第28話「凹凹凹凸パーティ」

「あれが依頼の大量発生したスライムだね!」

「お、おい、あんま騒ぐなよ、気付かれちまうだろ」

「いいじゃん、行こうよ!」


 北門から出てしばらくすると、坂道があり、登れば登るほどに木々は増え、気が付くと『アヌリの森』へ入っていた。

 アヌリの森は、ここらじゃ一番大きな森だ。樹木から生える薄紫色の葉が怪しさを引き立たせる。

 隣では、うずうずしながら今にも飛び出しそうなイヴ。そしてもう一人……戦闘狂。


「い、イツキ……剣が戦いたいと叫んでいるぞ!」

「それはお前の心だ、剣のせいにするな。それに、昨日散々戦っただろ」

「あの程度じゃ物足りないのだ」


 遂にフィリスの手が震えだした。依存レベル高いな、おい。

 まあ、この二人に任せればすぐに終わるだろう。力任せでさっさと終わらせる作戦に変更だ。


「俺とイヴは散乱した小さいスライムを、フィリスはアーススライムや大きいのを頼む。リノエは遠くに行くスライムや離れた箇所に居るスライムを遠距離から仕留めろ」

「「「了解」」」


 スライムの数は……二十匹程度。大きいのが数体、残りの小さいのがぷよぷよと飛び跳ねており、様々な属性のスライムが生息していた。

 クエストでは四十匹の討伐だったために少し足りないが、半分も稼げるなら問題はない。

 指示を出した後、最初に動き始めたのはイヴだ。フィリスも同時に飛び出したが、イヴの方が素早い。リノエは後方から魔法の準備をしている。俺も続いてスライムに飛びかかる。


「スライム狩りだぁぁぁ! 《グラキエス》ッ!」


 俺の手には冷気が漂い、それをぶつける様にスライムに向けて放つ。その攻撃が当たったのは、水属性のスライム――アクアスライムだ。


「……固まった? 確か性質は水だから、氷魔法で冷やしたら凍るのか……」


 凍ったアクアスライムを柄頭で砕く。

 潤っていたスライムはガチガチに固まっており、亀裂が入った後に散った。一匹目討伐である。おっと、次のお客さんだ。


「必殺・《剣を投げる》ッ‼」


 ビリビリと体で電流を流しながら、ぷよぷよとこちらへ向かって来るスライムへ、俺は手持ちの剣を投げた。おそらくアレは、雷属性のサンダースライムだろう。


「よし、二体目!」

「……まだまだこれからだよ! 《アクセラレーション》」


 気付けば、俺が二体倒して喜んでいるうちに、イヴはダガーを両手に構えており、手際良くスライムに攻撃をしていた。ダガーなんてさっきまではどこにも無かったが、おそらく今朝に見た収納スキルか何かを使用したのだろう。

 そして、イヴの移動速度はスキルによって強化され、瞬く間に次々とスライムが弾け飛ぶ。集団戦に強い戦闘スタイルだな。一方、フィリスは……。


「私の新しい技を見せてやろう……!」


 フィリスは大剣を地面に突き刺すと、柄頭の部分を両手で握り、魔力を剣へと送る。


「《昇り龍》ッ‼」

「お、おい……やりすぎだ!」

「あれは、魔力によるものね。実体は存在しないわ」


 フィリスが技名を叫んだ途端、地面から紫色の巨大な龍が天を目掛けて昇って行く。だが、どうやら魔力で動いているみたいで、実際に触れてもすり抜けるみたいだ。

 尻尾まで現れた頃には、龍に触れたスライムが次々と破裂しているのが見て取れた。


「《降り龍》ッ」


 二十メートル程の身体で空を動き回った後、フィリスの合図で地上へと戻っていく。


「す、すげぇ……」

「油断しない方がいいわよ。触れればすり抜けるけど、身体への影響は凄まじいわ」

「先に言え、変に驚いたじゃねぇか」


 環境破壊だのなんだので冒険者ギルドから怒られたくないので、あまり暴れて欲しくはない。

 すると、勢いよく降りた龍は地面へと戻っていき、辺りには爪のような尖った物が六本ほど突き出す。そのうちの一本は俺のすぐ隣から勢いよく飛び出した。あと数センチのズレであの爪が突き刺さっていただろう。


「……っぶなぁ!」

「すまない、イツキ」

「ボクにも当たりそうだったんだけど⁉」

「もっと周り見ろよな!」

「戦闘になると、な……」


 おずおずと謝るフィリスには、俺だけでなく、イヴもお怒りの様子だ。

 別に俺は短気ではないと思っている。しかし、こんなにも怒りが込み上げる原因は、このパーティのせいだろう。

 このパーティには、戦闘狂の龍剣士を始め、生意気な魔女っ娘に、気分屋のなんちゃってロリータが所属しているのだから。あと、超絶イケメン高スペ魔法剣士。


「リノエ、フィリスに向かって風魔法だ!」

「分かったわ」

「り、リノエ、やめてくれ!」

「《ヴェントゥス》」


 リノエは珍しく俺の指示に従い、手に魔力を込める。何気に戦闘外で俺の指示を聞いたのは初めてじゃないか? ポ〇モンマスターに一歩近付いたのかもしれない。

 そして、リノエの手のひらには風が集まり、球状となった風の玉はリノエの手から放たれる。

 その行先は――


「は、おい! ちょっと⁉ ぐはっ……!」


 ――俺だった。

 やはり、リノエが素直に俺の言うことを聞くだなんて有り得なかった。もう二度と信頼しねぇ。

 そう誓った俺は、風圧に負けて木々の上を渡り、森の奥へと吹き飛ばされていった。

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