぱいだった。


 どうやら彼女はもっと配信が荒れ、長丁場になると想像していたらしく、逆にはやく結論が出てしまったことに戸惑っている様子だった。

 あぁ、絶対に今、彼女は困り顔をしていることだろう。顔出ししていないのがもどかしい。

 せめてVtuberみたいに動くガワが彼女にもあれば表情も愛でることが可能なのに!


 そんな風に彼女の表情を頭の中で妄想しながら配信を見ていると、チャット欄にコメントしたある名前に目が吸い寄せられる。

 五葉いつつば まおり。あたしの推してる声優の一人だ。まさか、彼女もファブゼロさんの配信を見てるとは思わなかった。コメントも彼女の登場で盛り上がりを見せる。


 あたしは見てなかったけれど、どうやら昨夜のファブゼロさんのおやすみメッセージにまおりんがリプをしたらしい。そこからファブゼロさんがDMでお返事をして、仲良くなったんだとか。


 なんだそれ二人とも羨ましすぎる。

 あたしも配信者になろうかな。それで有名人になったら、あたしも推したちと繋がれるかも。

 ………いや無理か。


 そのあともファブゼロさんがまおりんを「まおちゃん」と呼んではしゃいだり、照れたりと可愛すぎるポイントが多々あった。

 中でもコメントが一番速く動いたのは、まおりんのデート約束の匂わせである。いやあれは匂わせと言えるのか。なんかがっつり視聴者あたしたちに見せつけるようにコメントしてたし……。わざとかも。


 DMで仲良くなった二人は、今度オフで遊びに行くらしい。


 ほんとはそのデートを遠くから見守りたいけれど、SNSのリアタイ報告と後日に行われるであろう感想配信で視聴者たちは良しとした。



 そして今現在。


 今朝の配信の終わり際にファブゼロさんが「これからも配信をやらせてもらうので、さっそく今日の午後にも雑談配信をやります」と言った際にまおりんがコメントで「私とお喋りしよーよ」と実質コラボを持ち掛け、、、今に至る。



『収録帰りのタクシーでたまたまSNSで人気急上昇↑って出てきたファブちゃんのあの伝説放送事故配信を見れたことが何よりも私の幸運だよぉー』

『伝説って、そんな大げさだよ』


 :たしかにあれは伝説

 :おじさんがボイチェンしてバ美肉とかはよく見るけど、まさかボイチェンを使ってその逆をしてたとは、、、

 :古参のワイらですら気がつかなかった


『ほら、視聴者たちも伝説って言ってる。現にあの伝説配信からフォロワー数が凄いことになってるでしょ?それは伝説効果よ』

『伝説効果……』

『露見してしまった素の声がこーんなに可愛いとか、そりゃ男性視聴者はもちろん、私みたいなおねーさんの癖にも刺さりまくりだよ』

『そ、そうなの?よ、よくわからないや』


 :あー、まぁ確かに前まではファブゼロのフォロワーってみんな男だったイメージだけど、そういや伝説配信からは女性っぽいアカウントのコメントも多くみるようになった気がする

 :まぁ実際に癖であることは間違いない ←あたしのコメント

 :その声で私の名前のあとにおねーちゃんって付けて呼ばれたい

 :私も

 :あ、あたしも!! ←あたしのコメント

 :ネキたちもよう見とる


『ほらね?………ちなみになんだけど、今コメントにあった名前のあとにおねーちゃんってつけるやつ。試しに私の名前で呼んでみてくれない?』


 :おいwww

 :下心が隠しきれてないww

 :まおりんだけズルい!私も呼ばれたい!!

 :どいて!わたしがおねーちゃんよ!!

 :流石にまおりんでも許されない!! ←あたしの以下略


『え、えぇ?……は、恥ずかしいよ。た、たくさんの人が見てるんだよ?』

『っ!……もう!この子ほんっとーに反応がいちいち可愛いすぎるんですけど!!』

『えぇ?』

『ね?おねがい!まおりおねーちゃんって、呼んでみて!』


 :ドキドキ

 :はやくはやく

 :わくわく

 :バクバク ←あたしの

 :呼んで呼んで♡


『ほら、視聴者たちも待ってるよ?』

『う、うぅ~。……わかっ、た。じゃあ、キュー振りして?』

『やった!えー、それじゃあさっそく!ファブちゃんのおねーちゃん呼びまで、3,2,1,キュー!!』



『ま、まおり、おねーちゃん///』








 配信を見ていたあたしの意識はそこで絶たれた。




〇  〇  〇

書いてて難しかった話。

頑張ったのでコメント待ってます。

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