晦冥の森編
第36話「復活」
「今日から活動再開だ。色々と迷惑をかけたな……」
「きにひゅうあ、いひゅひ!」
「わたくしは……てんひゃいなんだからぁ……すぅ……」
「イツキ、このクエストやろう! ていうか、もう受けてきた!」
「お前ら、真面目にやる気ないだろ」
安眠ポーションのおかげで最近調子が良い俺は、久しぶりのクエストに気合いを入れていたが……。
集合の時間に紫の女騎士はご飯食べてるし、爆睡魔法使いは絶賛おねんね中、自由奔放なロリっ娘……あれ男だったか、は勝手にクエストを受注している。あぁ、思い出した。
「このパーティ、パーティとして終わってるんだった……」
すると、他のテーブルから誰かが近寄ってきた。
「よ、イツキ! あんま、無理すんなよ」
「最近、ギルドに来てなかったから、戻ってきてくれてよかったでやんすよ」
誰かと思えば……誰だ。少しガタイのいい奴とひょろっとした奴が二人でこちらに駆け寄って来たが。いや、顔は見たことあるくらいの名も知らぬ冒険者とでも言おうか。
元々勇者パーティとの一戦の後、実は少しギルド内で有名になった。……が、その後に俺は、例のトレントの一件でギルドのみんなから可哀想な目で見られる様になった。いや、新人を心配する気持ちはわかるけど、情が厚くないか。
「だ、大丈夫だけど……」
「あんま思い詰めんなよ! やっぱ相手が強すぎたんだ、イツキはまだまだ伸びる。ここに居る冒険者全員が頷くさ」
「そうでやんすよ、みんなイツキの味方でやんす」
二人組がそう言うと、ギルド内の冒険者全員がコクリと頷いた。
「まあ、冒険者ってのはファミリーみたいなもんだからなァ! はっはっはっ!」
「今のは少し気持ち悪いでやんすけど、確かにここのギルドはみんな信頼し合ってるでやんす」
「あ、ありがとう」
なんだか、悪い気はしなかった。冒険者の人達はとても暖かくて平和だな。……毎日昼から飲んだくれてるくらいに。
去って行く二人に手を振った。すると、隣から元気な声が聞こえる。
「すまない、この肉のおかわりをお願いしたい!」
「お前はもう食わなくていいから‼」
「イツキ……」
「子犬みたいに可愛い瞳で見つめても、ダメなものはダメだから!」
しゅんと視線を落とすフィリスを横目に、イヴの持ってきたクエスト内容を読む。なになに……。
「紅理の実の収穫? なんだ、それは」
「森の木から生る実で、球体とそれを覆う円の形をした赤色の木の実だよ!」
「正直、しばらく森には行きたくないのだが……」
森には毎回、何かしらのトラブルが発生するものなのだろうか。もっとさ、平地とか、洞窟とか、ダンジョンとか無いのか? この次は森以外を選ぼう……。
「そもそも、誰一人としてはぐれなければ、問題は無いでしょう?」
「いつから起きてたんだよ。ていうかそもそも、お前が俺を遠くに飛ばさなければよかっただけの話だろ、リノエ!」
「ふぁ~……ん、何か言ったかしら」
「いや、なにも」
確かに、リノエの言うことも一理ある。桁違いの火力を使いこなすコイツらと居れば、危険度も下がる……のか? 逆に危なっかしい様な気もしなくは無いのたが。まあ、生存率が高まることに違いは無いか。
しかし、リノエの睡眠時間はよく分からない。勝手に寝てると思えば、ふとした時には起きてるし、慣れるのに時間がかかりそうだ。
さてと、可哀想な子犬におやつでもあげてクエストをこなして来ますか。
「ほいっ、特大おにぎり」
「わんっ! ……じゃなくて、ありがとうイツキ……!」
◆◇◆◇
目的地への道中、再び眠ったリノエをフィリスがおんぶしながら歩いている。そして、俺は少し気になることがあったので、イヴにとある質問をしてみた。
「なぁ、イヴ」
「んー? なーに?」
「ノエルはもう街を出たんだよな」
「そうだよー。そういえば、イツキは居なかったね」
「丸一日寝てたからな……」
そう、俺はトレントのルクと戦った翌日を全て睡眠に使ったのだ。ここで言っておくが、現実逃避では無い。ちなみに、元々その日は休みだったため、誰も心配して来ない。
そして、ちょうどその日に勇者様と名医先生はこの街を後にした。
「そうそう、おねえがイツキへお手紙だって」
「ん、なんだろ」
俺は、イヴが出現させたゲートから取り出す紙を受け取った。手紙よりゲートが気になって仕方ない。
「なぁ、そのゲートってなんなんだ?」
「ん? あぁ、これはボクのギフトスキル《異空間》だよ。ぶっちゃけ冒険者にとってハズレスキル。えへっ」
「可愛い……じゃなかった。凄い便利そうだよな」
「基本的に収納くらいしかできないよー? まあ、それを活かした戦い方はシュミレーション済み!」
そう言いながらイヴは、両手でそれぞれゲートを開き、収納していたであろうナイフを左右交互に、高速で行き来させ始めた。見れば見るほど速度が増している。それより顔が凄い楽しそう……。
「ほら」
「普通に危ないから、人の近くでするな‼」
「ちぇっ」
「じゃあ、手紙読むか。どれどれ……」
俺は手紙を広げ、目で読み始めた。
イツキくんへ。
友達の旅立ちに来なかった事について、私はものすごく傷付きました。なのでしっかりと弟のイヴの面倒を見てください。
私は勇者として次の街へ行かなければなりません。なので、冒険者となった可愛い弟の面倒を見る機会が無くなると思うと……まあ、一ヶ月後にまたそっちに行くけどね!
とりあえず、イヴにはイツキくんと同じ宿の部屋を借りて済ませる事にしたわ。あの子もまだ子供だからしっかりと面倒を見てくれると助かるの。あ、もちろん手を出したらイツキくんを燃やすわね。
それでね、私の弟はとーってもかわちいから、凄く心配なの。それこそ怪しい人に襲われないかとか。ほらだって、外見は女の子そのものじゃない! あ、そうそう可愛いと言ったら、イヴの成長記録が記念すべき四百冊目を迎えたの! 我が弟ながら、暇さえあれば見返しちゃうほど可愛くてね、あの小さくて可愛らしい太ももと、同じシャンプーを使ってるはずなのにイヴからは凄くいい匂いがするの! あぁ、待って、寝顔が……寝顔がすごく可愛い! ちょっとメモ代わりに使うわね。
寝顔、可愛い。寝息、可愛い。髪、サラサラ。肌、潤ってる。スタイル、綺麗。今夜も可愛い。
ざっとこんなものね。これも成長記録に載せるの。趣味って本当に楽しいわ! あ、しまった。イツキくんへのお手紙スペースが少なくなったわね。
とりあえず、防犯面は頼んだわ。というか、イヴと一緒に居れるのずるくない? そうだ! イツキくんには近況報告をお願いし――
「――よし、冒険再開」
「やっぱりノエルの過保護は抜けないな……」
「「……」」
文章がびっしりと敷き詰められた紙を六割程度読んだところで俺は紙を閉じた。頑張って読んだ方だと思う。
しかし、これが女の子からの初お手紙だなんて……。隣から覗いてたフィリスもげんなりとしている。
「? 何が書いてあったのー?」
「お前、幸せ者だな」
イヴは疑問符を頭に浮かべた。こんな文章、ヒソウしか喜ばないぞ。アイツはノエルからだったらなんでも貰って喜びそう。だってアイツ、ノエルのために冒険者やってるくらいだもん。
しかし、何故だ。どうしてこの世界には残念美少女しか存在してないんだ。メルや姫月ちゃんが凄く可愛く思えてきた。元々可愛いけど……ん、待てよ。姫月ちゃんというものがありながら、メルと交際……これ、浮気なのかな。
いや、そもそも姫月ちゃんとは交際してないし、メルとも交際してない、つまりは交際経験ゼロ。
聞きたくなかった事実を再認識させられて悲しいだけの俺であった。
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