第41話「モルス・マキナ」

 side――イヴ



「へへっ、この程度なの?」

「舐めおって、このガキィ……」

「ゴブザ、落ち着け」


 ボクは今、二体の魔物を相手している。どちらもオークとゴブリンの上位種みたいだ。他の魔物と比べて一回り……いや、二回りくらい強い。でも、ボクの槍の方がまだ強いみたいだ。

 恐らく、あのシルヴァとかいう魔物から魔力を分け与えられているんだと思う。何者なんだろう……。


「ボーッとして、余裕だなァ!」

「うわっ!」


 ゴブリンにバットで背中を叩かれ、そのまま地面へと倒れる。しまった、油断した。


「ガキが舐めたことを……」

「うぐっ……」


 倒れたボクの体をオークが踏みつける。


「痛い、うぐっ……」

「甘いな、我は殺すつもりだ」


 やばい、このままだと本当にしんじゃう……。とりあえず、抵抗しなきゃ。

 ボクは《異空間》で槍を取り出し、オークの足に突き刺した。ビクともしないけど……。

 

「その妙な能力、何をされるか分からないな。ゴブザ、構えろ」

「なんだ? オグロ。今更コイツに何もできねぇだろ。ほら、立ち上がってもすぐにふらついてやがる」

「ここからは本気でいくから、覚悟してね!」


 ボクは槍を《異空間》へ戻し、本命の武器を取り出した。

 ボクには、おねえの様な絶対的安心感も、フィリスの様な力も、リノエの様な魔法も、イツキの様な適応力も無い。だけど、器用さなら誰にも負けない……!


 どんな武器でも何回か使用した頃には完璧に扱える様になっていた。それどころか、そこら辺の武器使いには負けない実力だと思う。

 これは、そんなボクにしか扱えない武器。知り合いに頼んで、オーダーメイドしてもらった、ボクにしか扱えない仕掛けだらけの最強武器、その名は――


「――『モルス・マキナ』」

「んあ? ただの棒か……」

「油断はするな」


 一見すると、ただの棒に黒色の細長い装置が両端にそれぞれ一つずつ着いてるくらいの物。しかし、この武器は魔力の込め方で変形する優れ物。

 

「《デフォルメーション》」


 ボクが魔力を込めると、両端の装置がガチャガチャッと動き、あっという間に両剣へ変形していた。どちらの先端も鋭い刃になっており、不思議と重量も変わっていない。

 ただ、使用中は魔素を吸われ続けるから、長期戦は厳しい。変形にも相当魔素を使うし……。

 さっさと片付けよっと。

 

「お、かっこいい武器だな、オレにくれよ」

「強そうだな、我が頂こう」

「残念、この武器はボクにしか扱えないよ……!」


 ボクは両剣を振り回し、オークとゴブリンに攻撃を与える。

 しかし、二体もそれぞれの武器で抵抗している。このままじゃ、魔素が切れて負けちゃう……。


「まったりしてる余裕もないなァ!」

「なんて武器だ……」

「へへ、怖気付いた?」

「まだまだァッ!」

「うあっ……‼」

 

 ゴブリンがボクの刃を躱し、お腹に打撃を与える。その勢いで近くの木まで吹き飛ばされた。なんて力強さ……。


「はぁ、はぁ……《デフォルメーション》」


 再び武器は動き出し、今度は大きなショットガン銃の姿へと変形した。一つの装置は持ち手の所まで伸び、もう一つは銃口になっている。かっこいい!

 ボクは銃口をゴブリンの胸を狙って放った。


「ぐあっ、危ないのぉ……」


 ゴブリンはギリギリで体を反らせるが、間に合わずに肩に当たった。その弾は魔物の動きを鈍らせる力を持っている。そして、オークの方はさっきの槍が効いたのか、足を抑えている。二体の体内にこの弾が入れば勝率は跳ね上がると思う。

 今がチャンス、この一撃に集中力を込める……!


「くらえっ!」


 ボクはオークに向かってトリガーを引いた。その瞬間、ゴブリンがオークを庇う様に自ら当たりに行く。

 

「オ、オグロ、しっかり……しっかりしろっ‼」

「――ッ! 悪い……!」

「この身が世界から消えようと、あのガキだけは潰すぞ!」

「シルヴァ様のために、この身が尽きても力を振るおう!」


 ゴブリンとオークの気迫は、今までとは比にならないくらいに湧き出ていた。これ、上位種とかいうレベルじゃない……。

 ボクは冷や汗を拭く。そして、魔素をできる限り使い、最後の大勝負に出た。


「《デフォルメーション・ファイナル》ッ‼」

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