第7話
月曜日が来た。
憂鬱で憂鬱な月曜日だ。
学校行きたくない。
ファブリーズ・ゼロキャノンとして人気が出たことには少なからず喜びもあるけれど、懸念事項としては身バレの危険性が跳ね上がったこと。
学校でボクの声を聞いたことがある人は、ほんの一握りと限られてはいるもののゼロでは無い。
SNSではトレンド1位をとってしまったみたいだし、不本意ながらもネットニュースに取り上げられたりとかなり注目を集めてしまっている。同じ学校の子たちがボクの配信を見ていないとは限らない。
しかももっと憂鬱なのが、今朝の出来事。
なんと、昨日の午後に急遽行われた人気若手声優『五葉まおり』と大注目(他称)中の配信者『ファブリーズ・ゼロキャノン』との実質はじめてとなるコラボ。通話での雑談トークが、今朝のテレビニュースの【今話題の知っておきたいトレンド】という企画で一部放映されてしまったのだ。
なんと地上波デビューである。
こんなの絶対にうちの学校でも一人は見てるって。
そしてその一人がもしかしたらボクの声を聞いたことのある人かもしれないのだ。
はぁ、帰りたい。ひきこもりたい。
そんな億劫な気分で、重い足取りで教室に入る。
先に来ていた生徒たちのワイワイガヤガヤがピタッとやんで静寂な時間が……的な展開にはならず、みんなボクが登校してもチラッと横目で確認するだけで、それ以上のアクションは起こさなかった。
ボクは自分の席について朝のショートホームルームが始まるまでずっと読書をしていたけれど、案外、誰もボクに対して何かを気にしてる様子もなかった。
………いや嘘だ。
ほんとはボクのことをチラチラと気にしてる子が一人だけいる。
みんなが教室に集まって。担任の先生が来て。朝のショートホームルームが終わって。授業が始まって。休み時間になって。それを繰り返して。お昼休みになっても、その子はボクのことをずーっとチラチラと見ている。
まるでボクのことを観察しているみたい。
ママがつくってくれたお弁当を食べ終え、お手洗いに行こうと席を立って廊下に出たとき、その子がボクを追うかのように席を立った。そしてトイレからボクが出てきたタイミングで近づいてきて声をかけてきた。
その子は―――
「
「(こくり)」
ボクは頷いた。声をあまり出したくないから。
その子はついこの間、ボクに話かけてきたスクールカーストトップの女王様だった。
来月の修学旅行でホテルの班が同じで、ボクに嫌味(ほんとは違う)を言ってきた女の子だ。
彼女はボクの手を掴み、そそくさと足早に人気の少ない方へと向かって歩いていく。
こ、怖すぎる。
握られる手が痛くなるほど強く握ってくるし、ボクが転びそうになるほど早く歩いていく。しかも向かう先は人気の少ない場所ときた。
何も考えずにとりあえず頷くんじゃなかった!
これ絶対に〆られるパターンだ。きっと向かう先には彼女の取り巻きたちがいて、これからボクはリンチに合うんだ……。恥ずかしい写真をとられて、修学旅行ではパシリにされるんだ!!(発想力豊か)
そう思っていたんだけど、、、
連れてこられた場所には誰も待ち構えていなかった。つまりは、彼女とボクの二人きりだ。
「こんなところに連れてきてごめん」
「……いや、だいじょぶ、だよ?」
「っ!!………あの、さ。単刀直入に聞いてもいい?」
「うっ、うん」
「これ、追川さんだよね?」
彼女はいつかの妹みたいに、ボクにスマホの画面を見せてきた。
(これはまずいかも)
と思いつつもボクは彼女のスマホの画面に映されたものを見る。そして頭を抱えたくなる。
ボクは涙目になりながら、もはや必死になって彼女に頭を下げた。
「こ、このことは秘密にしてください!周りに言いふらすとか、や、やめてください!!」
画面には、ファブゼロのボイチェンがきれたときの、つまりはボクの素の声が大勢の視聴者にバレたときの切り抜き動画があった。
しかも彼女はどこか確信してる様子だ。
これはもう紛うことなき身バレである。誤魔化しはきっと無意味だ。
だからボクはもう、頭を下げてお願いするしかないのだ。
「ちょっ!?あ、あたま上げてよ!??別に言いふらしたりなんかしないから!」
「ほ、ほんとに?」
「~~~っ/// ほ、ほんとだよ。ていうか、あたしだって周りに秘密にしてることあるし………」
ボクが頭を上げて彼女を上目遣いのような状態で見つめると、彼女は頬を朱色に染めながらボクから顔を背ける。その行為自体には少しショックだったりするけれど、今はそこじゃないだろう。
「ひみつ?」
カーストトップでクラスの女王様が周りに秘密にしていること。それどころじゃないと分かっていても、気になる。
彼女は少し恥ずかしそうにボブの金髪を手櫛で梳きながら、ボクに言った。
「あたし、実はアニメとVtuberがめっっちゃ、大好きなんだよね」
…………。
ボクは条件反射で問うた。推しの声優は?
彼女もまた反射でだろう。瞬時に答えてきた。『ゆきちー』と『まおりん』。
ボクは頭ではなく心で理解した。彼女もそうだと思う。
この人は自分の心の友となり得る人物だと。
これが後にボクと親密な関係になる女の子。
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