第46話「ラストゲーム」
言うことは言った。他の敵はアイツらに任せて――
「――俺は目の前のコイツをどうにかしますか!」
元の姿の面影は無く、今や大樹の化け物と化している。まあ、やることに変わりはないが、魔物としての圧がすごいな……。
しかし、今の俺は最強チートモードだ。負ける気がしない!
「滅ボシテヤル……」
「ザ・魔物って感じだな。イケメン面よりよっぽどマシだぜ?」
シルヴァの太い枝のような手が、俺を潰そうとしてくる。それに合わせて俺も俊敏な動きで躱す。
次の瞬間、後ろから巨大な根がうじゃうじゃと生えてきて、俺を一点狙いしてくる。なんとかギリギリで躱しているが、体力が……尽きないんだよなぁ。チートなんだよなぁ。少しアレ、やってみるか……。
俺は可能性が低いと分かりつつも、自分を信じ、体内に魔力を循環させた。
「冴えろ、《全能》ッ‼」
俺は目を見開く。すると、景色が全体的に青色へ変わり、環境の動きが止まった。
『イツキ・チトセにギフトスキル《全能》が付与されました』
脳裏に文字が浮かぶ。そして、更にスキルを重ねる。
導いてくれ、《全知》……!
《全能》・脳に存在する情報から、次の起こることの予測、計算、最適解を検出し、瞬時に脳へ伝達する。また、脳の回転速度大幅上昇。
あぁ、脳の回転が速すぎて止まってる様に感じるのね……。どゆこと。
とりあえず、根の攻撃パターンを把握した。右、真ん中、右、左、左である。シルヴァは考える力を攻撃力に振ったのだろうか……。パターン性があるだなんて、非常にやりやすい。
俺は魔力の循環を止めて、《全能》を解除する。
「最初は左へ向かって、次に右へ向かえば……シャトルランかな」
簡単に躱せた。やはり、シルヴァの知能は下がっている。魔物らしいな。
今度は反撃するべく剣を抜き、攻撃系のスキルを使う。魔力も魔素もカンスト級。
「《トール・グラディウス》」
俺の剣は紫色の雷に覆われ、電流を纏っている。
リノエ曰く、属性魔法には適正というものが存在するらしい。その適正の高い属性ほど、与えるダメージは大きいという。俺の場合はそれが雷、そして――
「――氷だ。《スティーリア》ッ!」
「コロス……コロス……‼」
シルヴァの頭上に巨大な氷柱が落ちる。
リノエとの特訓で取得した、中級氷魔法の《スティーリア》。初級氷魔法の《グラキエス》より遥かに高い威力を誇る。
しかし、魔素を気にすることなく打てる状態だからこそだが、通常の俺なら魔素不足で一、二発が限界だろう。それにあんな巨大な氷柱なんて、魔力カンストでもしないと俺には不可能だろう。
そして雷適正が高かったのは以外だったが、それをずば抜けて越えていたのが氷であった。最初、スキル一覧からどれを獲得しようかと見ていた時、運命を感じた氷魔法。さすが俺、見極める能力は凄まじい。
しかし、自分を褒める時間を与えてくれる訳もなく、シルヴァの攻撃は激しさを増す一方で……。
「《シゼンノチカラ》ッッ……!」
シルヴァが魔力を高めると、辺りの……いや、この森の草木から緑が失われていく。恐らく、シルヴァが全て吸い取り、トレントとしての力を蓄えているのだろう。
そんな時に、西の方ではとてつもない衝撃が伝わるし、北の方からは爆発が起きていた……。遠目から、イヴが大鎌の様な武器で動き回っているのも見えた。……アイツら、暴れすぎだろ! 確かに好きに暴れろとは言ったけどさ……。
仲間達に気を取られていると、あっという間に辺りの緑を吸い摂ったシルヴァが立ち尽くしていた。また一段と大きくなり、樹木と人型を合わせた様な形に変化した。ゴーレムみたいな見た目で、全身が黒い。
「最終形態か……?」
「サレ……モリカラサレ……!」
殴りと蹴りを繰り返し、次第に地面から尖った根を何本も生やす。それを躱しても、今度は長く伸びた根が上から攻撃してくる。
「ラストゲーム、行くぞっ!」
俺は何度も《全能》を使って回避していく。そして、シルヴァの目の前まで辿り着いた。
しかし、上を見上げれば木でできた巨大な拳。それを雷剣で受ける。
「モリヲオカスモノ……ハイジョッ‼」
「っぶねぇな! ……けど、こいつはどうだ?」
俺はシルヴァの拳を振り解き、雷を纏った剣をクロスさせる様に振って、雷の斬撃を飛ばした。もちろん、攻撃力と魔力がカンスト状態なので、その威力も精度も速度も通常の物とは段違いに高い。
たが、シルヴァも手を使って斬撃に対抗する。しかし、俺の力には及ばず、シルヴァの腕は斬れた。
「けど、再生するんだよな。植物だから、成長を速めれば可能って訳だ。何か弱点は……《全能》」
ギフトスキルは魔素消費が激しい。俺みたいに使用量が多いのは尚更激しいだろう。まあ、今回はメルの力で例外だが。
うーん……ダメだ、情報が足りねぇ。こうなったら、《全知》。
《成長》・シルヴァのギフトスキル。体内に自然のエネルギーがある時、自動的に再生を開始する。再生中は体を動かすことができない。
魔物にもギフトスキルがあるのか。確かに動いてないな。……となれば、普通に考えて攻撃チャンスはそこか。
俺は自身を循環する魔力を解き、手に力を込めた。
初級魔法と中級魔法は威力こそ違うが、用途に寄っては初級魔法の方が使い勝手が良かったりする。氷魔法なんか、範囲攻撃をしたい時に初級魔法の方が使い勝手最高だしな。
そして、それにオリジナルを加えると……。
「《チト・グラキエス》……なんつってな」
相手が植物だから使ってなかったが、初級水魔法の《アクア》を取得している。そして、氷魔法の《グラキエス》に適度な水魔法を加えることで、触れた敵の体は凍結する。更に、巨体だろうと今の俺の魔力なら抑えきれる。
俺はシルヴァの斬れた腕に当てた。そのまま氷は広がっていく。
どうして斬れた腕に当てるかって? それは――
「――身体の再生を防ぎ続ければ、相手は一生動けない」
そして俺は、この一撃に賭けた。全身凍ったシルヴァに衝撃を与えてしまえば、氷も破れて再生し、元通りになってしまうからな。
俺は地面を踏み、高く飛んだ。氷は水と同じで、雷の精度と速度を高める。
そして、構えた雷剣はシルヴァの肩から斜めに真っ二つ。
雷は張り付いた氷を流れ、外と内の両方からダメージを与えている。相変わらず自分の攻撃とは思えないチートっぷり。
「……じゃあな」
その巨体は塵となり、破裂する様に儚く飛び散った。
オーブと化した経験値だけが俺の身体へ入る。
そして辺りの黒雲は、信じられないくらいの快晴になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます