第37話「レベル」
「今回はスイヒの森だったな。俺の初クエストの場所だ」
「私とイツキが初めて一緒に戦った所だぞ」
「懐かしいなぁ……。そんな時間経ってないけど」
「あれから私も強くなったんだ」
「伸びしろすごいな。どこまで強くなる気だよ」
「強さに限界はないぞ」
フィリスは腕を九十度に曲げて、力いっぱいのドヤ顔を見せた。なんか生物として可愛い。
そういえば、みんなの冒険者カードってどんな感じなんだろう。聞いてみるか。
「フィリスの冒険者カードってどんな感じなんだ……?」
「おぉ、見るか! 少し待っていてくれ……これだ」
「ありがと」
フィリスは、甲冑の中から冒険者カードを取り出した。どうなってるのその甲冑。それを受け取った俺は冒険者カードを眺める。
確かレベルは、成功させたクエストの数と難易度、倒した敵によって経験値が増えて、レベルという形で表示されるんだったよな。
フィリスのレベルが……80⁉
俺は苦笑いしながら冒険者カードをフィリスに返した。
お次はイヴの冒険者カードを……。
「イヴはどんな感じなんだ?」
「んー、ボクはまだまだだよ~。どーぞ」
「さんきゅ」
相変わらずゲートから取り出すのな。さてさて、イヴは……。
「俺よりレベルが高い、だと……?」
勇者パーティの付き添いであるイヴのレベルは、31だった。姫プかよ。
「なんでこんな高いんだよ」
「経験値は、冒険者カードじゃなくて、本人の体に吸収されるからね。見習いでも、勇者のパーティに居たらそのくらいは……」
「り、リノエは……!」
「非公開よ」
本当にいつから起きてたんだってくらい自然に会話してくるリノエは、つまらなさそうな顔でそっぽを向いた。
俺が最弱な気がしてムスッとしたところで、森の入口へ着いた。ムスッ。
すると、そこには兵士さんが二人で森の入口を警備していた。
「冒険者ですか? 依頼書が無い限り、森への立ち入りは禁止しています。依頼書をお持ちでしょうか?」
「はーい、これ」
「……はい、確認しました。お気を付けて」
イヴは兵士さんに依頼書を見せると、兵士は敬礼をして見送ってくれた。いつもお疲れ様です。
そういえば、トレント注意報かなんかで森への警備が厳重になっていたな。アイツ、まだ生きてるのかな。この辺には居ないでほし……もしかしてこれ、フラグじゃないよね。違うよね⁉
俺はソワソワしながら、トラブルに合わないことをひたすらに祈った。
◆◇◆◇
「ぼーけん、ぼーけん!」
「お散歩みたいに言うなよ」
俺たちは紅理の実を探しながら、先頭でイヴが鼻歌を歌っている。珍しくリノエも歩きながら探している。
「リノエ、今日はやる気だな」
「いつもやる気なのだけれど。力を蓄えているの、イツキくんには解らないのかしら」
「俺には戦闘中だって、仕方なくやらされている様にしか見えなかった」
「そういえば、顔だけではなくて、目も腐っていたわね。ごめんなさい」
リノエに話しかければ、お得意の煽りが始まった。だが知っている、『イツキくん』と呼んでいる時は、機嫌が良い事を。なんだか可愛く思えてきたので黙っておく。
すると、今まで大人しかったフィリスが考え込んだ顔で口を開いた。
「なぁみんな、さっきから風景が変わっていない様に感じないか?」
「言われてみれば……」
何度も同じ木が並んでるような……いやいや、森だし。
そこでイヴが提案をする。
「じゃあさ、こっちに曲がってみようよ!」
「そうだな、行ってみよう」
俺たちはイヴを先頭に右へ曲がった。
その数分後……。
「あれ、ここって……」
「どうやら、どのルートを進もうと、わたくしたちは同じ所を何度も行き来しているみたいね」
「おい、これってイツキ……」
「あぁ、トレントだ」
最悪だ。まさかのフラグ回収。次第に、俺の足は震えだす。だが、リノエは冷静で、何か策があるみたいだ。
「安心しなさい、道は切り拓くものよ」
「おいまさか……! 木に害を与えたら環境破壊……いや待てよ」
「果たして、害があるのはどちらかしら?」
気付けば、リノエの顔には笑みが浮かんでいた。おそらく魔法で一直線に道を作るのだろう。本来は環境破壊でギルドから処罰対象だが、コイツらは木じゃなくて木に似た魔物……! つまり、そういうことなのだ。フィリスとイヴはピンと来ていないみたいだが……。
「道を開けなさい! 《イグニス・ウェルテクス》ッ」
リノエが魔法を唱えた瞬間、放った手から炎の渦が一直線に勢い良く進む。おや、トレントたちも危機感を感じたのか、木に紛れるのを止めて逃げ出しているではないか。
俺たちは焦げて倒れたトレントを無視して、渦の方向へ歩みを進める。なんだか雲行きも怪しくなってきた。さっきまであんなに晴れてたのに。
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