第42話「死闘」

 side――リノエ



「どうです? 私の能力は!」

「気持ち悪い……」


 可哀想なことに、わたくしは目の前にいる緑髪の変態に拘束されていた。

 この男はトレントとしての能力に長け、下級トレントを操る事を得意としているみたい。そのため、瞬く間にイツキくんとはぐれ、トレントに囲まれた挙句、樹木に拘束されて、このザマ。

 ――というのは表向きの出来事。


 厳密に言うと、わたくしは《ミエド》という威圧魔法を使い、敵が怯んでいる間に分身体と入れ替わった。あぁ、その前に仲間達の影に分身を忍ばせていたことを忘れていたわ。

 実は魔王軍の魔物と遭遇した時に、こっそりと仲間達の影にわたくしの分身を送り込んでいた。

 つまりは、分身体を四体生成して、現在は木陰でわたくしの分身体があのトレントにやられてるザマを見ているという訳。分身体でも中々に屈辱的ね……。


「は、ははは……! これからは私の物ですよ、リノエさん! はぁはぁっ……」

「気持ち悪いって言ってるでしょう⁉」


 それらしい言葉を遠隔操作で送る。しかし、彼が話しているのはわたくしの分身体であることに違いない。

 ちなみに、他の分身体は仲間達の影に潜み、遠く離れているため、音のやり取りをすることくらいしかできない。

 もちろん飛び出して攻撃することも可能だけれど、必要以上に魔素を消費してしまうから、緊急事態でない限りはやらない。


「失礼しますよ!」

「やめっ、きもちわるい……!」


 緑の変態トレントがわたくしの分身体に触れ、舌で舐め始めた。早く燃えて塵になればいいのに。

 すると、イツキくんからわたくしを呼びかける声が聞こえた。あれ、わたくし、イツキくんに分身体の事は言ってないはずだけれど……。全く、頼りない人。

 まあ、あの緑トレントよりは紳士と呼べるけれどね。


『どうしたのかしら、何かお困り事? リーダーさん』


 さてと、先程わたくしのために、目の前の敵を放ったらかしてまで助けてくれた恩を返すとしましょうかね。

 

      ◆◇◆◇


 side――イツキ



「やはりこの程度か」

「ぐっ、はぁはぁ……」


 シルヴァとの戦いは、土から無数の根が生えてきた後、体中のあらゆる箇所を突き刺され、俺は呆気なく倒れてしまった。

 リノエもストラーとかいう奴と一緒に消えたし……また同じパターンだ。


 考えろ、俺。考えろ、イツキ……! 考えなきゃ死ぬぞ。


 そんな時、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。


「キミの仲間達がどうしてキミを庇うのか理解ができない。いや、俺を恐れてキミを囮にしたのかも知れないな……」

「そんなこと……するはずないだろ……。俺の仲間は……みんな自分勝手で、恐れを知らなくて、リーダーの指示もまともに聞けないヤツらだが……、最高に良いヤツらなんだよ……ッ‼」

「なら、お前の存在は邪魔だろうな……」

「あぁ、そうかもしれねぇ。だから、ここでお前を倒して、少しでも役に立ったって、足でまといじゃないって証明する……!」


 俺は立ち上がり、使えるか分からないけど、とりあえず念じてみた。……が、 


「おい、戦うことを諦めたのか?」

「ぐあっ……!」


 やはりダメだった。

 あの時、ヒソウと戦った時に起きた現象を使用しようとしたが、そんなに簡単なものではなかった様だ。

 そして巨大な根に叩かれる。しかし、すぐに体勢を立て直す。そして遠距離戦に特化した初級雷属性魔法の《トニトルス》を放つ。


「遅い……、キミの負けだ」

「……」


 シルヴァは元居た位置から姿を消し、一瞬にして座り込む俺の目の前に現れた。あ、今度こそ、死んだな……。

 ごめん、みんな……! 不甲斐ないッ!!


「俺は最後の言葉を聞いてやるほど、優しくはないんだ」


 シルヴァの振りかざす腕が俺の頭部に触れそうだ……。その手には魔力込められ、紫色の何かが渦巻く。やばいヤツには違いないだろう。

 あぁ、来世という概念が存在するならば、次はもっと温厚な生活を送らせて欲しい。まあ、ココ最近の生活も悪くなかったか……。


『もう諦めたんですか?』


 俺の意識がぼんやりとしてきたその時、脳裏に聴き馴染みのある声が聴こえた。

 意識をハッキリと戻すと、そこは見渡す限りの星空。微かに覚えがある。


「ここは異世界へ来る前に――」

『――私と出会った場所です』

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