第40話「守るための力」

 side――フィリス



 ――ここは、スイヒの森の……どこか。

 

「待て言うとるやろ!」

「こっちにくりゅなぁぁ!」


 私――フィリスは今、二つの問題を抱えている。

 一つは、私が最も苦手とする二大要素を含んだ、魚と霊の混合生物に追われている。非常に気色の悪いモンスターだ。早くどこかへ行ってくれたら助かるのだが……。

 もう一つの問題は、遠くに逃げすぎてイツキ達が居る場所が分からなくなってしまった事だ。一体どうしたものか……。


「ワイは闘いが大好きなんや!」

「それは私も同感だが、なんかお前とは闘いたくない!」

「えぇぇっ⁉ ひどっ!」


 酷いのはお前の見た目だと教えてやりたい。


「そこまで言うなら……落雷をお見舞いしたるわ! これでもくらえっ!」

「くっ、これじゃ、前に進めない……」


 無数の落雷が私の行く手を阻んだ。そして、足を止めた途端、魚の幽霊が私に語りかけてきた。


「……やっと止まったな。お嬢さん、逃げてばっかいないで相手してや」

「――ッ⁉ どこだ! 隠れてないで出て来い!」

「ワイは……ずっと下におるで!」

「ひっ……!」


 地面から魚が急に飛び出してきた。これだから、霊とか苦手なんだ……。


「ワイはフィレ。さぁ、勝負開始や! 《プラズム・フィッシュ》」


 霊体魚はフィレと名乗った。そして身体を発電し、バチバチと雷を循環させていく。

 もう引くに引けない、か……。なんだか私らしくないな。今、私にするべきことを考えろ、フィリス。何のために力を欲し、何のために戦うのか。

 そんな考えが昔の記憶を引き寄せる。



 ――十数年前の事、フィリスという名の少女は、人の姿をした龍の師匠と暮らしていた。

 その龍の名前はリューカ、訳あってフィリスの親代わりである。


「なぁ、師匠はどうしてそんなに強いんだ?」


 紫髪の少女は何気なくそんな質問をした。

 それを聞いた赤髪の女性は、逆にフィリスへ質問をする。


「フィリス、生き物はどうして争いを起こすと思う?」

「うーん……、強さを見せつけたいから!」

「ははっ、可愛らしい答えだね。だけど不正解」

「うぅ……」


 フィリスはしょんぼりと落ち込む。リューカは微笑みながらその頭を撫でた。


「じゃあ、正解は……?」

「うーん、そうだね……。フィリスが色んな人と出会って、親しくなったら自ずと解ってくると思うよ」

「気になるぞ!」


 フィリスは目を輝かせながらリューカに訊く。その真剣さに、リューカは思わず笑みを零した。

 

「ははっ、好奇心旺盛なのはいいことだよ、是非いっぱい考えてみるんだ。……本質という物はすぐに忘れてしまいがちだけど、フィリスならすぐに思い出せるさ」

「うーん……わかったぞ! いっぱい力を身に付ければいいんだな!」

「あれー、全然伝わってない~。ま、いっか。じゃあ今日も修行を始めよう」

「よろしく頼むぞ!」



 ――あの日の問、今なら答えられる。


「あぁ、そうだ。師匠の背中はいつだってその答えを教えてくれていた……」


 生き物は何かを『守る』ために力を使って戦い、守りたいと思う気持ちは『力』に変わる。

 争いとは、何かを守る上で成立し、師匠の強さは私を守るためのものだった。

 そして、今の私には守るべきものがある。暴れてばかりの私を受け入れてくれた仲間のためなら、魚だろうと幽霊だろうと、敵じゃない!


 私は決意と共に剣を抜く。迷いも不安も無い。多少気持ち悪い敵だけど問題無い。仲間のために私は戦う。

 これこそ、俗に言う――


「――攻撃は最大の防御!」

「そのままワイに当たれば、お嬢さんの体がビリビリ痺れてまうで?」

「その程度で怯む私じゃないぞ、《覇龍の怒り》ッ‼」

 

 最高の一撃を食らわせた。放った辺りの木々は風圧で倒れ、土は荒れる。そして敵は吹き飛んだ。

 多少の痺れを負ったものの、大したほどでは無い。


「これが私の流派だ」


 私は決めゼリフと共に、剣を鞘に収めようとした。その瞬間、吹き飛ばした方向から何者かが訪れる。


「不思議な技やなぁ……」


 そこから出てきたのは、先程の魚ではなく、人の形をした……魚人? であった。いや、もしかすると……。


「さっきの魚の親玉か!」

「本人や!」

「嘘をつくな!」

「ホンマや!」


 なんと、さっきの魚のモンスターが一時にしてムキムキの魚人へと生まれ変わっていた。てっきり仕返しに来た親玉かと思ったぞ。

 しかし人間寄りの姿だと、少しやりやすくなった……かもしれない。


「ワイにも来たんや、魔物としての覚醒が!」

「あの攻撃を耐えるとは、中々にやるな」

「……一度は人間に蹴られ、土に埋められて死んだ。しかし、僅かなワイの魔力を察知し、魔力を与えてくれたシルヴァさんに報いるため……この身が刺身になろうとワイは戦う!」

「私にだって守りたい仲間がいる。この戦いに終わりを着けよう」


 師匠に教わった力、仲間を守りたい気持ち、その二つを胸に、私は再び剣を構えた。

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