第45話「リミットリリース2」
side――イヴ
『全責任は俺が引き受けるから、お前ら……好きに暴れろぉぉぉぉっ‼』
イツキの言葉を聞き終えたボクは、専用武器の『モルス・マキナ』を片手に、未だやったことのない技を試そうとしていた。
現在の武器の形は、この武器の最強形態にしてボクの最も得意とする、大鎌だ。
刃の先は極端に曲がり、それを外側から黒色の装置が覆っている。
「もうとっくに、好きに暴れてるよ……!」
ボクは持ち前の素早さで、ゴブリンの身体を大鎌で切り裂こうとする。
「甘いッ!」
ゴブリンは左腕を犠牲にし、右腕で殴りかかった。
「くっ……」
拳は腹に当たり、少し吹き飛ばされたが、大鎌の刃を地面に突き刺し、なんとか持ちこたえる。
しかし一息もつかせてくれないまま、空中からオークがギザギザの大剣で斬りかかろうとしてくる。それをギリギリで大鎌を振り回していなした。
「あの勢い、まともに当たってたら、斬られてたよ……うわっ!」
今度は空中から斧が回転しながら、カーブでボクの首元を狙ってきた。気付くのが僅かにも遅かったら、確実に首チョンパだった……。これもあのオークの仕業か。
「ここからは、ボクのターンだ! 《異空間》」
ボクはゲートを創りだし、その中へと入った。いや正確には、ゲートを利用して移動したと言うべきかな。
ボクの異空間への出入口……要するにゲートは、現実空間と異空間を繋ぐ扉になっている。ゲートを出現させた時には、閉ざされた異空間内にも現実空間と繋ぐゲートが出てくる。そのゲートをボクは、二つ出現させることが可能だ。
つまりは、ゲートを二つ出現させて、その二つのゲートの両方から同時に物を出し入れすることができるというわけ。
ただし、生き物を入れるのは計り知れない程の膨大な魔素が必要となる。
そこで考えたのが、異空間側の二つの出入口を重ねれば、空間を通して移動が可能という説。
要約すると、現実空間にゲートを二つ出現させる。場所は自分の居る場所と移動したい場所。そして『異空間側』のゲートには、自分の居る場所と通じてるゲートと、移動したい場所に通じてるゲートを重ねる。
そうすることで、異空間内に入ることなく、異空間を通して移動する事が可能という意味。
とりあえず、物は試しということで、二つゲートを出現させた。一つはボクの隣、もう一つは敵から少し遠い場所。
「じゃあね~」
ボクはゲートへ入って行った。入ったが……すぐに現実空間の空間に戻った。場所は……。
「何処へ消えた⁉」
「先程までここに居たはずだ」
「おっ! 成功だ」
「「――ッ⁉」」
なんと、指定したゲートへ一瞬で移動してしまった。この能力についての理解がまたひとつ増えたね! 敵さんも驚いている。
ボクは再びゲートを出現させ、ゲートを通って瞬時に移動する。今度はゴブリンの目の前だ。
「どうなってんだ……」
ボクは大鎌を振りかざし、今度こそゴブリンの首を狙った。しかし、オークが身を挺して守る。仲良しじゃん。
「幼い頃から、お前というヤツは……」
「お互い様だろう」
「幼馴染ね……どうでもいいけど」
そうこうしてるうちに、再び異空間移動をする。今度はあの辺かな……。
「よっと!」
「そこか……」
「うあっ……!」
ボクの移動した先を攻撃されてしまった。まだ速さが足りない……! ゲートを出すだけでも、それなりに魔素が減っていくのに……。
一旦、少し離れた場所へ移動する。まあ、視界に入るから、すぐに追われそうだけど。
「何処へ逃げようと無駄じゃ!」
ボクは敵の事をお構い無しに大鎌を振り回す。だいぶ身体も温まってきた。
「さあ、いっくよー!」
「飛んだ……⁉」
ボクは勢い良く大鎌の刃の先端を地面に突き刺し、持ち手を前へ押しながらジャンプして、大鎌を地面に押し出す様に力を込めて、飛んだ。大鎌だから、刃が円形になっていて、遠心力を使えば少し飛ぶくらいなんてことはない。それに、この大鎌モードには、衝撃を弾くという性能が付いているのだ!
そして、空中でクルクルと円を描く様に大鎌を振り回しながら、オークに向かって刃を向ける。
「その武器も粉々に砕いてやろう‼」
オークは大剣を構えて、物凄い魔力を込める。けど残念、そろそろ鐘の鳴る時間だ。
ボクは瞬時に《異空間》を通してオークの背後に立ち、黒い炎を纏わせるスキルを使い、斬り裂く。
「……《アートルム・フランマ》」
「――ッ⁉ 後ろ……か……」
オークの身体を斜めに斬り、オークは灰となった。経験値が体内に吸収されていく。
そろそろ魔素が切れそうだから、《異空間》は使わずに、黒炎を纏った状態で戦うのが賢いと思う。ただ、速度強化スキルくらいは使えそうかな……!
「けど、まだ終わりじゃない! 《アクセラレーション》」
ボクは速度強化スキルを使用し、更に素早くに動く。そして、あっという間にゴブリンの元へ近付き、黒炎を纏う大鎌で円を描く様に振り回した。
「これで終わりっ!」
「ハッ。これじゃ、どっちが魔物かわからねぇなァ……」
「……」
肉体が散っていくゴブリン。奴の最後の言葉に深く考えてしまう。
魔力を解き、武器の形が元通りの棒になっていく。それを確認したボクは、《異空間》へ戻した。
もう魔素の限界かもしれない……。
「はぁ……おわった~」
そして、ゆっくりと草むらに寝転がった。
◆◇◆◇
side――リノエ
『全責任は俺が引き受けるから、お前ら……好きに暴れろぉぉぉぉっ‼』
全く、何を言い出すかと思えば……。
わたくしはイツキくんのお願いに応え、パーティのみんなに聴こえる様、わたくしの影を動かしたけど……。これほど高度なことをサラッと命令してくるだなんて、思いもしなかったわ……。どこからそんな発想が生まれるのかしら。
けど、責任を取ってくれるというのなら、少々暴れても問題無いわよね。久しぶりに大魔法をブッパなしたいところだったのよ……!
あのストラーとかいうトレント、拘束されたわたくしの『分身』の足を舐めていて、非常に不愉快だから一撃食らわせてあげるわ。
魔法には、大きく分けて二種類存在する。火や水などの属性魔法。回復や分身などの特殊魔法。
しかし、今から使うのは炎属性魔法の派生系。魔力も魔素かなり使うけど、暴れていいなら問題は無いわよね。
「《サクリフィーシオ――エクスプロシオン》」
遠隔で分身体に爆発系の自爆魔法を放たせる。
その威力は半径百メートル程の範囲で、爆発後も放った範囲が炎で包まれている。辺りのトレントも吹き飛ばしてしまったかしら?
まあ、こんなものでは済ませないけど。
「《ドッペル》」
わたくしは更に分身体を三体創った。
「はぁ……はぁ…………おや、こんな所に……四人も⁉」
「生きてたのね」
爆発に巻き込まれたはずのストラーとかいうトレントが、わたくしの目の前にボロボロの姿で現れる。しつこいやつ……。
「リノエさん、無事でしたか……? さぁ、怖かったでしょう。私のところへ……」
「……《エスクード》」
近接戦は得意でないけれど、念のために取得しておいた盾の魔法を身に纏い、分身体に指示をする。
「どうしてそんなスキルを使用するのですか、一緒に居た方が幸せに……」
「……《エクスプロシオン》」
三体の分身は全て同時に爆発した。わたくしは盾の魔法に守られているため、傍で爆発しようと無傷。
そして、しばらくすると煙の中から倒れるトレントの姿が現れた。もう意識は無いみたいね。
「貴方、調子に乗りすぎよ。《グラキエス》」
わたくしは冷気の混ざった氷の粒を勢いよくストラーに当て、完全に討伐した。
ストラーは無惨にも動くことはなく、ただ散りゆくのみ。
「魔素を使いすぎたわ……。魔素制限の呪い、厄介ね……」
爆発魔法は使用する魔素が多く、先程からあらゆる魔法を使い続けてきたわたくしにとっては、既に魔素の限界がきていた。
早くイツキくんを探して合流したいのに、気付いたら魔素切れで影に忍ばせていた分身が消えていただなんて……。これでは、居場所も分からないし、何よりわたくしは魔素が無いと動けないの……。
ボーッとする意識の中、なんとか持ちこたえようと頑張ったけれど――
――やはり、襲いかかる睡魔には敵わなかった。
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