第47話「ドリアード」

「とりま、魔王軍に一勝……」


 やべぇ、力抜けるわ。メルのチートが切れたのか……。

 俺は空中落下し始める。このまま落下死するのか、と諦めかけたその時、フワッと誰かが両腕で支えてくれたのが分かった。

 そしてその人は俺を木陰に座らせる。


「服も体もボロボロ……」

「貴女は……?」


 その容姿に目を向けると、薄緑色の長い髪に、ビックリするくらいに美しいお顔。クールな雰囲気に、つるが体に渦巻いてる。


「私はドリアード。木の精霊って言ったらわかりやすいかな」

「は、はあ……、どうもありがとうございます」

「それと、そこの人達は貴方の仲間?」


 ドリアードの指差す方へ目線を持っていくと、そこにはフィリス、リノエ、イヴ、俺の仲間たちがすやすやと眠っていた。


「あ、はい……! 連れてきてくれたんですか?」

「身長の高いお嬢さん以外、森で寝てたから連れてきた」

「なら、フィリスはどうして寝ているので……?」

「眠らせた」

「……」


 いや、薬で小さくなった名探偵でもあるまいし……と思いつつも、元気に眠っていたので害は無さそうだ。感謝の方が大きいな。しかし……。


「なんだか、森がめちゃくちゃですね……」

「三割方、あんた達のせいだけどね」

「うっ……」


 確かに、爆発やら伐採なんてしてたっぽいからな……。まあ、リーダーとして、責任は取らなきゃだな。

 俺は膝と両手を地面に密着させ、頭を下げた。


「俺が責任を取るので、コイツらだけは見逃してください……!」

「なにそれ……やめて、気持ち悪い」


 あぁ、土下座なんて知らないか。ただの変態に映ったのかな。


「ま、元はと言えば、あのトレントの小僧が仕掛けなければ、あんた達も手を出すことはなかっただろうし、許してあげる」

「あ、ありがとうございます……」

「しっかし、どうしてあんなに可愛いかったトレントの少年が……一体どうしちゃったんだろ」

「あのトレントとお知り合いなんですか?」


 ドリアードは俯きながら俺の質問に答えた。


「まあ、ちょっとね。そだ、これを読んでみてよ。この本は、とある森で起きた何気ない話」


 ドリアードは一冊の絵本? を手渡してきた。


「……この本の裏に書いてある『リア』って?」

「私の名前。名持ちの精霊なのよ」


 確か、普通の魔物や精霊は名前なんて無いよな。名前持ちは相当実力がある証なのかもしれない。


「サインとかいる?」

「有名人なんすか」

「それが初出版」

「結構です」

「まあ、本の最後のページにサイン書いてあるから。よかったね」

「あっ……はい」


 なんか、よく分からないけど、精霊から本を貰いました。


「じゃ、森を元通りにして帰る」

「サラッと凄いこと言ってるな……」

「《ナトゥラレサ》」


 ドリアードのリアがそう呟くと、荒れた大地から草木は生い茂り、澄んだ空気が戻ってきた。

 気が付くと、そこにドリアードの姿は無く、幻でも見ていたかのような余韻に包まれた。


「おーい、大丈夫かー!」


 遠くから走ってくる兵士さんに手を振って、生存を知らせる。三人も背負って歩けないから助かった。あとの事は兵士さんに任せるとしよう。


 こうして、唐突に始まった異世界の第一幕が閉じるのであった。

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