第5話
『本日の配信はありません。次の配信は明日の朝9時から始めようと思っています。内容は今後の方針についてです。よろしくお願いします』
パパとママ、そして妹の紅葉も参加しての家族会議を終えたボクはSNSの配信用アカウントで以上の旨を書いて投稿した。
家族会議ではまず最初に両親から、これからも配信を続けたいかを聞かれた。
どうやら昨夜の配信のアーカイブを見たらしく、事の経緯は知ってるらしい。親に言われてアーカイブの存在を思い出したボクは昨夜のだけ消そうかどうか迷ったものの、これもまた親から「どうせもう切り抜き動画が幾つもSNSにあげられてる。だから今さらな話だし、消したらフォロワーさんたちが心配して事態が余計に面倒になるかもしれない」と言われたのでそのまま残すことにした。
結論から言えばボクは配信を辞めるつもりはない。
これからも続けていきたいと思っている。でも昔からボクのことをキモオタおじたんキャラのファブゼロとして配信を見続け応援してくれた古参の人たちが、ボクに騙されていたことに不満を呈してきた時には、もうそこは今までの感謝と一緒に潔く辞めるつもりでいる。
でも配信はボクにとっての生きがいだ。
出来れば辞めたくないな。受け入れてほしいな。
そんな望みを抱きながら投稿したばかりのSNSの画面を眺めていると、それにどんどんとリプが送られてくる。
どれも「色々と急なことで気持ちの整理がついていないと思います。明日の配信を楽しみにしています」みたいなものや「把握!待ってる!!」みたいなコメントばかりだった。
うぅ~、あたたかい。
待ってるって言葉がこんなにもボクの心をあたためてくれるとは、初めて知ったことだ。
今日はとりあえず明日の配信で喋ることをノートに書き記す作業と、あとは配信用のマイクを至急買いに行かないと。
もしも受け入れてもらえた場合、明日は夕方あたりからも配信をやろうかと考えているから。これはボクなりの「これから頑張りますよっ!」という意思表明だ。
家族四人で少し遠出して大きめのショッピングモールで買い物をしてきたボクたちが、家に帰ってきたのは日も暮れて18時頃。
それから夜ご飯を食べて、そのあとはボクは今日新しく買ったマイクの調整とセッティングにとりかかる。
ボイスチェンジャーが機能しなくなってしまったマイクは、捨てないで部屋に飾っておくことにした。
理由は幾つかあるけれど、一番の理由はやっぱりボクが配信をしたいと勇気を出して親に告げたとき、両親が「やりたいことをやってみなさい」と言って背中を押してくれ、その時に買ってくれたものだから。
だから、その理由でいけば決してこのマイクだけが思い出の品なのではなく、このボクの部屋にある配信機材のすべてが、両親がボクを応援してくれている証であり、それと同時にボクの勇気の証でもある。
捨てれるわけがないよね。
それに、最初はそんな大事にしているものを壊して使えなくしてしまったと思い落ち込んだけど、よく調べたら落としたことは些細なきっかけに過ぎなかった。
もう寿命だったのだ。このマイクも。つまりこのマイクは最後まで頑張って働き尽くしてくれたのだ。それだけで部屋に飾るに値する。
調整も終えて、明日喋る内容もノートにまとめて、お風呂に入って、あとは眠るだけの状態でベッドに寝転ぶ。
スマホでSNSの配信用のアカウントを開き、今朝の投稿の反応をもう一度確認してみる。あとはあまり好きではないけれどエゴサもしてみた。
やっぱりボクの素の声に対する反応はどれも良いものばかりで、批判やアンチコメなどは一切見つけられない。
こんな気持ち悪い声を聞いて、「かわいい」だなんて。
真に受けてしまいそうじゃん。
あとはフォロワー数が30万人に到達していたので、一応感謝も記したおやすみメッセージを投稿。
すぐに沢山のリプが来ることが今までは無かったから慣れないけれど、それだけボクを待ってる人が、気にしてくれる人がいるって考えれば自然と心も幸せな気分になった。
(さて、そろそろ寝よっかな)
スマホに充電器を差し込み、最後に溜まっていたDMを開いて見ようとした矢先。
その通知は来た。
それはボクが今しがた投稿した『おやすみメッセージ』に対するリプ。
ただのユーザーならば目を通し心の中だけの感謝で留めておくもの。しかし、そのコメントにはとてもじゃないけれど、そんな真似は出来ない。
『30万人おめでとーございます!ファブリーズ・ゼロキャノンさんの過去の配信アーカイブ見ました!実はこーんなに可愛い声の女の子が、私のこと推してるって言ってくださっていて、とても嬉しいです!もし宜しければ、近いうちに一緒に遊びに行きませんかー?なーんて!迷惑だったら無視していただいても構いません!!』
どんどんとこのコメントにもリプがついていく。
コメントの主は、なんとボクの最推しの声優さん。
名前は
ボクよりも四つ上の現役大学三年生の女性で、その透き通る美声をあてられたキャラの多くはアニメ好きなら誰しもが知ってるような人気アニメのメインヒロインや主人公ばかり。
今も少し昔も、売れに売れてる人気声優さんが、ボクなんかにリプを送ってきてくださったのだ。
ボクは呼吸も忘れて彼女のリプに返信した。
〇 〇 〇
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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明日の更新は23時頃になると思います。
更新間に合わなかったらごめんなさい!!
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