第44話「リミットリリース」

 この世界の針は動き出した。


「よいしょ」

「速い……それに、魔力の動きが妙だな……」


 拳の軌道を先読みして、シルヴァの攻撃を躱す。

 足で軽く地を蹴ったのに、こんなに軽々と躱せるとは……。これがメルの――神の能力、身体能力カンストか。これだよ、これこそがチートだ……!


「この一瞬で一体何が起きたというんだ……?」

「さぁ、決着編といこうぜ」

「あぁ、久々に本気を出したくなった!」


 シルヴァは今まで見せたことの無いくらい感情的になり、身体が見る見るうちに大きくなっていく。

 四メートルくらいだろうか、身体が人型から木の姿へと近付いた。いや、この場合は元の姿へ戻ったというべきか? 頭も根で覆われて、元の顔とは全く異なる、魔物という魔物の悪い顔になっていた。赤い目は細長く、口元は裂けているのかってくらいに開いている。


 おっと、見入ってる場合じゃなかった。仲間達にリーダーとしての責務を果たさなきゃ。言ってなかったことが一つあったからな。今を逃したら、シルヴァに狙われてそれどころじゃなくなるだろうし。


「リノエ、聴いてるか?」

『どうしたのかしら、何かお困り事? リーダーさん』

「何度も悪いが、みんなに伝言頼めるか?」

『わたくし、なんでも出来る訳ではないのだけれど。便利屋みたいに扱わないで欲しいわ』


 すごく嫌そうな言葉。けど、笑ってるのかな、その言葉以上に楽しそうな声だ。


「本当に申し訳ない、だが緊急だ。どうしても言わなきゃならないことがある……無理か?」

「はぁ……、可能よ。今、音を繋いだわ。そのまま話してもらえれば、みんなに聴こえるはずよ。時間はわたくしの魔素が一定値を切るまでだから、なるべく短く話して頂戴』

「さすがだ。じゃあ……」


 俺は最強にして最高の仲間達に一言告げた。


『全責任は俺が引き受けるから、お前ら……好きに暴れろぉぉぉぉっ‼』


      ◆◇◆◇


 side――フィリス



『全責任は俺が引き受けるから、お前ら……好きに暴れろぉぉぉぉっ‼』


 地面からイツキの声が聴こえた。

 どうやったのかは分からないが、紛れもなくイツキの声だ。その言葉に、私の力のリミッターが外れる。


「その言葉を待っていたぞ、イツキ……!」

「な、なんや……この高まり続けるオーラは!」

「こんなものじゃない……《龍華》」


 私のギフトスキル《龍華》は、身体に龍そのものの力を宿すというもの。

 龍の如く、長いツノと尻尾が生え、爪は尖り、雲を纏う。


「こ、コイツァ、龍ってヤツやろ……」

「行くぞ」

「し、しかし、触れればお嬢さん……いや、アンタにも雷がビリビリやで!」


 怖いものなど何も無い。私の出せる全てを込めた。

 高く飛び、雲を蹴り、天から覇龍を越えた力を放つ。

 

「奥義――《紫龍の夢見草》ッ!!」


 師匠、昔に言ってくれた事の意味、今ではしっかり理解できてるぞ。この教えと師匠の技は忘れない。

 帰ったら、イツキ達との冒険譚を聞かせてやるから、もう少し待っててくれ。


「ちょっ……大きすぎやろぉぉっ‼ シールド! シールドォッ!」


 魚人は鱗でシールドを展開する。

 しかし、私の巨大な斬撃はスっと静かにシールドを貫通し、魚人を突き刺す。鱗は辺りに散乱し、本体からは血が飛び出す。


「散れ」


 その一撃を食らった魚人は塵となり、経験値がオーブとして私の所へ吸収されていく。なんだか、こいつの経験値は寒気がするな……。しかし、やることはやったぞ。

 私は剣を地面に刺した。


「これが私の龍派だ」


 そして、《龍華》の効果は切れ、ツノや尻尾も消えた。それと同時にぐっと力が抜け、地面に座り込む。

 気が付けば、辺りの木々が斬れて倒れていた。地面も荒れ、地形がめちゃくちゃだ。確か、この辺りはトレントじゃなかった気が……。

 まあ、イツキが責任を取るって言ってたし、大丈夫か!


 師匠、やはり仲間はいいものだな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る